Febri TALK 2021.03.22 │ 12:00

大河内一楼 脚本家

①こちらから接近したいと思えた
『機動戦士ガンダム』

『コードギアス』シリーズや『甲鉄城のカバネリ』で知られる脚本家・大河内一楼。その人生を変えたアニメ作品について掘り下げるインタビューの第1回は、アニメというものへの認識を180度変えたTVアニメ『機動戦士ガンダム』との出会いについて。

取材・文/森 樹 撮影/須﨑祐次

※新型コロナウイルス感染予防対策をとって撮影しています。

『ガンダム』を見ていなかったら、 アニメファンにも脚本家にもなっていない

――大河内さんが影響を受けた3本のアニメのうち、最初に挙がったのが『機動戦士ガンダム(以下、ガンダム)』でした。『ガンダム』に触れたのはいつ頃ですか?
大河内 小学校5年生ぐらいだったと思います。最初は見ていなかったんですよ。だけど、友達が面白いと言っていて、つられて見たんです。たしかランバ・ラルが登場するあたりから見たのかな? それですっかりハマってしまって。

――なるほど。
大河内 『ガンダム』にハマって、初めてアニメ誌を買ったんです。それまではアニメを見て「面白い!」と思っても、もう次の瞬間には忘れて遊びに行ったり、別の番組を見たりするものだったんですけど、『ガンダム』はもっと情報が欲しいなって初めて思ったんですよね。

――作品をさらに知りたくなる力があったと。
大河内 そうです。でも、当時はお小遣いも少なかったから、どのアニメ誌を買うか悩んだんです。『OUT』『アニメック』『アニメージュ』が本屋に並んでいて、すごく悩んで『OUT』を買いました。その理由は単純で、特集の文字量が一番多かったんです。アニメーターさんと初めて買ったアニメ誌の話をしたことがあるんですが、みんな「安彦(良和)さんのピンナップがあった」「原画集が入っていた」とかで選んでいたんですよ。アニメーターになるような人たちは、その頃から絵を見ていたんですね。一方で、僕は文字を見ていて。

――将来の職業選択にもつながる傾向があったわけですね。
大河内 そうですね。スタート地点から違うんだとびっくりした覚えがあります。ちなみにそのときに買った『OUT』は、アニメに対して、自分が初めてお金を出したものなんです。ここから僕はアニメファンになりました。雑誌を読めば、『ガンダム』と同じ監督(富野由悠季監督。当時は富野喜幸名義)の新作の情報を知ることができましたし、他のアニメも追いかけるようになりました。だから、『ガンダム』を見ていなかったら、アニメファンにも、アニメの脚本家にもなっていなかったでしょうね。

――『ガンダム』のどのあたりが、大河内さんの心にそこまで刺さったのでしょうか?
大河内 大人っぽかったんだと思います。表面上の芝居やストーリーだけじゃない、世界の「奥行き」が見える感じ。ロボットや戦争にも理屈があるし、モブキャラもきちんと生きていて、そこに人生があるのが感じられるというか。世界がきちんと存在している感じがしたんですね。

――プラモデルも作っていたんですか?
大河内 友達の購入権利のために行列に並んだことはありますが、そっちは興味がなくて。だから、同じ『ガンダム』好きでも、絵に興味がある人、お話に興味がある人、おもちゃに興味がある人と、いろいろなタイプの人がいましたね。

――そのなかでも大河内さんは物語と世界に興味を抱いたと。
大河内 もっと言えば、世界の描き方ですね。そこにある世界と人々の在り様が物語の都合じゃなくて、何気ない描写に見えても、よく見ると違う側面が見えてくる。

――それはセリフだったり、演出だったりで見えてくるものですよね。
大河内 そうだと思います。単なるモブキャラが、生活感を感じさせるセリフとか、ちょっと味のあるセリフを言ったりするんですよ。たとえば、『ガンダム』には配給のパンを隣の子供からくすねる老人が登場します。それまで僕が見ていたアニメではそんなことは描かないし、かといって、それをドラマにして老人の人生を追っかけるわけでもない。「こういう人もいるんだ」という提示に留めて、ササッと次の話にいく。それがね、また格好良かったんです。で、アニメ誌を読むとモブキャラにも細かい設定があることがわかるんですよ。アムロがお母さんと別れたときに後ろのバンに乗っていたのは間男、つまり愛人なんだよ、とか。評論家の解説や、先輩ファンの指摘で新たな発見があったり。

――視聴者がそうした世界を独自に補完する動きが起きたのは、想像させる余地があったからかもしれませんね。
大河内 だと思います。そういう意味でも、今まで見てきた受け身のアニメとはちょっと違って、僕のほうから接近したいと思えるアニメーションでした。

――脚本家になってから、改めて『ガンダム』のすごさに気づいた部分や、見方が変わったところはありますか?
大河内 先日、展覧会『富野由悠季の世界』に行って改めて思ったことでもあるのですが、まず富野さんが提示するアイデアの分量がすごいですよね。作品を新しく生み出すために、これほどの発想をして、メモを書いて、それをスタッフに伝えていたのかと。圧倒されました。

――たしかに一作品にかける圧倒的分量にまず驚きます。
大河内 しかも当時は、ひとつの作品を作りながら次の作品のアイデアも考えていた。『ガンダム』のあとに『イデオン』を作り、『戦闘メカ ザブングル』や『聖戦士ダンバイン』を作って『重戦機エルガイム』まで。切れ目なく毎年、しかもまったく新しいチャレンジがある作品を次々と。その頃、僕は中高生になっていて、アニメファンとして多感な時期に、その作品群に触れられたのは本当に良かったと思います。endmark

KATARIBE Profile

大河内一楼

大河内一楼

脚本家

おおこうちいちろう 1968年生まれ。宮城県出身。アニメ・ゲーム系の雑誌編集者、フリーライターを経て、『∀ガンダム』にて脚本家デビュー。代表作に『コードギアス 反逆のルルーシュ』『プリンセス・プリンシパル』などがある。最新作は内海紘子監督とタッグを組んだ『SK∞ エスケーエイト』。

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