Febri TALK 2022.01.21 │ 12:00

須田剛一 ゲームデザイナー

③ジロンの熱い魂に感化された
『戦闘メカ ザブングル』

ゲームデザイナー・須田剛一に影響を受けたアニメ作品について聞く連載インタビュー。その第3回は、言わずと知れた富野由悠季監督の一作をピックアップ。須田自身の人生にも影響を与えたという、この名作をめぐって話を聞いた。

取材・文/宮 昌太朗

富野さんの姿勢からは、モノ作りをする作家の凄みを感じる

――3本目は『戦闘メカ ザブングル(以下、ザブングル)』。言わずと知れた富野(由悠季)監督の名作ですが、1982年放送なので、須田さんは当時、中学生ですかね。
須田 その中学の3年間がいちばん濃かった気がします。アニメにどっぷりハマるのと並行して、プロレスにもめちゃくちゃ没頭していたんです。アニメ雑誌を隅から隅まで読んだら、今度はプロレス雑誌を全部読んで、それをひたすら繰り返すっていう(笑)。しかも富野さんは、この3年間で『機動戦士ガンダム(以下、ガンダム)』のあとに『伝説巨神イデオン(以下、イデオン)』を作って、さらに『ザブングル』の準備もしていたわけで。僕も今、モノを作っている人間だからわかるところがあるんですけど、あれだけ濃くて、しかも毎回――ロボットアニメという共通項はあるものの、まったく違う作品を作り上げているじゃないですか。あらためて、そこは本当に凄まじいなって思いますね。

――すごく濃密な時期ですよね。
須田 だから当然、『ガンダム』と『イデオン』の洗礼を食らってはいるんですけど、でも個人的にはそのあとの『ザブングル』『聖戦士ダンバイン』『重戦機エルガイム』の流れも大好きで。(『ザブングル』の主人公)ジロン・アモスの大ファンになって――この前、中学の卒業文集を見ていたら、ジロン・アモスと『うる星やつら』の諸星あたるを描いていたことを思い出したんです。ああ、本当に好きだったんだなって。

――めちゃくちゃアニメオタクですね(笑)。
須田 あと当時、アニメ雑誌ではジロンが使っている銃を紹介していて。『ザブングル』は実在する武器が出てくるのが特徴のひとつだったんですけど、それで今度は銃にハマるんです。『Gun』って拳銃の専門誌がありましたけど、それを愛読し始めて。善光寺下にあったオモチャ屋がモデルガンをいっぱい置いていたので、ジロン・アモスと同じブローニング・ハイパワーっていう銃を買って、ひとりでジロンごっこをしていました(笑)。

――あはは。
須田 あとメカもこれまでのロボットとは違って、ウォーカーマシンっていう――ちょっと前に『未来少年コナン』で見たような無骨な見た目のメカだったんです。それこそ今見ると、青いザブングルがカッコ悪く見えるくらいなんですけど、でもシリーズの途中でその主役機が交代してウォーカー・ギャリアになる。主役機が途中で代わるっていうアイデアも革命的じゃないですか。兵器だから取り換えがきくっていうのも生々しいし、そのウォーカー・ギャリアのデザインが世界観としっくりくる感じがあって。しかも主役機然としていて大好きでしたね。

ジロンと同じ銃を買って

ひとりでジロンごっこを

していました(笑)

――先ほどジロンが大好きだったという話がありましたが、キャラクターの中ではやっぱりジロンがいちばんですか?
須田 ジロンが大好きですね。ストーリーはすっぽりと忘れちゃったんですけど、ある回でジロンがラグのことをずーっとビンタしているシーンがあって、すごいアニメだなって思ったんですよ(笑)。こいつら、必死で命を張って生きているんだなっていうか。ジロンの熱い魂みたいなものを感じて「こういう男になりたいな」って。というのも、中学時代は訳あって帰宅部で時間を持て余していたのでアニメとプロレスにどっぷりの生活を送れたんですけど、ジロンを見て「高校に入ったら絶対にリスタートをかけて、次は部活を3年間やり通す!」と思ったんです。それはジロンからの影響ですね。

――須田さん自身の人生にも影響を与えるくらい、存在感の強いキャラクターだった。
須田 やっぱり心の強さというか、芯の強さですよね。自分にはそこが欠けている気がして、そこを突破したいっていう気持ちが、ずっとくすぶっていた。高校でブチ破れ!って背中を押してくれたのがジロンでした。『ザブングル』にはそういう熱量みたいなものをもらった気がします。

――作品から受けた熱量以外で、影響を受けているなと感じるところはありますか?
須田 富野監督の世界観の作り方っていうんですかね。富野さんは作品ごとに、キャラクターにしても世界観にしても、これまでのものをすべて捨て去って、次はまた新しいものを生み出す。『ガンダム』というすごい作品を作っては捨て、次は『イデオン』というトンでもないものを作り上げて、また捨てる。『ザブングル』もそうですよね。そういうモノ作りにおける潔さみたいなもの、過去に引っ張られることなく新しいことにチャレンジする姿勢には、強く影響を受けている気がします。

――つねにアグレッシブな姿勢で、制作に取り組んでいくというか。
須田 ああ、これが本当にモノ作りをする人なんだなって、そういう凄みみたいなものを感じます。しかも富野さんは今でも『Gのレコンギスタ』を作ったり、年齢に関係なくクリエイティブを続けていらっしゃって。僕も年を取って、今の富野さんと同じ歳になっても、同じようにゲームを作る。そういう覚悟はありますね。endmark

KATARIBE Profile

須田剛一

須田剛一

ゲームデザイナー

すだごういち 1968年生まれ。長野県出身。ゲームメーカー・ヒューマン株式会社を経て、1998年に独立し、グラスホッパー・マニファクチュアを設立。代表作に『NO MORE HEROES』シリーズ、『killer7』『ロリポップチェーンソー』などがある。

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