Febri TALK 2023.07.31 │ 12:01

中村章子 アニメーター/演出家

①DNAレベルで刷り込まれた
『機動戦士Zガンダム』

中村明日美子原作の劇場アニメ『同級生』の監督を務めるなど、さまざまな作品にアニメーター、演出家として参加する中村章子。彼女のアニメ遍歴を聞くインタビュー連載、その第1回は「いまだに忘れられない」と語る、富野由悠季監督の名作をめぐって。

取材・文/宮 昌太朗

カミーユが殴られるのが可哀想すぎて、つい毎回見てしまう

――中村さんは、子供の頃からアニメを見ていたのでしょうか?
中村 小さい頃に住んでいたのがまったく娯楽のない田舎だったこともあって、テレビを見るのが大好きだったんです。テレビが消えると不安になるというか、興味のうすい番組でもついている限りはずっと画面を見ていた気がします。歳の近い兄がいるんですけど、両親がテレビをあまり見ない人たちだったので、兄が好きで録画したロボットアニメを流していることが多くて、私も一緒に見ていた感じでしたね。

――お兄さんの影響が強かったわけですね。
中村 サンライズ系のロボットアニメを、ずっと見ていた記憶があります。夏休みになると『機動戦士Zガンダム(以下、Zガンダム)』と『機動戦士ガンダムZZ』を早朝に放送していることが多くて、朝に1回見て、午後も録画したものを繰り返し見ていましたね。見ていたというか、他のことをしていても常にBGMみたいに流れていたというか。

――1本目に挙がった『Zガンダム』は、そのタイミングで見たわけですね。
中村 とにかくずっとループで流れていたのをおぼえています。なので、今でも何かのきっかけで見ると、BGMがかかった途端に実家にいるような気分になりますね(笑)。DNAレベルで刷り込まれている、みたいな感じでしょうか。

――あはは。でも、その頃ってまだ小学生ですよね。『Zガンダム』は内容的にちょっと難しいんじゃないでしょうか。
中村 いやもう、当然わからないです(笑)。とりあえず、主人公のカミーユを追いかける感じで見てはいるんですけど、とにかくカミーユが殴られるじゃないですか。それがもう可哀想すぎて、それでつい毎回見てしまう。ニュータイプだし、きっとのちのち活躍するんだろうな、その力で大人たちを黙らせてくれ!みたいな気持ちで見ていたんじゃないかなと思います(笑)。

――あらためて考えると『Zガンダム』の登場人物って、みんなすぐに手を出しますよね。
中村 初対面でいきなり殴ってくるウォンさんとか、かなりトラウマです(笑)。エマ中尉にしても、頼りになるお姉さんみたいな良さげな雰囲気を出しておいて、ことあるごとに殴るし。最初はまだ指導の延長くらいの感じだったと思うんですけど、後半になると「八つ当たりなんじゃないか?」っていうくらい理不尽に殴る(笑)。

――そういうシーンはストレスじゃなかったですか?
中村 ストレスはあったと思いますけど、でも普通じゃない人たちのやりとりが「理解できないけど何か凄そう」みたいに見えていたのかなと。作品的には宇宙とかコロニーでロボットが戦っている、そういう非現実的なものを目の前で見せられていることが単純に楽しかったんですよね。いろいろなモビルスーツが出てきて戦って――モビルスーツ自体にはそれほど興味は抱かなかったんですけど、変形したりファンネルを飛ばしたり、スケールの大きいものを見るのも楽しかったというか。あとはシーンの切り替えなど、飽きないテンポ作りを丁寧にされていたのも大きい気がします。

いちばん好きなのはロザミアのエピソード

――思い返してみて、いちばん好きなエピソードは?
中村 いちばん好き、というか何度も見返すのはロザミィ(ロザミア・バダム)のエピソードです。最初はクールな女性パイロットとして登場したと思うんですけど、それからしばらく間(あいだ)が空いて、次に出てきたときは記憶操作されて、内面だけちょっと幼児化して出てくる。

――「お兄ちゃん!」という(笑)。
中村 そのギャップがすごかったですよね。見た目はどう見ても大人の女性だし、作中でもまわりから「さすがに無理じゃない? おかしくない?」ってツッコミを入れられるんですけど、そこをわりと力技でねじ伏せていく。そういう彼女を受け入れるカミーユも理解できなかったですけど(笑)、あの辺りのエピソードが印象的でした。しかも、彼女が本当はどういう人格だったのか、最後までほぼ描かれないじゃないですか。そのせいで逆に、記憶に残ったというのはあると思います。「結局、彼女って何だったんだろう?」と。

――昇華できないまま、中村さんの中でずっと残り続けてしまった。
中村 たとえば、フォウ・ムラサメも同じように記憶をいじられているキャラクターですけど、でも彼女には自分の感情でカミーユに好意を持ったり、ちょっといいシーンが用意されているんです。でも、一方のロザミィは不遇すぎるというか。他にも『Zガンダム』には、印象的な女性キャラクターがたくさんいるんですよね。レコアさんやベルトーチカみたいな性格の人ってけっこう身近にいるなあとか、大人になってふと思い出したり。そういう意味でも、忘れられない作品になっているんですよね。

――登場するキャラクターの絵を模写したりは?
中村 北爪(宏幸)さんの絵柄が好きで、真似して描いていました。『Zガンダム』は安彦(良和)さんがデザインされていて、北爪さんは作画監督で入られていたんですけど、次の『機動戦士ガンダムZZ』は北爪さんがキャラクターデザインをされていて。デザイン的には『機動戦士ガンダムZZ』のほうが好きでした。女性キャラクターのシャープでスタイリッシュなプロポーションとか、色気のある表情が好きでしたね。

――アニメーターとして仕事を始めてから、あらためて見て、参考になったところはありますか?
中村 うーん、参考になったところはないですね。「ない」というとあれですけど、今見返してもやっていることが複雑すぎて、参考にできると思えないというか。子供の頃に見すぎたせいもあると思いますけど、キャラの実在感もすごいし、アニメなんだけどアニメとして見られない部分もあって、ただただ傍観するだけですね。endmark

KATARIBE Profile

中村章子

中村章子

アニメーター/演出家

なかむらしょうこ 岡山県出身。専門学校を卒業後、Production I.G、ガイナックスを経て、現在はフリーとして活躍。これまでの主な参加作品に『輪るピングドラム』(チーフディレクター)、『ジョゼと虎と魚たち』(プロダクションデザイン)など。2016年には初監督作『同級生』を発表した。

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