Febri TALK 2022.10.17 │ 12:00

境宗久 アニメーション監督/演出家

①オープニングに胸高鳴らせた
『銀河鉄道999』

ジョージ朝倉の同名マンガをもとにした『ダンス・ダンス・ダンスール』や『ゾンビランドサガ』など、数多くの人気作を手がける境宗久にアニメ遍歴を聞くインタビュー連載。第1回は「大人の世界に憧れを抱いた」という、松本零士原作のあの名作について。

取材・文/宮 昌太朗

汽車が出発する映像を見るだけで、いつもワクワクした

――境さんの出身はどちらですか?
 長崎です。当時、長崎には民放が2局しかなかったんです。僕が上京したあとに少し増えて、今は4局になっているのかな。なので、東京で放送していても、見ることができなかったアニメがあるんですよね。

――当時、見ていて記憶に残っているものというと何でしょうか?
 『タイムボカン』シリーズや『ハクション大魔王』、あとは『ポールのミラクル大作戦』とかですね。タツノコ系の作品が多いんですけど、『ポールのミラクル大作戦』はよく、いとことごっこ遊びをしていました。僕がポール役、イトコがニーナ役で、さらわれたところを救いに行く……みたいな(笑)。

――1本目に挙がった『銀河鉄道999(以下、999)』ですが、これは小学生の頃に見ていた作品ですか?
 そうですね。劇場版も好きなんですが、今回はTVシリーズを挙げました。当時、長崎では夜の7時から放送していたんですが、習い事を終えて家に帰ってくると、ギリギリ始まる時間に間に合う。なので、毎週、急いで家に帰っていた記憶がありますね。オープニングの冒頭、汽車が出発するあたりの映像を見るだけで、いつもワクワクしていました。

――第1話から見ていたのでしょうか?
 たまたまテレビをつけたら、放送していたんだと思います。なので、第1話からは見ていなくて……。たまに回想シーンが入るじゃないですか。それを見て「ああ、鉄郎はこういう風にお母さんを亡くしたんだ」と。劇場版と記憶がごっちゃになっているところがあるんですが、とにかく少年である鉄郎が大人の女性と旅をしながら、いろいろな人たちと巡り合っていくのが面白かったんですよね。大人の世界に憧れるというか、子供心をくすぐられるようなところがあって。当時、似たような時間帯で『キャッツ・アイ』や『シティーハンター』も放送していたんですが、いちばん印象に残っているのはやっぱり『999』ですね。

――劇場版を見たのもその頃ですか?
 いや、当時は見ていなくて、高校生になってからだったと思います。話がちょっと逸れるんですけど、僕には11歳下の弟がいて、僕が高校生になったくらいのタイミングで字をおぼえ始める時期だったんですね。それで「何か読ませてあげられるマンガはないかな」と本屋に行ったときに、たまたま『鉄腕アトム』を見つけて。「そういえば、ちゃんと読んだことがないな」と思って読み始めたら、めちゃくちゃ面白かったんです(笑)。

――弟のために買うつもりが、自分がハマってしまった。
 小さい頃に『ジェッターマルス』やリメイク版の『鉄腕アトム』、あとは24時間テレビでやっていた『海底超特急マリン・エクスプレス』といった手塚治虫原作のアニメを見ていたので「懐かしいな」と思いながら手に取ったんですけど、弟そっちのけで読みふけってしまいました。しかも、そこから手塚さんの作品を買い集めるようになったんです。小遣いが少なかったので、新刊だけではなくて、長崎中の古本屋を回って手当たり次第に買ったり。

子供の目線を意識するきっかけになった

――境さんは1971年生まれなので、高校生というと80年代半ばですよね。当時、手塚治虫にハマっている高校生はかなり珍しい気が……。
 そうですね、古本屋の親父にも「今どき、そこまで手塚治虫に執着するのは珍しいね」と言われました(笑)。それがきっかけでマンガ熱に火がついて、石ノ森章太郎さんや藤子不二雄さんも集めるようになって。で、その中にはもちろん松本零士さんの作品もあったんです。

――なるほど。高校になってもう一度、松本零士に再会するわけですね。
 劇場版の『999』を見たのはその頃だったと思います。長崎にも大きいレンタルビデオショップができたので、そこでビデオになっている『火の鳥』を見たりして、そこからアニメにハマっていくんです。

――高校生になってから再会した『999』は、どんな印象でしたか?
 新鮮味がありました。以前は子供目線でワクワクしたり、あるいは理不尽に感じていた展開も、少し大人になると「なるほど」と思える。ただワクワクするだけじゃなくて、シニカルな部分だったり、切ないところも味わいとして楽しめるようになったのかもしれないです。劇場版は物語の展開が早いんですが、キャラクターの個性の作り方もすごいし、たとえば、クレアさんの扱い方になんとも言えない切なさを感じる。そういう部分も『999』の面白さだったんだな、と。

――自身のお仕事にも影響を受けているところがありますか?
 ありますね。やっぱり自分が子供時代に見ていた作品なので、大人の目線からだけではなく、子供の目にはどういう風に見えるのかなと、そこを意識するきっかけになっていると思います。「これはこういうものだから、こういう風に感じて当たり前」とは考えずに、知らない星に降り立った鉄郎がそれまで知らなかったと人と出会う、そのワクワク感をどうやれば見ている人に伝えることができるのか。

――未知のものに触れたときの、新鮮な感覚をいかに作品に封じ込めるのか、という。
 小学生の頃は、そこまでアニメにのめり込んでいたわけではないんですけど、たまたま見た『999』に心がすごく躍らされた。それは、きっとそういう感覚があったからだと思うんです。アニメが好きな人たちに向けて作るのは当然なんですが、それ以外の人たちが見ても少し前のめりになってもらえるような。そういう作品作りをしたいと思う、そのきっかけになったのが『999』ですね。endmark

KATARIBE Profile

境宗久

境宗久

アニメーション監督/演出家

さかいむねひさ 1971年生まれ、長崎県出身。東映アニメーションに入社後、制作進行を経て演出へ。『ONE PIECE』や『スイートプリキュア♪』などでシリーズディレクターを担当したのち、MAPPAを経て現在はスタジオKAI所属。主な監督作に『ゾンビランドサガ』『ダンス・ダンス・ダンスール』など。

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