Febri TALK 2021.03.24 │ 12:00

大河内一楼 脚本家

②脚本のイロハを学ぶことになった
『∀ガンダム』

脚本家・大河内一楼の「人生を変えた作品」に迫るインタビュー連載の第2回は、初脚本作となったTVアニメ『∀ガンダム』。雑誌の編集者からライター、小説家と活動領域を広げるなかでたどり着いた富野由悠季監督との仕事は、大きな転機となる。

取材・文/森 樹 撮影/須﨑祐次

※新型コロナウイルス感染予防対策をとって撮影しています。

星山博之さんに褒められていなかったら そのあと頑張れなかったかもしれない

――2作目に挙げていただいたのは、脚本家デビュー作の『∀ガンダム』です。そもそも、大河内さんはアニメ業界に入ろうと思っていたのでしょうか?
大河内 いや、まったく考えていなかったです。実家がレコード屋だったので、大学を卒業したら継ぐことになっていました。大学卒業後に、修行ということでレコード関連の会社に就職も決まっていたんですけど、僕が留年したせいで1年間ぽこっと空いたんですよ。さすがに仕送りをくれとも言えないので(笑)、『ドラゴンマガジン』(当時、富士見書房刊。現KADOKAWA)の編集アルバイトになったんです。

――業界には編集者として入ったと。
大河内 もともとゲームも小説もマンガも好きだったので、そのまま富士見書房で2年半くらい働いていました。さまざまな事情で家業を継ぐ必要もなくなったので、そのあとはアニメやゲーム雑誌に執筆するフリーのライターに転身して。そのうち小黒祐一郎(編集者・ライター)さんに声をかけてもらって、『少女革命ウテナ』の小説版を書くことになったんです。そうしたら「発注したらひと月で一冊書く便利な若手がいる」という話になったらしく、『機動戦艦ナデシコ』や『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』の小説版を書くことになりました。

――小説の執筆にも乗り出したんですね。
大河内 これが脚本家デビューにもつながるんです。『08小隊』のサンライズ側の窓口をやってくれたのが、後に『キングゲイナー』や『コードギアス』でプロデューサーとしてタッグを組む河口(佳高)さんだったんですけど、その河口さんから「『∀ガンダム』で脚本を書いてみないか」と誘われたんです。まるでわらしべ長者のように富野さんのところまでたどり着いて。

――一気にそこにつながると。
大河内 当時は脚本なんて書いたことも読んだこともなくて。でも、富野さんの久々のガンダム作品だし、「富野さんに会えるのなら」という軽い気持ちで打ち合わせに行って、脚本を書くことになったんですけど……出来上がった脚本はボロボロでした。

――家族のために暗殺者となった女性を描く「テテスの遺言」(第23話)の回ですね。
大河内 そうです。一応、脚本は受け取ってもらったんですけど、富野さんがコンテで半分以上直してくれて、なんとか使いものになる形になりました。でも、全然悔しくはなかったんですよ。素人だったし、「いきなりアニメの脚本が書けるわけないよな」と思っていましたから。記念受験というか「富野さんが怒っているところも見ることもできたし、よかったなぁ」って(笑)。でも、河口さんが「もう一本頑張りましょう」って言ってくれて。誘った手前、一本でクビにするのは忍びなかったんじゃないでしょうか。そんなに親切にされたら、さすがに2回目は失敗できないじゃないですか。とはいえ、勉強しようにも教科書も先生もいないから、手元にあった『∀ガンダム』の脚本、そのなかでも僕が好きだった『ガンダム』や『銀河漂流バイファム』を書かれていた星山さんの脚本をバカみたいに何度も読んだんです。

――もう覚えるくらいに。
大河内 100回くらい読んだら、なんとなく呼吸というかテンポがわかってきて。そうしたら、そのあとに出した稿はうまくいったんです。

――2度目の脚本は、第36話の「ミリシャ宇宙決戦」ですね。宇宙船に乗って初めて宇宙へ上がった地球民の一部が、その環境にとまどって地球へ帰ろうと蜂起するお話です。
大河内 そうです。もちろん、富野さんの修正が入っていないわけではないんですが、話の形はほぼそのまま使っていただけました。

――ちなみに、星山さんと会話を交わす機会はあったんですか?
大河内 ありました。でも、脚本の技術的なことをしゃべったことは一度もなかったんです。自分の脚本はダメだと思っていたから、スタッフと飲みにいっても脚本の話をするのは怖くて。他の先輩脚本家もわざわざ触れないし。でも、そんななかで星山さんだけが褒めてくれたんですよ。「大河内君、きみの脚本はナイーブでとてもいいね」って。それがめちゃくちゃうれしくて……今でもすごく覚えています。

――そんなことがあったんですね。
大河内 その一回だけですけど、褒められるって大事だなと思いました。あのとき褒めてもらえなかったら、頑張れなかったかもしれない。富野さんの『∀ガンダム』で脚本が書けて、初めて評価してくれた人が星山さんという、素晴らしいスタートだったなと思います。

――いろいろなダメ出しがあっても。
大河内 めちゃくちゃ幸せですよ。だって、僕がアニメファンになったきっかけの『ガンダム』を作り上げたおふたりですから、こんなにうれしいことないです。『∀ガンダム』が終わった頃には富野さんも少し評価してくれたみたいで、次の富野さんの映画に呼んでもらえました。その作品自体は不成立になってしまったんですけど、その後、改めて『OVERMANキングゲイナー』という作品に呼ばれることになりました。endmark

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大河内一楼

大河内一楼

脚本家

おおこうちいちろう。1968年生まれ。宮城県出身。アニメ・ゲーム系の雑誌編集者、フリーライターを経て、『∀ガンダム』にて脚本家デビュー。代表作に『コードギアス 反逆のルルーシュ』『プリンセス・プリンシパル』などがある。最新作は内海紘子監督とタッグを組んだ『SK∞ エスケーエイト』。

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