Febri TALK 2022.10.19 │ 12:00

境宗久 アニメーション監督/演出家

②見たことがない映像に惹かれた
『風の谷のナウシカ』

インタビュー連載の第2回でピックアップするのは、宮崎駿監督を代表する名作『風の谷のナウシカ』。マンガに夢中になっていたという高校時代に、どのようにして劇場アニメの『ナウシカ』と出会ったのか。当時受けたインパクトから自分に与えた影響まで、たっぷりと語ってもらった。

取材・文/宮 昌太朗

お話に感動すると同時に、初めて「動き」のすごさを知った

――2本目は、宮崎駿監督の『風の谷のナウシカ(以下、ナウシカ)』です。見たのはリアルタイムですか?
 いや、高校の頃ですね。公開されたのは小学6年生くらいで、テレビで特番を見た記憶はあるんですが、映画自体は見たことがなかったんです。前回、高校のときにマンガにハマったという話をしましたが、そのときクラスメイトにひとり、マニアックなヤツがいたんです。で、『鉄腕アトム』を読んでいる話をしたら「こういうのもあるよ」と、他のマンガもどんどんすすめてくれて。しかも彼は映画にも詳しくて「この宮崎駿って人が作る映画はハズレがないから」と言われて、レンタルビデオで借りてきて見たのが『ナウシカ』でした。

――そのときの第一印象は?
 「なんだこれは!」という感じでしたね。これまで見たことのない世界を舞台に、想像もつかないようなことが起きる。空を飛ぶ描写もなんとも気持ちよさそうで、そこから宮崎さんに一気にハマっていくんです。『天空の城ラピュタ』や『となりのトトロ』、あとは『未来少年コナン』もレンタルビデオ屋に揃っていたので全部借りてきて。手塚さんのときのように、宮崎さんの作品を片っ端から見ていきましたね。

――境さんはハマったら、とことんな感じですよね(笑)。
 そうですね、一度入り込んだら、全部見ないと気が済まない、みたいなところがあります(笑)。『未来少年コナン』は当時、リアルタイムでも見ていたはずですけど、でもあらためて見て「すごい話だな」と思ったり。

――『ナウシカ』のどこに、それほど惹かれたんでしょうか?
 ひとつはストーリー。あの世界が抱えている問題点を、ひとりの少女の視点を通して見ていって、最後は……もう普通に泣いちゃうじゃないですか(笑)。お話に感動すると同時に、そのときに初めて「動き」というもののすごさを知ったんです。映画的に迫力のある画面構成とか、カットのつなぎの見事さ。観客に印象付けるための画面がちゃんとそこに存在しているというか。音楽の素晴らしさも印象的でしたし、「これまで見たことがない映像」というものに強く惹かれたんだと思うんですよね。

――それまで見ていたアニメとは、また少し違うものだったと。その頃からアニメ業界を目指すようになるのでしょうか?
 いや、それはもっとあとのことですね。当時はどちらかといえば、マンガ家になれないかなと思っていました。先ほど話に出てきた友達と一緒にマンガを描いて、賞に応募してみたり。結果は落選だったんですけど、「二次審査は通過しました」みたいなことが書かれていて、じゃあもうちょっと頑張ってみようか、とか(笑)。

――ちなみに、そのときはどんなマンガを描いていたんでしょう?
 絵もストーリーも、完全に手塚治虫ナイズされていましたね(笑)。高校3年生のときに手塚さんが亡くなられて、それがすごいショックだったんですよ。「僕が代わりに描いてやる!」とまではいかないですけど(笑)、でも自分が描かなきゃ、みたいな思いがありました。と同時にアニメにも興味があったので、『ナウシカ』の絵コンテをパラパラと見てみたり。

自分の中にあるテンポやタイミングは『ナウシカ』の影響を受けている

――『ナウシカ』から受けた影響というと?
 自分の中にあるタイミングとかテンポに関して、影響を受けているんじゃないかなと思います。あとは画面の作り方もそうですね。具体的な画面の処理というよりは、カットの流れだったり、シーンの作り込み方です。ベースとなっている部分で、影響を強く受けているんじゃないかと思います。『ナウシカ』はそれこそビデオテープが擦り切れるくらい繰り返し見ていました。

――なるほど。
 自分で絵コンテを描くときは、ジブリ作品を見ないようにしているんです。というのも、見ると絶対に引きずられてしまうんですよ。引きずられて同じことをやってしまいそうになる。自分の中のリズム感で整えないと、その作品の流れにはならないんですよね。なので、仕事をするときにはなるべく遠ざけるようにして……。最近はジブリ作品をほとんど見なくなってしまいました。

――あはは。宮崎監督の作品が持っているテンポ感やカットの流れには、どういう特徴があるのでしょうか?
 上手下手(かみてしもて)の使い方にしろ、カットの切り替えにしろ、基本に忠実なんです。自分が「基本に忠実になろう」と思えるようになったのは、もっとあと――演出について詳しく勉強してからなんですが、それを知ったうえで宮崎さんの作品を見ると「ちゃんとしているんだな」と思います。

――スタンダードな演出方法ということになるのでしょうか?
 そうですね。その中で、どんなふうにインパクトを出していくか。たとえば、日常の中に違和感を持ち込むには、どういう風にするべきかとか、あるいはインパクトを出したい場面の見せ方、テンポのギアの入れ方ですね。そういうところに特徴があると思います。演出デビューしたばかりの頃は、カメラワークの真似をしたりしたんですけど、あるときから「真似ばかりはよくないな……」と思うようになって。

――あはは、わかります。
 『ナウシカ』に関して言えば、後日、宮崎さんが書かれたものを読んで、キャラクターを作り込んでいることを知ったんですよね。たとえ画面に出ていない部分でも、キャラクターの行動原理やバックボーンをしっかり作り込んでおかなければいけない。最終的に画面に映らなかったとしても、自分の中では「こういうことなんだ」としっかり意識しておく。それも宮崎作品から受けた大きな影響のひとつです。endmark

KATARIBE Profile

境宗久

境宗久

アニメーション監督/演出家

さかいむねひさ 1971年生まれ、長崎県出身。東映アニメーションに入社後、制作進行を経て演出へ。『ONE PIECE』や『スイートプリキュア♪』などでシリーズディレクターを担当したのち、MAPPAを経て現在はスタジオKAI所属。主な監督作に『ゾンビランドサガ』『ダンス・ダンス・ダンスール』など。

あわせて読みたい