Febri TALK 2022.01.10 │ 12:00

白土晴一 リサーチャー/設定考証

①戦闘の描き方を知った
『機甲猟兵メロウリンク』

『プリンセス・プリンシパル』『ルパン三世 PART5』など、多岐にわたる作品で設定考証を務め、今や〈リアル〉なアニメには欠かせない存在である白土晴一。その原点に迫るインタビュー連載の初回は「髙橋良輔主義者」としての思いを熱く語る!

取材・文/前田 久

戦闘シーンに人間の「業」が見え隠れする

――1本目はOVA『機甲猟兵メロウリンク(以下、メロウリンク)』です。これは白土さんにとって、どのような意味合いのタイトルなのでしょう?
白土 恐ろしいほど影響を受けた作品です。後に『OBSOLETE』で一緒にお仕事をすることになるのですが、僕は昔から一貫して「髙橋良輔主義者」なんですね。他の方の作品にももちろん触れてきましたが、子供の頃から僕の心を鷲づかみにしていたロボットアニメはやはり『装甲騎兵ボトムズ(以下、ボトムズ)』であり、『太陽の牙ダグラム』だった。『メロウリンク』は『ボトムズ』をミリタリーの方向性に振った感じの外伝OVAで、今回取材を受けるにあたって見直してみて、思っていた以上に影響を受けていると痛感しました。

――「髙橋良輔主義者」について、もう少し詳しく聞かせてください。
白土 あくまで僕の個人的な見方……とお断りしたうえでお話しすると、僕が高校時代から今に至るまでずっと好きな映像のクリエイターが3人います。岡本喜八、サム・ペキンパー、そして髙橋良輔です。この3人に共通して言えることは、戦闘シーンをソリッドに描くけれど、どこかに人間がやっているからこその「業」のようなものが見え隠れしている点です。それも「人類」みたいな大きな単位での「業」ではなくて、あくまで戦っている兵隊の身体を感じさせるような「業」。髙橋さんの作品は、それがつねに存在しているところに、たぶん僕はグッときているんです。「兵隊から見た戦争」という雰囲気が、いつも作品からプンプンと匂う。「泥くさい」とまとめられがちですけど、それもまたちょっと違う気がするんですよね。戦争をカッコよく描くのではなく、そうではないところも描こうとする矜持とでもいいますか。ある種の思想とまではいかなくても、髙橋さんの皮膚感覚でそうなっているんだと思います。そこに私淑しているというか、そのラインを自分も守って仕事をしていきたいと、つねに考えているんです。

ストーリーの中に戦闘シーンを

入れ込んで、なおかつ

その面白さが際立っている

――『メロウリンク』からは具体的にはどのような影響が?
白土 僕がアニメに関わるときは「軍事考証」よりも「戦場考証」――つまり、戦場シーンのアイデアを求められることが多いんです。そうした仕事をしていると感じることですが、作品内での戦闘のシチュエーションって、意識しないと同じようなものばかりになりがちなんですよ。戦場のバリエーションをあらかじめたくさん考えておいて、それぞれの戦場でその世界の人がどういう戦い方をするのかを設定しておかないと、戦闘シーンになかなか意味を持たせられない。ストーリーの中に戦闘シーンを入れ込んで、なおかつその面白さを際立たせられないんです。『メロウリンク』は「人間対AT(『ボトムズ』の世界の兵士が乗り込む人型兵器)」というかなりピーキーな戦闘がずっと展開されるシリーズなのですが、ちゃんとそれができているんです。毎回戦うシチュエーションが変わって、そこで主人公が力で勝つのではなく、どう知恵を使って勝つのか。最後の最後、主人公のメロウリンクが近接戦闘でパイルバンカーを撃ち込んで勝つことは決まっているんですけど、そこまでの段取りをどう見せるかにひたすらこだわっているんです。そのためにストーリーは複雑ではない復讐劇になっていて、レギュラーキャラの人数もある程度絞られている。余計な要素を省くことで、30分アニメの中で「どういうシチュエーションで戦うか」の情報量を上げて、さらに戦うこと自体をストーリーに組み込むことができているんですよ。初めて見た高校生の頃はそこまで考えていなかったんですけど、戦うことでちゃんとキャラクターが表現できているというか。

――どういうことでしょう?
白土 戦闘シーンで重要なのは「段取りをどう描くか」なんです。もし、軍事を作品の主眼として考えるなら、個々の描写の細かいディテールを上げればいい。でも、キャラクターを主眼にするなら、ちょっとした機転が生かされるシーンを入れないと「戦闘でキャラクターを描く」ことにはならない。ただ「戦争を描く」だけになってしまう。それを避けるには、戦い方とキャラクターを一体化させなければならないんですが、『メロウリンク』はそれがしっかりできている。自分が思っていた以上に、この作品に相当影響を受けていたんだなぁ、と。ATを相手に生身の人間が勝つことに説得力を持たせるために、爆薬を仕掛けるだとか、地形を生かした作戦を練る様子をしっかりと見せて、それが主人公のキャラクターづけにちゃんとつながっている。高校生の僕は、そのキャラクターとバトルアクションの連動を新しいと感じて、強い印象を受けたんでしょうね。もちろん、『ボトムズ』や『ダグラム』をはじめ、他のアニメにもそういう傾向はあるんですけど、『メロウリンク』はそれらよりもさらにキャラと戦闘シーンを深く融合させていた。今思うと『OBSOLETE』はこれと同じコンセプトだなぁ……と(笑)。

――たしかに『OBSOLETE』の「原点」である感じは強かったです。とくに『メロウリンク』のシリーズ前半の一話完結エピソード。
白土 いや、本当にね。10年ぶりぐらいに見直してみて、やっぱり髙橋さんの手の内でまだ生きているなって、あらためて思いました(笑)。でも、あのフォーマットはもっといろいろなことがやれるんじゃないかと、まだずっと考えていますね。

――ミリタリーもののロボットアニメの純粋形みたいな。
白土 そうそう。その思いきりのよさというか、「それで十分面白くできるんじゃないか?」っていうスタッフの皆さんの思いが感じとれて、いいんですよね。endmark

KATARIBE Profile

白土晴一

白土晴一

リサーチャー/設定考証

しらとせいいち 1971年生まれ。福島県出身。マンガ・アニメ・ゲーム・小説の設定考証を幅広く手がける。主な参加作品にアニメ『ヨルムンガンド』『純潔のマリア』『ジョーカー・ゲーム』『ドリフターズ』『プリンセス・プリンシパル』『ルパン三世Part5』など。YouTube Originals で公開中の3DCGアニメ『OBSOLETE』では共同監督を務めた。

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