Febri TALK 2022.02.23 │ 12:00

野村和也 アニメ監督/演出家

②独特な魅力に
とりつかれた『フリクリ』

TVアニメ『憂国のモリアーティ』の野村和也監督のルーツを掘り下げるインタビュー連載の第2回は、破天荒な作風が魅力の傑作OVAをセレクト。自身の監督作とはイメージの違う作品に、何を見たのか。

取材・文/前田 久 撮影/村上庄吾

※新型コロナウイルス感染予防対策をとって撮影しています。

描かれている子供と大人のコミュニケーションの形が好きだった

――次の作品は『フリクリ』です。監督のキャリアや作風を考えると少々意外でした。知ったきっかけは何でしたか?
野村 上京して専門学校を卒業したあとに入社したSTUDIO 4℃で、撮影をやっていた方に「面白いアニメがあるよ」と教えてもらったんです。

――今回、選んだのはどのような理由で?
野村 感覚的な話で申しわけないのですが、すごく独特な内容じゃないですか、『フリクリ』って。中身があるのかないのかもわからないし、絵コンテも演出も話数ごとにノリが違う。それでも、主人公である小学生のナオ太が、突然現れた年上の女性のハル子に振り回される様子が、とにかく自分には面白かったんです。背伸びしたくて、高校生と付き合っているんだかいないんだかわからない状態にいる小学生が、大人によって結局自分はまだまだ子供なんだと痛感させられる過程に面白みを感じたというか。大人の世界を子供が体験する様子に惹かれたというか。

――大人と子供の対立軸に感じるところがあった?
野村 大人が描かれていたことは、大きかった気がします。でも、子供は子供で、物語のなかで成長するんですよね。少年が彼なりの男らしさを身につける。この作品で描かれている子供と大人のコミュニケーションの形が、なんだか好きだったんです。

――映像的な魅力はどうですか?
野村 もちろん、作画もすごくよかったし、カッコいいシーンもいっぱいあって、そういうところも好きでした。お話も映像も、自分の作品にはっきりと影響が表れているところはないかもしれないんですけど、好きすぎて、教えてくれた人から借りたビデオが擦りきれるくらい見ました(笑)。

――ひどい!(笑)
野村 結局その人は「DVDで買い直したからもういいよ」みたいな感じで、くれたんじゃなかったかな。はっきりとはおぼえていないんですけど。それくらい繰り返し見たし、原画集も買ったし、その魅力にとりつかれました。単純に繰り返し見た回数でいうと、人生の中でダントツ1位のアニメですね。

――しかし、そこまで入れ込んだアニメからの影響が明確にお仕事に表れている印象がないのが不思議です。
野村 ですよね。まだアニメーターとしての仕事がメインだった頃、いつかは似たような作画をやってみたくて、一生懸命真似してみたんですけど、できなかったですね。ただ、そもそも僕自身はI.G作品のようなリアルな雰囲気の絵を全然描いていなかったんですよ。

――そうなんですか?
野村 子供の頃に見ていたアニメは『聖闘士星矢』や『ドラゴンボール』『魔神英雄伝ワタル』『魔動王グランゾート』といったタイトルで、二頭身や三頭身のキャラばっかり描いていました。かわいいものが基本的には好きなんです。ただ、物語としては大人の物語が好きで。だから、いつか子供向けのタイトルもやってみたいと昔は思っていたんですけど、どんどんそこからは離れていってしまった(笑)。『フリクリ』に限らず、好きで見ていたものと現在仕事で扱っているものの間には、大きな差がありますね。

――なるほど……。それにしても『フリクリ』にそこまで強く惹きつけられたのは本当に不思議です。何か原体験、トラウマ的な記憶は思い当たりませんか?
野村 原体験ですか……。小学生の頃、「何か特別なことが起こらないかな」とずっと思いながら過ごしていた時期があったんですよ。『天空の城ラピュタ』みたいに、空から美少女が降ってこないかなぁ、とか(笑)。何かそういう、自分の身に起こってほしかったぶっ飛んだ出来事が描かれているアニメではあったかもしれない。……ああ、そうですね。お姉ちゃんがほしかったな、という気持ちもあったんですよ。

――お、気になります。
野村 ウチは兄弟しかいなくて、しかも年子なものだから、ケンカばっかりしていたんです。だから、それを仲裁してくれる優しいお姉ちゃんがすごくほしかった。で、記憶をもう少し掘り起こすと……近所に、ちょっと年の離れたお姉ちゃんみたいな女の子たちがいたんですよ。姉妹で、自分よりも5~6歳上だったかな。お姉さんのほうは本当におっとりした優しいお姉ちゃんで、妹さんのほうはどちらかというとハル子に近いというか。ちょっとやんちゃで、口調もちょっと男の子っぽかった。その妹さんとは、学校の行き帰りに一緒にいることが多かったんです。だから、自分がほしい理想のお姉ちゃんのイメージに近いのは姉妹のお姉さんのほうだけど、よくつるんでいたのは妹さんのほうで、なんだかそのふたつのイメージを重ねてハル子を見ていたのかもしれないです。今、突然思い出したくらいなので「もしかしたら」なんですけど。

――無意識に感じていたかもしれない。
野村 小学校を卒業して以降はほぼ会う機会はなかったし、もう顔もはっきりおぼえていないんですけどね。恋愛感情みたいなものも当然なくて。ただ、なんとなく「お姉ちゃん」という存在に惹かれるものが、子供の頃にあったのはたしかですね。endmark

KATARIBE Profile

野村和也

野村和也

アニメ監督/演出家

のむらかずや 1978年生まれ、長野県出身。アニメ監督、演出家。STUDIO 4℃を経てフリー。『戦国BASARA 弐』で監督デビュー。主な監督作品に『ROBOTICS;NOTES』『攻殻機動隊 新劇場版』『ジョーカー・ゲーム』『風が強く吹いている』『憂国のモリアーティ』など。

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