Febri TALK 2021.09.15 │ 12:00

大塚隆史 アニメ監督

②「演出」の力を意識した
『も~っと!おジャ魔女どれみ』

『スマイルプリキュア!』や『劇場版ONE PIECE STAMPEDE』など、エンタメの「王道」を行く作品づくりで知られる大塚隆史。その原点を探る全3回のインタビューの2回目は、東映アニメーションの門を叩くきっかけになった『おジャ魔女どれみ』について。佐藤順一をはじめ、錚々たる演出家の存在が大塚にもたらしたものとは?

取材・文/前田 久

初めて「この人のような映像を作ってみたい」と強く思えた

――2作目に挙げていただいたのは『も~っと!おジャ魔女どれみ(以下、どれみ)』の第20話「はじめて会うクラスメイト」です。これはいつ頃、見たんですか?
大塚 僕が関西にいた20歳の頃に、たまたまテレビで見ました。さきほどお話しした通り、僕はアニメにさほど詳しくなかったので、今放送しているアニメ作品くらいはひと通り見ておこうと思い、『も~っと!おジャ魔女どれみ』もそんな中のひとつでした。とはいえ、当時の僕は「大人の鑑賞に耐え得るアニメ作品こそが真のアニメーション作品だ!」などとカッコつけていたので、子供向け作品を「お子様の見るものだ」と小馬鹿にしていたんですね。そんな中、偶然見た『どれみ』のお話は不登校の女の子のお話でした。僕は自分が不登校だったわけではないものの、そういった問題が簡単に解決できるものではないことくらいは理解していました。だからテレビアニメ1話分、たかだか20分のお話の中で、不登校児の悩みや問題を解決できるわけがない、もし、解決して元気に登校する終わり方だったらウソだなと(笑)。

――シビアですが、もっともな目線です。
大塚 そうしたら、まさかの展開で。不登校の子がどれみのおかげで学校に行こうとするところまでは予想通りだったんですけど、結局、最後は学校に行けず、問題を解決せずにお話が終わってしまう。「こんなことって子供向けアニメであるのか!?」「そんなものを作っていいのか!? 作れるのか!?」と衝撃を受けました。そこから毎週、『どれみ』の放送を追いかけ始めて、するとその話数だけじゃなく『どれみ』という作品自体がいかにすごいかがわかってきた。そのすごさは佐藤順一さんの存在に由来していることも。そして、佐藤さんと五十嵐卓哉さん、このふたりの関わった回はスゴいと気がついて、そこからアニメの「演出」という仕事に興味を持った。僕はどういうわけか「脚本」や「作画」にそこまで関心がいかず、「演出」という側面に強く惹かれました。

佐藤順一さんの映像って

普通にすっと入ってきて

しっかり楽しませつつも

少し引っかかるものを置いていく

――『どれみ』がなかったら、その後のキャリアもまったく違うものになっていたわけですね。不登校児のかよこちゃんの話は、魔法で解決しない展開もですが、登校途中でトラウマがフラッシュバックして吐くといった、細かい描写も強烈です。
大塚 そうそう、そういったところなんですよね。単に「学校に行けませんでした」じゃなくて、そうなるときの「イヤな感じ」。不登校になったことがない人でも、行きたくない場所や会いたくない人にどうしても向き合わなければならないときの、あの「イヤな感じ」はわかるじゃないですか。「遠くから目的の建物が見えただけで、もうイヤになる。足が動かない」とか、そういった感覚や感情がフィルムから伝わってくる。それらを伝えられるのは、「演出」の力なんです。

――わかります。
大塚 佐藤さんの作る映像って、表現そのものに奇抜さはなく、すごく見やすいんです。見ている人に普通にすっと入ってきて、しっかり楽しませつつも、少し引っかかるものを置いていく。これがなかなか真似できない。映像にケレン味をつけたり、格好つけたり、派手にしたり、意味深にすることは、じつはけっこう簡単なんです。正確にいえば、難しいけどやればできる。

――なるほど。
大塚 もう一点、演出家としての視点で見るとスゴいのが、アニメーターに過度なスキルを要求せずに作品を高得点で成立させているところです。テレビ作品は毎週放送することが責務ですので、毎週過度な要求は期待できない。そこで純粋に演出力で魅せるというのはとんでもなくスゴいです。もうひとつ、『どれみ』を見ていて魅了されたのは五十嵐卓哉さんの演出でした。五十嵐さんの作る映像はとにかく美しく、かつ理にかなっていてすべてが気持ちいい。アニメ業界に入ったものの、とくに作りたい映像イメージがなかった当時の自分が「この人のような映像を作ってみたい」と強く思いました。……で、そんなことを思っていたら、第20話を見てから1年も経たないうちに、そんな自分が『どれみ』のスタッフになった(笑)。

――びっくりですよね。『も~っと!』の次回作の『おジャ魔女どれみドッカ~ン!』で、いきなり憧れていた作品のスタッフとして現場に入る。いかがでした?
大塚 演出助手という仕事のいいところは、いろいろな演出家さんについて、その仕事を見られるところ。自分にいちばん向いているスタイルを発見できるところです。そうした目で五十嵐卓哉さんや細田守さん、長峯達也さん、岡佳広さん、山吉康夫さんといった、世代もスタイルも違う優れた演出家の方々の仕事の進め方や画面作りを学べた、いい現場でした。僕が参加したときには、佐藤さんはもう現場を離れていたのだけは残念でしたけどね。もうひとつ大きく影響を受けたのは、東映アニメーションのシステムでした。テレビ作品のいち話数であっても「演出家はその話数の監督」という考え方があって、その話数の絵コンテ・演出、アフレコ演出、音響演出をすべひとりの演出家が仕切るというものでした。制作会社の多くでは絵コンテと演出、音響演出は切り分けられて、それぞれ別の人がやる場合が多いのですが、東映アニメーションだとその話数が一本の作品として演出家の個性や力がしっかりと立つので、大好きなやり方です。東映アニメーションが多くの素晴らしい演出家を輩出している背景には、そういった演出家の「演出力」を鍛えるシステムが大きく影響しているのだなと思いますし、僕自身の技術の向上にも非常に影響がありました。endmark

KATARIBE Profile

大塚隆史

大塚隆史

アニメ監督

おおつかたかし 1981年生まれ。大阪府出身。アニメ監督。主な監督作品に『映画 プリキュアオールスターズDX みんなともだちっ☆奇跡の全員大集合!』『スマイルプリキュア! 』『劇場版ONE PIECE STAMPEDE』『KICK&SLIDE』など。

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