Febri TALK 2022.10.21 │ 12:00

境宗久 アニメーション監督/演出家

③生き生きと動くCGに衝撃を受けた
『トイ・ストーリー』

人気作を次々と世に送り出す境宗久のアニメ遍歴を聞くインタビュー連載。最終回は、ピクサーの長編アニメ第1作をピックアップ。3DCGアニメの黎明期に受けたインパクト、そして自身の作品に与えた影響まで、アニメ業界に進んだきっかけとともに話してもらった。

取材・文/宮 昌太朗

「ついていけないかもしれない」という焦りも感じた

――3本目の『トイ・ストーリー』は日本公開が1996年なので、少し時代が飛びますね。
 そうですね、東映アニメーションで仕事を始めていました。当時はまだ制作進行をやっていたんじゃないかな。劇場版の『ドラゴンボールZ』をやっていた頃だと思います。

――そもそもアニメ業界を目指したきっかけは何だったのでしょうか?
 高校を卒業したあと上京して、アニメの専門学校に入ったんです。アニメの勉強をしながら、自分でマンガを描いていこうと思っていて――しかも学校が御茶ノ水だったので、近くに小学館もある(笑)。そんな感じで通い始めたんですが、いろいろな授業の中でひとつ特別授業があったんです。希望者だけが受講する形で、演出に特化したクラスだったんですけど、先生が『フランダースの犬』の監督の黒田昌郎(くろだよしお)さんで。そこで初めて本格的に演出を勉強することになったんですね。絵コンテの描き方や演出方法を具体的に学んだうえで短編アニメを作って、しかもそれを校外の子たちに見てもらう、という。

――それはかなり本格的な授業ですね。
 僕らのときは作ったアニメを幼稚園生くらいの子供たちに見せに、みんなで山形まで行きましたね。セリフのないアニメだったんですけど、意外と「ここで笑ってくれる」とか「ここで反応してくれるんだ!」とか、それはすごく勉強になりましたし、演出というものの面白さを知った気がします。

――そこからアニメ業界を目指そう、と。
 そうですね。ただ、僕は就職活動をやったことがなくて……。専門学校で卒業制作をやることになったんですが、それがあまりに楽しくて、周りはどんどん就職を決めていくなか、僕だけまったく就活をやらなかったんです。年が明けて2月の時点でも、仕事がまったく決まっていなくて。1年間、アルバイトでもしながら探せばいいかなと思っていたんですが、今から思うと甘いことを考えていましたね(笑)。そのときに見かねた黒田さんが「東映アニメーションに無理を言って『もうひとり入れてくれないか』とお願いしたから面接に行ってきなさい」と。

――ええっ、そんな展開が!(笑)
 当然、断ることなんてできないので、指定された日に面接に行って、結果的に「4月からいらっしゃい」と。こんなズルいルートは、今ではありえないと思います。

――そこから本格的にアニメ業界に足を踏み入れていったわけですね。『トイ・ストーリー』はどのタイミングで見たんでしょうか?
 じつは専門学校時代、「こんなアニメがあるよ」と『ルクソーJr.』(ピクサーが1986年に発表した短編アニメ)や、あのあたりの作品を見る機会があったんです。すごくリアルなCGが滑らかに、しかもセリフもないのに感情豊かに動くのを見てびっくりしたんですけど、ただ「さすがにこれで映画を作るのは無理だろう」と思っていたんです。でも、それからちょっと間が空いて、就職してからしばらくした頃に『トイ・ストーリー』が公開されて。周りの評判がよかったのもあって見に行ったんですが、すごくショックを受けました。

――『ルクソーJr.』を見ていただけに、インパクトが大きかったのかもしれないですね。
 そうですね。CGが、あんなにも生き生きと動くということに驚いて。しかも技術に溺(おぼ)れずに、話もしっかり面白い。「これからはこうなっていくのか」みたいなことも考えましたし、「ついていけないかもしれない」みたいな焦りも感じました。

3DCGだけどリアルだけに頼らない作り方をしている

――好きな場面はどこですか?
 バズ・ライトイヤーがウッディに対して、ずっと「オモチャだ」と言い続けているじゃないですか。でも、その関係が最後に逆転する。そこにいたるストーリーの流れや転換のやり方にシビれました。技術的な部分で言えば、やっぱり3DCGならではのカメラワークですね。こんなに自在にカメラを操れたら、きっと楽しいだろうな、と。

――それはすでにアニメの仕事を始めていた、境さんだからこそでしょうね。
 そうですね。仕事を始めていたからこそ、『トイ・ストーリー』がやっていることのすごさに衝撃を受けたというのはあります。当時はまだフィルムだったので、撮影台の特性の中で作るしかないんですよね。だから『トイ・ストーリー』のようなカメラワークをやりたいと思っても、なかなか難しいし、TVシリーズでは到底、予算に収まらない。もちろん、そういう制限の中で身につけた工夫が役立つ場面もたくさんありましたし、環境自体はよかったと思うんですが、とはいえ「こんな風にカメラをぐるぐる回してみたいな」と。

――あはは、なるほど。『トイ・ストーリー』から受けた影響というと?
 ピクサーの作品は、3DCGなんだけど決してリアルだけに頼らない。キャラクターの造形も含めて、アニメーションでやる意味がある作り方をしているんです。そこは、自分が仕事をするときも意識している部分です。もちろん、いろいろな作品があっていいし、「とにかくリアルな作品が好きだ」という人もいると思うんです。でも、自分の志向として、マンガはマンガ、アニメはアニメなりの特性を活かしたデザインやストーリーが作れるといいな、と。画面ひとつとっても、ただリアルに描くだけではなく、そのカットが表現しようとしているものをしっかり捉えられるようにデザインする。前回、話題に出た宮崎駿監督も、一見、リアルなんだけど、じつはデザインにいろいろな工夫が施されていて、そのうえでアニメに落とし込まれている。『トイ・ストーリー』は、そのことをより一層強く意識させてくれたと思います。

――ちなみに、全編3DCGの作品を作ってみたいと思いますか?
 やってみたいですね。セルアニメにはセルアニメでしかできない雰囲気があると思うし、どちらがいいというわけではないですが、もし自分が3DCGで作るなら、3DCGでしかできないことを片っ端からやってみたい。『ゾンビランドサガ』のライブシーンでカメラを動かしまくったのは、それはそれで楽しかったですし(笑)。ただ、あの場面でもCGにしかできない派手なカメラワークって、じつはやっていないんですよ。ライブ会場で、カメラクルーが一生懸命にカメラを動かしている雰囲気を作ろうとしていたので……。せっかくやるなら、もっと派手な動きが作れるといいのかな、とも思います。endmark

KATARIBE Profile

境宗久

境宗久

アニメーション監督/演出家

さかいむねひさ 1971年生まれ、長崎県出身。東映アニメーションに入社後、制作進行を経て演出へ。『ONE PIECE』や『スイートプリキュア♪』などでシリーズディレクターを担当したのち、MAPPAを経て現在はスタジオKAI所属。主な監督作に『ゾンビランドサガ』『ダンス・ダンス・ダンスール』など。