Febri TALK 2022.01.19 │ 12:00

須田剛一 ゲームデザイナー

②スターシステムに魅せられた
『海底超特急マリン・エクスプレス』

インタビュー連載の第2回で取り上げるのは、日本テレビのチャリティ番組『24時間テレビ』内でオンエアされた、手塚治虫原案・総監督のカルトなアニメ。須田自身のゲームに与えた影響から、ゲーム化してみたい手塚作品まで話を聞いた。

取材・文/宮 昌太朗

僕にとっては手塚ワールドに案内してくれた教科書

――『宇宙の騎士テッカマン』以降も、アニメや特撮を見る生活が続いたのでしょうか?
須田 高校までは途切れることなく続いていましたね。しかも小学校高学年になると、アニメ雑誌という存在を知るんです。『アニメージュ』と『ジ・アニメ』、あとは途中から『アニメディア』が入ってきて『月刊OUT』と『ファンロード』と、手に入る雑誌は全部買っていました。

――世間的にも『宇宙戦艦ヤマト』から始まるアニメブームの真っただ中ですね。2本目に挙げていただいた『海底超特急マリン・エクスプレス(以下、マリン・エクスプレス)』は、1979年の『24時間テレビ』で放送されたテレビスペシャル。手塚治虫が原案・総指揮を務めた作品です。
須田 『24時間テレビ』で流れたスペシャルアニメの第2弾だったと思うんですけど、当時、アニメ雑誌で推されていたのですごく期待していたんです。しかも手塚作品のキャラクターが一同に会する。そこが僕にとってはめちゃくちゃ魅力的で。

――手塚ファンとして、期待値が高かったわけですね。
須田 手塚先生の作られた、いわゆる「スターシステム」ですよね。ブラック・ジャックはたしか『マリン・エクスプレス』にもそのままの名前で出てくるんですけど、アトムは違う名前(アダム・ナーゼンコップ)だったり、いったいこれは何なんだろう?と。要するに、キャラクターを作品ごとに存在すると考えるのではなく、ある種、役者みたいなものとして捉えて、作品という枠を飛び越えて活用する。とくに好きだったのがロック(・ナーゼンコップ)なんですけど……。

――『バンパイヤ』のロック・ホームが『マリン・エクスプレス』では、それとは別のキャラクターとして登場する、という。
須田 そうです。ロックというキャラクターにはすごく惹かれました。あとは主題歌の「ザ・マリン・エクスプレス」を歌っていたのがゴダイゴのトミー・スナイダーさんで、これがまたカッコいいんです。今でも大好きでiTunesに入れているくらいなんですけど、あの曲を聞くだけでも高揚感がある。『マリン・エクスプレス』が面白かったかどうかは別として、当時の興奮がよみがえってくる感じがあるんですよ。

――面白くはなかったんですか?(笑)
須田 いや、面白かったと思います。ただ、話の結末がよくわからなくて……。

――あはは。大風呂敷を広げたまま、畳まないで終わるっていう。
須田 そうなんですよ。でも、いろいろなキャラクターが出てきて、すごくお祭り感がある。そこがめちゃくちゃよかったんです。

主題歌の

ザ・マリン・エクスプレスは

今でも大好きで

iTunesに入れているくらい

――なるほど。手塚作品の中でとくに好きな作品は何ですか?
須田 アニメじゃなくてマンガになっちゃうんですけど、『MW』は好きですね。手塚先生の作品の中でもバリバリのサスペンスもので、ちょっと他の作品とは毛色が違う。これはゲーム化したら面白そうだな……と思っているくらい好きです。

――須田さんがゲーム化した『MW』は、ぜひ遊んでみたいですね。
須田 昔、手塚治虫マンガ全集を全部買ったんですよ。で、時間があるときにどんどん読んでいったんですけど、『ブッダ』だけはまだ手をつけていなくて。手塚先生の作品は、こちらのコンディションがよくないと読み進められないんですよね。いい加減な気持ちじゃ読めない(笑)。あと『火の鳥』もなかなか読み終わらないですね。老後の楽しみかな、と思っています。

――『マリン・エクスプレス』が須田さんの仕事に与えた影響はありますか?
須田 やっぱりスターシステムでしょうね。加えて、作品全体を包むお祭り感。いったいどんなものが始まるんだろう?という期待がどんどん膨らんでいって、超絶な展開が起きて結末へ加速するという、起承転結では収まらない作品が持つ独特のリズムでしょうか。そういった型破りな作品の作り方みたいな部分は、影響を受けていると思います。あと主題歌ってすごく大事なんだなとか(笑)。

――あはは。
須田 あらためて振り返ると、手塚作品の入り口みたいなところがあったと思うんです。このキャラはどんな作品に出ていたんだろう?って調べて読む、みたいな。たとえば、音楽だと、好きなアルバムのプロデューサーの名前をきっかけにして、他にどんなアーティストを手がけているんだろう?って調べて、違うバンドを知ったりするじゃないですか。それと同じように、僕にとっては手塚ワールドに案内してくれる教科書というか、カタログが『マリン・エクスプレス』だったのかなと思いますね。endmark

KATARIBE Profile

須田剛一

須田剛一

ゲームデザイナー

すだごういち 1968年生まれ。長野県出身。ゲームメーカー・ヒューマン株式会社を経て、1998年に独立し、グラスホッパー・マニファクチュアを設立。代表作に『NO MORE HEROES』シリーズ、『killer7』『ロリポップチェーンソー』などがある。

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