Febri TALK 2021.09.17 │ 12:00

大塚隆史 アニメ監督

③アクションの魅力を思い出した
『ドラゴンボールZ』

『スマイルプリキュア!』や『劇場版ONE PIECE STAMPEDE』など、エンタメの「王道」を行く作品づくりで知られる大塚隆史。その原点を探るインタビュー連載の最終回は、鳥山明原作のメガヒットアニメで屈指の燃えるエピソードから、大塚を支える「2本の柱」に話が広がった。

取材・文/前田 久

「ケレン味」というものを、まざまざと見せつけられた

――最後に選んだのが『ドラゴンボールZ』の第31話「いまだ悟空! すべてを賭けた最後の大技」です。これはどんな理由で?
大塚 順を追って説明すると、『おジャ魔女どれみドッカ~ン!(以下、どれみ)』に参加した頃から、東映アニメーションの資料室に行って、過去の東映アニメーション作品のアーカイブを調べるようになったんです。僕はもともとアニメオタクではなかったので、そこでいろいろなことに気づくんです。「佐藤順一さんって『美少女戦士セーラームーン』や『きんぎょ注意報』の監督だったの!?」とか「え、『ビックリマン』も『北斗の拳』も東映アニメーション(当時は東映動画)の作品だったの!?」とか……。アニメ好きの人からすれば常識ですね。そして、なによりお世話になる会社の過去の作品情報を把握していないという……ホントに恥ずかしいくらい何にも知らず(笑)。『ドラゴンボール』もその流れで見て、「西尾大介」という監督の名前はおぼえていたんですけど、まだそのときは顔と名前が一致しなかった。現場で接点がないと意外とわからないものなんですよね。で、『ふたりはプリキュア』に配属されたときも、まだ「この人が『ドラゴンボール』の監督なのか」くらいの、ゆるい感じだったんです。子供の頃、『ドラゴンボール』がとても好きだったんですけどね。

――仕事ですし、あまりはしゃぎもしませんよね。でも、それが何かのきっかけで変わった?
大塚 無礼千万なのですが、アニメ制作のことを何もわかっていない頃の話で、そのときは単純に『ドラゴンボール』は鳥山明がスゴいとだけしか思っていませんでした。それは間違いありませんけど、ある意味、間違いだったと気づかされることが起きます。それは『ふたりはプリキュア』の第30話(「炸裂!プリキュアレインボーストーム」)の初号試写だったんですけど、プリキュアが新しい必殺技を撃つときの「ドンッ!」って感じ、エネルギーを放った衝撃で自身の身体が吹き飛びそうになるのを「グンッ!」と堪える表現に思いっきり頭を殴られた感覚をおぼえました。「『ドラゴンボール』だ!!!」って。

――あれはいいですよね。
大塚 そう、つまり僕が好きな『ドラゴンボール』はマンガももちろんですが、アニメーションの動きあってのそれだったんです。当時の僕の大興奮は、マンガで見た四倍界王拳かめはめ波ではなく、アニメ映像の四倍界王拳かめはめ波だったんです。そこで強い衝撃を受け、今までとは違うアニメの魅力を感じた、というより、子供の頃の自分を魅了していたものの正体がわかったという感じでした。そこから『ドラゴンボール』を調べたら、まさに自分が子供の頃にめちゃくちゃ好きだった回が西尾さんの演出回だったんです。それが今回選んだ『ドラゴンボールZ』の第31話……悟空とベジータの戦いで、四倍界王拳かめはめ波が登場する回。

僕が好きな『ドラゴンボール』は

マンガももちろんですが

アニメーションの動きがあっての

それだったんです

――もう最高に盛り上がる回ですよね。
大塚 ええ。あらためて見た『ドラゴンボールZ』の第31話は大人の目で見ても衝撃というか、引き込まれる映像で、そういうケレン味あふれるアクションが好きだったことを思い出した。そして『プリキュア』をきっかけに、ケレン味のあふれるアクションを追求し始めたんです。そして演出助手のときに得たいろいろな技を、演出になって試してみました。うまくいったり、なかなかうまくいかなかったり……そこからはひたすら修行でしたね。何かを試してみては、出来上がった映像からフィードバックして蓄積を積んでいく。映像面でも演出面でも音楽面でも。『プリキュア』が、僕の修行期間でした。界王星でバブルスくんを追いかけている悟空的な(笑)。

――アツいです……!
大塚 そうやって失敗や成功を繰り返していくうちに、映画の監督をまかせてもらう機会があり、そして『スマイルプリキュア!』で初めてTVシリーズの『プリキュア』で監督をやる機会に恵まれた。そこでは『どれみ』で身につけた心理表現と、『プリキュア』で身につけたケレン味のあるアクションが、大きなふたつの柱になりました。その柱を中心に『ビックリマン』『セーラームーン』『ゲゲゲの鬼太郎』『北斗の拳』『キン肉マン』……子供の頃からの僕の東映アニメーション体験が、作品に全部流れ込んでいます。それらの作品が子供の頃の僕にくれたのは「楽しい時間」でした。監督をまかされたときにいちばん考えたのは、「楽しい時間」を作ることでした。見てくれる子供たちが、毎週「この時間は楽しい!」と素直に感じて、待ち望んでくれるものにしたい。そういったものを作ることに自分がやる意義を感じていましたね。

――ふたつの柱の基準は明快で、素晴らしいですね。
大塚 『スマイルプリキュア!』までで僕の中の芯は固まった感じです。いろいろな監督像がありますが、僕は作家型監督ではなくエンターティナー型監督ですね。なので、僕は自分を「アニメーション監督」とは名乗らず「アニメ監督」と言っています。アニメを作っています! それからの仕事だと『劇場版ONE PIECE STAMPEDE』などがありますが、基本的には同じです。しっかりと観客を意識して捉え、その観客と一緒に遊ぶ感覚でどういったフィルムなら観客が楽しめるのかを全力で考える。欲張って多方面を取り込んで中途半端なものにしてしまうようなことにはせず、どんと芯を貫く作りにする感じです。これからの仕事も見てくれる人が楽しめるアニメを作っていきたいなぁと思っています。endmark

KATARIBE Profile

大塚隆史

大塚隆史

アニメ監督

おおつかたかし 1981年生まれ。大阪府出身。アニメ監督。主な監督作品に『映画 プリキュアオールスターズDX みんなともだちっ☆奇跡の全員大集合!』『スマイルプリキュア! 』『劇場版ONE PIECE STAMPEDE』『KICK&SLIDE』など。

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