Febri TALK 2021.06.14 │ 12:00

toi8 イラストレーター

①レイアウトの凄みに気づいた
『機動警察パトレイバー2 the Movie』

元アニメーターとしての経歴を持つイラストレーター・toi8(といはち)。自身が影響を受けたアニメ作品を聞くインタビューの第1回は、圧倒的な映像美に魅せられたと語る押井守監督作『機動警察パトレイバー 2 the Movie』。

取材・文/岡本大介

ビデオテープが伸びるまで見ていました

――toi8さんはアニメーター出身ですが、幼い頃からアニメが好きだったんですか?
toi8 それがそういうわけでもなくて、TVアニメを見て育ってきたというよりも、思春期に劇場アニメにどハマりして、そこから作画オタクになったタイプなんです。宮崎駿さんの作品や『AKIRA』などが世に出て、さらにバンダイビジュアルが質の高いアニメーションを展開していった流れのなかで、従来のTVシリーズとは違う「尖った作品」に惹かれたというのが大きいですね。

――なるほど。それまではアニメにはあまり興味がなかった?
toi8 人並みには見ていました。当時は『週刊少年ジャンプ』が黄金期だったので、ジャンプ派生アニメやゲーム原作のアニメはチェックしていましたし、子供らしくストーリーやキャラクターを純粋に楽しんでいたと思います。でも、どこかのタイミングで作画やレイアウトに興味を持ち始めて、それからはすっかりひねくれてしまって(笑)。

――ちなみに絵は子供の頃から描いていたんですか?
toi8 はい。絵はずっと好きで、小学生低学年くらいから描いていたんですけど、今みたいな絵柄ではなくて、原哲夫先生やカプコンのキャラのような筋肉質の男性キャラばかりを描いていました。美少女キャラを描くようになったのはアニメーターを目指すようになってからで、必要に迫られてという感じなんです。

――そうだったんですね。それは意外です。では、さっそくですが、最初は『機動警察パトレイバー 2 the Movie』からお話を聞いていきます。1993年劇場公開ですので、toi8さんは高校生くらいですね。
toi8 そうですね。もともとゆうきまさみさんの『究極超人あ~る』が好きで、その流れでマンガ版の『機動警察パトレイバー』を読むようになったんです。TVアニメもチェックしていたんですけど、そこまでハマらなくて。ただ、たまに文化祭みたいなノリの話があったり、脇役である整備員たちが暴れる回などがあって、僕はそっちがツボだったんですよね。ワニが襲ってくる話(第38話「地下迷宮物件」)なども印象深くて、調べてみたら僕が好きな話数は全部押井守さんが脚本を書かれている回だったんです。そこで初めて押井さんの名前を知って、その押井さんが監督を務めると聞いて、まず『1』を見て、そのあと『2』を見たという流れです。いやもう、どちらも衝撃を受けましたね。

建築物や都市の街並みに

佇んでいるレイバー

という風景がすごく好きなんです

――どんなところに一番惹かれましたか?
toi8 正直、ストーリーそのものはあまり頭に入ってこなかったんですが(笑)、ただただ「なんだかすごいことが起きている」っていう感動を覚えました。今考えるとレンズ効果やレイアウトに衝撃を受けたんじゃないかと思いますが、当時はそんなことは意識せず、とにかくビデオテープが伸びるまで延々と見ていた記憶があります。

――とくに印象的なシーンはありますか?
toi8 『1』だと帆場暎一の痕跡を追って、ふたりの刑事が東京の街を歩きまわる一連のシーンです。望遠レンズを使ったロングショットが多いんですが、朽ちた東京の街並みも相まって、あの空気感がなんとも言えず好きです。そもそもレイバー自体が、それまでのロボットアニメのサイズ感とは違うじゃないですか。戦闘シーンももちろんいいんですけど、個人的には「建築物や都市の街並みに佇んでいるレイバー」という風景がすごく好きなんです。

――toi8さんは自身の作品でも都市をテーマにしたものが多いですよね。ルーツ的な意味合いもあるんですか?
toi8 そうですね。ただ、そもそも僕らの世代って、多かれ少なかれサイバーパンクだったりスチームパンク的な世界観の影響を受けて育ってきているので、これが直接のルーツというわけではないですけど、そのうちのひとつではあると思います。

――わかりました。では、『2』はどのシーンが印象深いですか?
toi8 いわゆる「幻の空爆」と呼ばれるシーンです。銃撃戦も爆発もないんですけど、引きと寄りのレイアウトだけで緊迫感を演出していて、とにかくすごいなと。アニメートとしてのケレン味とは対極なんですけど、あそこまで徹底するとなんとも言えない凄みになるんですよね。あとおっさんキャラが好きなので、後藤隊長と役人の荒川による長い会話シーンも好きです。背景やレイアウト、音楽も含めて完成されていて、あの空気感はずっと見ていられる感じがします。

――日本のアニメーションにおけるレイアウトシステムを確立したのは押井さんだと言われていますが、まさにその演出に惹かれたんですね。
toi8 はい。CGでグルグルと動かすわけでもなく、パンやズームといった手法だけで画面がもつっていうのはやっぱりレイアウトがすごいからですよね。恐ろしい作品だなと思います。これは大人になってからの話ですが、『METHODS 押井守「パトレイバー2」演出ノート』というレイアウト集を読んだんです。それぞれに押井さんのコメントが書いてあるんですが、どのレイアウトにもしっかりと演出意図があって、考え抜かれているんだなと改めて納得しました。この本も自分の人生に大きな影響を与えましたね。endmark

KATARIBE Profile

toi8

toi8

イラストレーター

といはち 1976年生まれ。熊本県出身。2002年『空想東京百景』でイラストレーターとしてデビュー。代表作にライトノベル『まおゆう魔王勇者』シリーズ、ゲーム『Fate/Grand Order』のキャラクターデザインなど、さまざまなフィールドで活躍中。

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