Febri TALK 2021.04.30 │ 12:00

中村健治 監督

③『鴉 -KARAS-』から学んだ
足し算で作り上げる演出スタイル

連載第3回で取り上げるのは、中村がスタッフとして参加した『鴉 -KARAS-』。第2回に登場した細田守監督とは「正反対だった」という、さとうけいいち監督の創作スタイルとは? 当時のことをじっくりと振り返ってもらった。

取材・文/宮 昌太朗 撮影/須﨑祐次

※新型コロナウイルス感染予防対策をとって撮影しています。

アイデアが降りてきたらすぐ取り入れる。そのライブ感がスゴい

――3本目はさとうけいいち監督のOVA『鴉 -KARAS-(以下、KARAS)』。中村さんは第1話のコンテ・演出と第6話の演出(さとう監督との連名)でクレジットされていますね。
中村 東映アニメーションからタツノコプロに転がり込んだときに出会ったのが、けいいちさんだったんです。そのとき、けいいちさんは『The Soul Taker~魂狩~』のオープニングをやっていて。スタジオでブラブラしていたらある日、けいいちさんに「キミ、暇そうだな」みたいな感じで声をかけられたんです。「それほど忙しくないです」って答えたら、「じゃあ、これをやりたまえ」と言われて、そのままオープニングの演出をやることになったんです。

――すごい行き当たりばったりな(笑)。
中村 そのあと細田さんに誘われて、ジブリで『ハウルの動く城』をやることになるんですけど、結局、『ハウル』がペンディングになっちゃって。「これからどうしようかな」って自宅で布団をかぶっていたら、けいいちさんから電話がかかってきたんですよ。「キミの机がもうあるよ」と(笑)。

――それが『KARAS』だった。中村さんが参加した時点で、制作はどれくらい進んでいたのでしょうか?
中村 企画書が4~5枚みたいな状態だったんですけど、けいいちさんってアイデアが湯水のように出てくるんですよ。面白いのは、細田さんってすごく知的でロジカルなアニメの作り方をする人なんです。一方、けいいちさんは感覚。そう言うと「俺はロジカルだ」って怒られるかもしれないですけど(笑)、僕からするとすごく感性の人だなって感じがあって。細田さんのところでロジカルなアニメ作りを経験したあとで、けいいちさんのところに行くと、もう何もかもが違うんですよね。

――「感性の人」というのは、具体的にはどういうことなんでしょう?
中村 それこそ毎日、言うことが違ったりとか(笑)。バン!とアイデアが降ってきたら、すぐに「こういう感じでやろう!」って、そのライブ感がスゴい。毎日、新しいことを思いつくし、それにしたがって現場の空気もどんどん悪くなってくる。

――あはは、なんとなくわかります。
中村 だからまずは、正規のアニメの作り方を一度棚に上げて、けいいちさんのやり方に慣れないといけないんです。それこそ「怒ったら負けだな」みたいな感じなんですけど(笑)。でも、どうしてそういう風に思えるかというと、けいいちさんから出てくるアイデアが抜群に面白いからで。「よくそんなことを思いつけるな」みたいなアイデアが毎日出てきて、しかも実際にやろうとすると、どれもめちゃくちゃ大変。要するにけいいちさんは引き算で作品を成立させるというよりは、どんどん足し算をしていって――あるいは色を加えていくことで面白くしていくタイプなんですよね。

――なるほど。
中村 しかも、けいいちさんは僕がかつて馬鹿にしていた特撮が大好きなんです。実際、特撮のデザインのお仕事なんかもやられているし、作り方も立体に落とし込むことを想定して作っている。打ち合わせでも特撮用語がバンバン飛び交うし、もう『KARAS』をやるには特撮がわかっていないとできないな、と思ったんですよね。それでけいいちさんに相談したら『ウルトラマン』のBlu-rayを借してくれたのでそれを見たり、あとは「『仮面ライダークウガ』を見ないと作れない」って言われて見たり。……で、実際に見たら、これがめちゃくちゃ面白かったんです(笑)。小学生のときは馬鹿にしていた特撮の世界にどっぷりハマって「今まで馬鹿にして申しわけなかった!」みたいな(笑)。平成ライダーも全部見ましたし、けいいちさんが好きなアメコミも片っ端から読んで、半年間くらい猛勉強して。そうしたら、気づいたときには打ち合わせで何を言っているのかわかるようになったんですよね。「あっ、これで作れるな!」という。

――スパルタ教育の成果があった。
中村 しまいには、海外特撮の食玩を箱買いしていましたからね。家もすさまじい状態で、上京してきた親が部屋を見て、小さな悲鳴を上げるっていう(笑)。今だと3DCGで作るようなものも、当時は実際に立体のモデルを作って、それを合成して画面を作る。その発想がすごく面白かったんです。そのとき、デザインを考えるときは360度全方向から見て作るっていう癖がインストールされた気がします。「正面から見るといいけど、アオったらどう見えるかな」とか。

――間違いなく、中村さんのその後のお仕事にも生かされているわけですね。
中村 僕のなかには、細田さんから吸収してきたなって部分と、けいいちさんに教えてもらったなっていう部分があって。両極端で、真ん中がない感じではあるんですけど(笑)、その両方があるんですよね。「引き算で作りましょう」もいけるし、「どんどん足していきましょう」も面白い。どっちにもいける、みたいな感じがあるんです。endmark

KATARIBE Profile

中村健治

中村健治

監督

1970年生まれ。岐阜県出身。2006年に放送された『怪~ayakashi~』内の一篇「化猫」が大きな反響を呼び、その後は人気演出家のひとりに。これまでの監督作に『モノノ怪』『空中ブランコ』『C』『つり球』『ガッチャマン クラウズ』などがある。

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