Febri TALK 2022.01.17 │ 12:00

須田剛一 ゲームデザイナー

①自分にとって最初のヒーロー
『宇宙の騎士テッカマン』

『NO MORE HEROES』や『killer7』など、ユニークな作品群で知られるゲームデザイナー・須田剛一。そのアニメ遍歴を聞くインタビュー連載の第1回は、小学生の頃の須田に、ヒーロー像を刻み込んだという一作について。

取材・文/宮 昌太朗

他のアニメとは何か違う――生々しい世界の匂いを感じた

――ゲームデザイナーとして活躍している須田さんですが、アニメの話を伺ったことはあまりないと思います。今回、3本の作品を挙げていただきましたが、1本目が『宇宙の騎士テッカマン(以下、テッカマン)』。1975年の放送なので、見ていたのは小学生くらいですか?
須田 そうです。僕は長野出身なんですけど、当時、長野はNHKの他に民放が2局しかなくて、オタクとしては非常にアウェーな環境だったんですね(笑)。だからアニメや特撮は宝物みたいなもので、テレビに映るものはすべて見る。そういう感じだったんですよ。しかも『冒険王』とか『テレビマガジン』『テレビランド』みたいなテレビ雑誌を母親に買ってもらって読むと、僕の知らないアニメについて書かれている。知らない世界がそこにあって、だからこそ1本1本を大切に見る。そういう感じはありました。

――『テッカマン』のどこに、そんなに魅力を感じたのでしょうか?
須田 子供の頃から宇宙が好きだったので、舞台が宇宙だったというのが、まずひとつ。加えて、主人公の南城二が変身する姿が妙に痛々しいんですよ。ワイヤーみたいな何かを巻きつけられて、苦しんで変身して。しかも戦い終わったあとは倒れ込んだり、ヘトヘトになって帰ってくる。「ヒーローって、こんなに苦しんで戦っているんだ」というのがガツーンと来たんですよね。あと、僕が初めて会った有名人もテッカマンなんです。

――有名人ですか?
須田 長野には当時、大きな百貨店がふたつあって――駅前の東急の他に、昭和通りに丸光(まるみつ)っていうデパートがあったんです。今はもうなくなっちゃったんですけど、丸光の屋上には遊園地があって、そこでよくサイン会が行われていたんです。で、そこにテッカマンが来て……。

――ああ、なるほど(笑)。子供向けのショーが来たわけですね。
須田 そうです! 母親に連れていってもらって、目の前でテッカマンにサインをしてもらって。今でもそのサインを書いて再現できるくらい、強烈な印象が自分の中に焼きついているんです。だから、自分にとって最初のヒーローはテッカマンだった気がしますし、最新作の『NO MORE HEROES』も『テッカマン』の影響を受けていて……。作中で主人公のトラヴィス・タッチダウンがフルアーマーを装着するんですけど、デザイナーに「テッカマンみたいにしてくれ」とお願いしています(笑)。

南城二の姿を見て

ヒーローってこんなに苦しんで

戦っているんだ、というのが

ガツーンと来た

――それくらい影響を受けているんですね。
須田 パワードスーツを着ているとはいえ、生身ひとつで戦う強さというか。空気のない宇宙空間は、穴が空いたら一発で死んでしまうわけじゃないですか。そんな怖い場所を南城二は身体ひとつで飛び回っているわけで、コイツはとんでもねーヤツだな、と(笑)。あとは、同じスペースナイツの仲間にアンドロー梅田っていうキャラクターが出てくるんですけど、彼が大好きだったんです。黒人のキャラクターで髪の毛がアフロで、とにかく強烈だったんですよね。今回の取材のために昨日、第1話を見ていたんですけど、山田康雄さんの声も素敵で――じつは『killer7』にアンドレイ・ウルメイダというアフロの黒人のキャラクターを出したんですけど(笑)、それくらい好きだったんです。子供心に大人の雰囲気があるというか、『テッカマン』には他のアニメとは何か違う――生々しい世界の匂いを感じていたのもしれないな、と思います。

――そういえば、『テッカマン』のキャラクターデザインは天野喜孝さんが担当していますよね。
須田 そうなんですよね。以前、フランスのイベントで天野さんと1週間くらいご一緒したことがあるんですけど、タクシーを待っているときに手帳にアンドロー梅田を描いていただいたことがあります(笑)。「あれ、おぼえてないな。アンドロー梅田ってどんなだっけ……」みたいな感じでしたけど。

――あはは。『テッカマン』は、ストーリー的にもちょっと暗い雰囲気がありましたよね。
須田 その暗さに惹かれたのはありますね。そういう意味では永井豪先生の『デビルマン』も圧倒的に好きでしたね。あと石川賢先生が『グレンダイザー対グレートマジンガー』の読み切りマンガを描かれているんですけど、これがヒドい話なんです。盗んだグレートマジンガーの身体に人間が何人も磔にされていて、グレートマジンガーがアトミックパンチを撃つ。で、当たると人がブチャッと潰れるっていう。『テレビマガジン』に載っていた記憶があるんですけど、いったいこれは何なんだ!?と。幼いながらも、圧倒的な悪意と戦うヒーローの闇の部分を感じましたね。

――南城二も「宇宙人と見ればみんな殺す」みたいな主人公ですし。
須田 そうですよね。『機動戦士ガンダム』でも、アムロがコンスコン隊を一網打尽にするじゃないですか。あれでアムロは「白い悪魔」って呼ばれるようになりますけど、僕からすると、初代「白い悪魔」はテッカマンなんです(笑)。endmark

KATARIBE Profile

須田剛一

須田剛一

ゲームデザイナー

すだごういち 1968年生まれ。長野県出身。ゲームメーカー・ヒューマン株式会社を経て、1998年に独立し、グラスホッパー・マニファクチュアを設立。代表作に『NO MORE HEROES』シリーズ、『killer7』『ロリポップチェーンソー』などがある。