Febri TALK 2021.03.26 │ 12:00

大河内一楼 脚本家

③『OVERMANキングゲイナー』
脚本家としてのレベルアップを実感した

脚本家・大河内一楼の「人生を変えたアニメ」に迫るインタビュー連載の第3回は、自身がシリーズ構成として参加した『OVERMANキングゲイナー』について。プロの脚本家としてのレベルアップを実感した富野由悠季監督との作業を語る。

取材・文/森 樹 撮影/須﨑祐次

※新型コロナウイルス感染予防対策をとって撮影しています。

富野さんとの濃密な共同作業で、 脚本の密度を上げる大切さを学んだ

――3本目に挙げてもらった『OVERMANキングゲイナー(以下、キングゲイナー)』にはシリーズ構成で参加していますね。
大河内 『キングゲイナー』での個人的な目標は「富野さんを刺激する異物であること」でした。富野作品が輝くのは、安彦(良和)さんや星山(博之)さんといった、富野さんと対等に渡り合うような人がスタッフとして入っているときじゃないかと僕は思っていたんです。だから、『キングゲイナー』でシリーズ構成にと言われたときに「富野さんのシリーズ構成を、僕が全部書き直していいのならやってもいいです」って、あえて生意気なことを言いました。

――すごいですね……。
大河内 もちろん「なんだと!?」って顔はされましたけど(笑)。でも、僕が書いたモノが結果的に富野さんに塗りつぶされたとしても、富野さんの化学変化のきっかけになれればいいんじゃないかと。富野さんに相談もせずに、いろいろなアイデアを勝手に脚本の形にして持ち込んでいました。怖いことしていますよね、昔の自分は。恐るべき無礼さです(笑)。

――企画段階の『キングゲイナー』はもっと複雑な話だったのでしょうか?
大河内 あんなに明るい感じではなかったですね。

――世間では「白富野」と呼ばれるほど明るいシリーズという認識がありますが、それは大河内さんが書き直した構成がもとになっているわけですか?
大河内 いや、それは違うんです。僕も富野さんの企画書にのっとって構成を考えたんです。でも、いつのまにか富野さんのスイッチが切り替わってバーンと白くなった。踊るオープニングとかがあがってきて。富野さんは軽やかに変化していたのに僕は追いつけていなくて。だから、人間地雷の話なんかを書いていって、「これは違う」と富野さんにたしなめられたりして。

――『キングゲイナー』の制作時は、富野監督の隣の席で作業をしていたそうですね。
大河内 そうなんです。脚本家の黒田洋介さんが『無限のリヴァイアス』で監督たちと一緒にスタジオで作業していたという話を聞いて、その真似をしようと。まだ脚本家としての形が定まっていなかったので、良さそうなものはなんでも取り入れてみたんです。スタジオでの席の配置は、まず富野さんが自分の席を決めて、それから他の人たちが好きな席を選ぶという形でした。僕は富野さんとなるべく一緒にいたかったので、富野さんのすぐ隣にしたんです。富野さんからは「他にいっぱい空いているでしょ」って嫌な顔されましたけど(笑)。とはいえ、自分で選んだものの、ずっと富野さんの隣で作業するのはキツかったですね。『Zガンダム』的に言えば「プレッシャー」がすごい(笑)。

――作品自体は明るい雰囲気でしたが、スタジオにその影響はなかったのでしょうか?
大河内 あの楽しい感じはスタジオにもありました。富野さんも怒るときは怒っていましたけど、基本的にはすごく楽しそうに作業をされていましたから。

――『キングゲイナー』を終えたことで、脚本家としてどんな達成感がありましたか?
大河内 うれしかったのは、第17話「ウソのない世界」のときですね。シナリオを読んだ富野さんが早々にこの回は自分がコンテを書くと宣言されて。あの回は、人の心の声が周囲に漏れてしまうオーバースキルのお話で、普通に考えたら嫌な展開になるんですけど、僕はハッピーな展開にしたんです。富野さんにコンテを切ろうと思わせたことで、初めて富野作品に貢献できた気がしましたね。

――心の声が漏れてしまうオーバースキルを生かすと、普通は黒い話になってしまいそうですからね。
大河内 そうなんです。殺し合いになりそうなものを、主人公が想い人に「好きだー!」って告白してしまう。あのシーンを書けたことで、先行していた「白富野」にようやく追いつけたのかもしれませんね。

――なるほど。
大河内 達成感の話で言えば、富野さんの隣でプレッシャーと戦いながら『キングゲイナー』を書き上げたことで、僕は脚本家としてレベルアップしたなという実感があるんです。

――具体的にどの部分が、というのはありますか?
大河内 いや、もうすべてにおいてって感じですね。お客さんの立場だった『∀ガンダム』と違って『キングゲイナー』では富野さんも容赦なかったです。たとえば、僕が書いた20枚の脚本の19枚目にビシッと線を引いて「ここまででAパート!」と。つまり、そこまでを15分でやって、残りの15分に新しい面白さを足せということなんです。実際『キングゲイナー』は前半と後半に1回ずつ戦闘シーンを入れるのが基本で、そこで脚本の密度を上げることを教わりました。僕が脚本の密度とスピード感を手に入れられたのは、『キングゲイナー』を書いたおかげです。

――それくらいの影響を一作品で感じ取ったと。
大河内 特別な作品ですね。あの時代の富野さんと過ごした時間は、すごく濃密だった。代表作とか出世作とかいろいろあるけれど、人生が変わったと言われると、この3本しかありません。……恥ずかしいくらい、僕は富野さんが大好きなんですよ。endmark

KATARIBE Profile

大河内一楼

大河内一楼

脚本家

おおこうちいちろう 1968年生まれ。宮城県出身。アニメ・ゲーム系の雑誌編集者、フリーライターを経て、『∀ガンダム』にて脚本家デビュー。代表作に『コードギアス 反逆のルルーシュ』『プリンセス・プリンシパル』『SK∞ エスケーエイト』などがある。

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