Febri TALK 2021.06.18 │ 12:02

toi8 イラストレーター

③目指すべきキャラの形があった
『メダロット』

連載インタビューの第3回は、専門学校時代に見たTVアニメ『メダロット』。日本を代表する名アニメーターたちの競演に作画オタクの血が騒いだという。toi8は、本作をアニメにおけるキャラクター描写のひとつの到達点だと語った。

取材・文/岡本大介

ものすごく簡略化されたデザインとかわいさが両立している

――『メダロット』はゲーム原作のTVアニメですが、どのようなきっかけで見たんですか?
toi8 アニメの専門学校に通っていた時期にたまたま見て、作画がいいなと思ってハマった作品です。正直、原作のゲームをやったことはないですし、『メダロット』の世界観もいまだにほとんどわかっていないんです(笑)。ただただ「作画がいい」という一点だけで見続けましたから。

――作画以外は何も見ていなかったんですね。
toi8 ぶっちゃけるとその通りです(笑)。当時、作画オタたちの間で「キャラクターには影を付けなくてもいいんじゃないか?」というトピックがあったんです。たしかに本当にうまい人はシルエットだけで動かすことができちゃうんですけど、でも普通はなかなか難しい。でも、この『メダロット』のキャラクターたちはそれに近いことをやっているというか。ものすごく簡略化されたデザインとかわいさが両立している作品で、当時の自分が目指すラインの到達点だったんです。

――たしかに参加しているアニメーターは錚々たる顔ぶれですね。
toi8 そうなんですよ。制作スタジオがProduction I.G系のビィートレインというところで、今はピーエーワークスをやられている堀川憲司さんがプロデューサーとして参加しているので、『人狼 JIN-ROH』のスタッフやガイナックスのスタッフもかなり入っていて。その辺りの方々が手がけるシーンは恐ろしくうまいんですよ。いいなと感じた話数のエンドロールで好きなアニメーターさんの名前が入っているのを確認しては、ひとりでニヤニヤしていました(笑)。

――個人的にはどなたが好きだったんですか?
toi8 もうたくさんいるんですが。なかでもキャラクターデザインやオープニングを手がけていらっしゃるのが松竹徳幸さんで、僕はこのキャラクター造形が大好きなんですよね。極限までデフォルメの効いた、かわいらしいキャラクターが名アニメーターの手によって動きまわったときの気持ちよさはずば抜けたものがあって、僕はそれだけを追っていました。

――『メダロット』にはロボットもたくさん登場しますが、そちらは?
toi8 ロボットのアクションも好きでしたよ。今でもおぼえているのは26話(「メダフォース発動」)のメダフォースのバンクで、吉成曜さんが描かれたシーンですね。何がいいのかは言葉ではとても言い表せないんですけど、爆発のエフェクトも含めてとにかくカッコよかったんです。吉成さんは当時から好きで、少し前にやっていたTVアニメ『宇宙海賊ミトの大冒険』でも吉成さんの担当回だけチェックしていました。

極限までデフォルメの効いた

かわいらしいキャラクターが

名アニメーターの手によって

動きまわったときの気持ちよさ

――toi8さん自身もアニメーター出身ですが、名アニメーターと言われるような人はどこがすごいんでしょうか?
toi8 身もふたもない話なんですけど、単純な画力が段違いです。たとえば、同じプロ野球選手でも、2軍の控え選手とホームラン王とでは明らかな能力差があるじゃないですか。少なくとも僕は、アニメーター時代にはそれくらい圧倒的な能力差を感じていました。経験を重ねればいつか僕にもそういう絵が描けるようになるんじゃないかと思ってやっていたんですが、どれだけやっても全然描けないし、描けるようになる気もしないんです。志は高く持ってやっていたつもりなんですけど、これはさすがにかなわないと思って、それであきらめました。

――アニメーターからイラストレーターに転向して、あらためて両者の違いは感じますか?
toi8 基本的にアニメは共同作業ですから、大前提として決められた絵のルールを守りつつ、そのうえで自分なりの色を出していく、あるいはあえて出さないという世界ですよね。でも、僕はそもそも他人の絵に合わせて描くのが苦手で、何を描いても自分の絵になっちゃうんです。絵の力量という部分は度外視しても、もともとアニメーター向きではなかったんです。その点、イラストレーターの仕事って、決められた世界観のなかで描くことはあっても、皆さん大目に見てくれるというか、優しいんですよ(笑)。アニメの現場だったら「ルールを守れ」と全修正をもらう絵でも「いいよ」って許してくれる。そこが僕には向いている気がします。

――いつかもう一度アニメの仕事もやってみたいという気持ちはありますか?
toi8 いや、もう絶対に無理です(笑)。とくに今のアニメは僕がアニメーターだった頃に比べてかなりレベルが上がっていますから。

――今のアニメーターの画力は昔に比べて高いんですね。
toi8 正確に言えば、基礎的な画力という意味ではそこまで変化はないと思うんですけど、たとえば、見栄えのするアクションの描き方とか、そういうテクニックは格段にあるような気がします。何かひとつ飛び抜けた作画が生まれると、YouTubeなどで一瞬で拡散していきますから、技術が伝わるスピードが昔とはケタ違いなんですよね。それも国内のみならず世界中に広まるので、最近ではアジアや欧米の作画のレベルもすごく上がってきているような気がします。ひと昔前なら日本人にしか描けなかったようなシーンも見かけるようになりましたよね。

――たしかにそうかもしれません。今でもアニメはチェックしているんですね。
toi8 そこまで熱心に追っているわけではないですが、それなりには見ています。時代によって流行の絵柄というのは確実にあるので、それを踏まえて自分の絵もマイナーチェンジしていく必要がありますから、半分は仕事でもありますね。もちろん、今でもうまいアニメーターさんが手がけたシーンは興奮しますし、そのたびにやっぱり僕にはできないなって思い知らされたりもしています(笑)。endmark

KATARIBE Profile

toi8

toi8

イラストレーター

といはち 1976年生まれ。熊本県出身。2002年『空想東京百景』でイラストレーターとしてデビュー。代表作にライトノベル『まおゆう魔王勇者』シリーズ、ゲーム『Fate/Grand Order』のキャラクターデザインなど、さまざまなフィールドで活躍中。

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