Febri TALK 2023.08.02 │ 12:01

中村章子 アニメーター/演出家

②TVアニメにはない新鮮さを感じた
『トップをねらえ!』

アニメーター/演出家として、多彩な作品で活躍する中村章子に、これまでに影響を受けたアニメについて聞くインタビュー連載。第2回は、小学生の頃に初めて見たという傑作OVAシリーズについて。『機動戦士Zガンダム』とはまた違う魅力が、その作品には宿っていた。

取材・文/宮 昌太朗

「『ガンダム』と「りぼん」が合体してる!」って思った

――『機動戦士Zガンダム』のあとも、継続してアニメを見ていたのでしょうか?
中村 そうですね。兄も中学生の頃まではロボットアニメを見ていたと思うんですけど……。ただ、兄は本当にロボットにしか興味がなくて、ある時期から「録画テープがもったいない」という理由で戦闘シーンがあるBパートからしか録画しなくなっちゃって。それで兄とは別に、好きなアニメを自分でチェックするようになった気がします。その頃に、友達の家で『トップをねらえ!(以下、トップ)』を見たんです。

――2本目に挙がったのが、まさにその『トップ』ですね。
中村 友達のお兄さんがその頃、高校生ぐらいで、たしか発売されて間もないVOL.1を持っていたんです。そのお兄さんがけっこうマニアな人で、アニメとか映画のビデオをとにかくいっぱい持っていて。それで遊びに行ったときに「どれでも好きなのを見ていいよ」って言われたんですね。で、とりあえず「『となりのトトロ』が見たい」って言ったら「そんな、テレビで見られるようなのを見てどうするんだ」みたいなことを言われて。そこですすめられたのが『トップ』だったんです。

――「好きなのを見ていい」と言ったわりにはスパルタな(笑)。面白かったですか?
中村 面白かったですね。その前に『機動戦士ガンダム』でロボットを見慣れていたというのはあるんですけど、ロボットアニメというと「宇宙で戦争している」とか遠い未来っぽい世界観だと思い込んでいたんです。

――『トップ』はとくに冒頭、そういう世界観から外れていますね。
中村 しかもアニメにハマるより前に『りぼん』だったり『なかよし』だったり、少女マンガを好きで読んでいたので、『トップ』を見たときに「『ガンダム』と『りぼん』が合体してる! すごい!」って思ったんです。まったく別の世界にあると思っていたものが、こういう風に合体するんだ!って。少女マンガ的な日常シーンとか、学校から話が始まるところも入りやすかったですし、友達数人で見ていてアニメが好きなのは私だけでしたけど、他の子も鉄下駄シーンとか笑いながら楽しく見ていましたね。

――なるほど。『トップ』のパロディ的な要素が、むしろいい入り口になった。
中村 ちなみにそのお兄さんから「次はこれを見なさい」ってすすめられたのが、劇場版『機動警察パトレイバー』の1作目で。あれも現実っぽい舞台設定に加えて、ストーリーも面白くて画面もかっこいい。スタッフに興味を持つようになったのは、この2作品がきっかけだったと思います。

――そのときに見たのはVOL.1だけですか? 残りのエピソードは?
中村 たしか次の年の夏休みか冬休みにテレビ放送があって、そこで最終話まで一気に見た気がします。編集でけっこうカットされていたんですけど、そのときに録画したものを何度も繰り返し見ていました。物語のスケール感もどんどん大きくなっていくし、とくに第五話、最終話は画面のクオリティも上がって、話の盛り上がりとあわせて感動しました。印象に残っているのは、ディテールというか細かい設定ですね。戦艦の中に見おぼえのある電車が走っているとか、罰でレンズ磨きをさせられるとか。「そうか、こういうのもちゃんと人の手で磨くんだ!」みたいな、リアリティを感じる描写が多くてとにかく刺激的でした。

女性キャラクターの身体のラインが、すごく美しく描かれている

――ドラマ的な部分で印象に残っている場面は?
中村 話の筋立て自体はシンプルなので、見せ方の部分ですね。第二話でお父さんの船が見つかるんだけど、お父さんとは結局会えないシーンはショックでしたし、パートナーになった男の子が最終的に死んだのかどうか、はっきり見せないところも悲しいを通り越して怖さもあって。ウラシマ効果で親友のキミコやお姉さまと年齢が離れていって、それぞれと再会したときの昔とは違う距離感とか、見ながら緊張していましたね。

――ドラマとしてしっかり構築されている。
中村 エンタメとして素直に楽しんでいたと思います。それ以外にも突然デュエットが流れたりといった謎の仕掛けも、それまでテレビで見ていたアニメにはない新鮮さがありました。

――なるほど。
中村 あと、出てくる女性キャラクターの身体のラインが、すごく美しく描かれているんですよ。制服がハイレグなのはどうかと思うんですけど(笑)、腰からお尻、太ももにかけてのバランスがすごくキレイに描かれていて、真似して描いていた記憶があります。

――キャラクターデザインは美樹本(晴彦)さんですよね。
中村 美樹本さんの柔らかいラインと、肌の露出が多いコスチュームの組み合わせなので、肉感みたいなものを意識させられた、というのはあると思います。第一話の体操着はトップスがバストの膨らみでちょっと前に浮いていて、そのヒラヒラした薄い布の質感が伝わってくるのも好きだったんですが、第二話の制服からはそれがなくなって残念でした。第五話かな、キミコと再会したあと、ノリコがひとりでベッドに寝そべりながら、ちょっと感傷的になるシーンがあるじゃないですか。

――親友の同級生が自分より歳上になっていて、取り残されたような気分になるという。
中村 真面目なシーンなんですけど、ノリコがノーブラのせいで動くたびに乳首がチラチラ見えるのが気になって。お父さんの写真を抱きしめて感傷にひたっているけど、「見えてるよ!?」と誰かに突っ込みたくなる(笑)。意図したサービスなのか、アニメーターのアドリブなのかはわからないですけど、小学生としては見てはいけないものを見ているようでソワソワしましたね。でも、キレイに作画されているし、見ずにはいられない。しんみりした雰囲気とそういったディテール描写で、結果的に情報量の多いリッチなものを見ている気分にさせてくれたのも、好きな理由だと思います。endmark

KATARIBE Profile

中村章子

中村章子

アニメーター/演出家

なかむらしょうこ 岡山県出身。専門学校を卒業後、Production I.G、ガイナックスを経て、現在はフリーとして活躍。これまでの主な参加作品に『輪るピングドラム』(チーフディレクター)、『ジョゼと虎と魚たち』(プロダクションデザイン)など。2016年には初監督作『同級生』を発表した。

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