Febri TALK 2022.03.28 │ 12:00

Tom-H@ck サウンドプロデューサー

①初めてアニメに深くハマった
『もののけ姫』

TVアニメ『けいおん!』のOPテーマ曲「Cagayake!GIRLS」で作曲家としてデビュー。多くのアーティストへの楽曲提供はもちろんのこと、自らもアーティストとして活躍するTom-H@ckが選ぶアニメ3選。インタビュー連載の1回目は、アニメに対して深く興味をもった目覚めの作品『もののけ姫』について。

取材・文/岡本大介

当時最先端のCGに夢中でした

――1本目は『もののけ姫』ですね。1997年の公開作品ですが、リアルタイムで見たのでしょうか?
Tom-H@ck はい。公開時は12歳なので、小学6年生か中学1年生でした。僕らの世代は生まれたときからジブリ作品に囲まれて育っているので、影響を受けずに大人になるのはむしろ難しいとさえ思います。なにしろ保育園で親の迎えを待つときからジブリ作品を見ていましたから。

――では、『もののけ姫』はジブリでいちばん好きな作品ということですか?
Tom-H@ck 個人的にジブリ作品でいちばん好きなのは『紅の豚』なんですけど、衝撃を受けたとなると『もののけ姫』です。いまだに影響を受けていると感じるところもあるので、今回はこちらを選ばせていただきました。

――どんなところに衝撃を受けましたか?
Tom-H@ck じつは最初に劇場で見たときは、僕自身がまだ子供だったこともあって、物語の内容を深く理解できませんでした。冒頭でタタリ神の遺体から鉛玉が出てくるじゃないですか。あれが鉄砲の弾で、それを撃ち込んだのが人間だということすらよくわかっておらず、「なんか魔法の玉が出てきた?」くらいに思っていて(笑)。『天空の城ラピュタ』とか『となりのトトロ』はシンプルなストーリーでしたが、それに比べると『もののけ姫』は、アシタカとサンの立場の違いはもちろん、エボシやタタラ場の人たち、ジコ坊たち、さらにはもののけたちの思惑が複雑に絡んでいて、当時の僕には消化できなかったんです。

――大人になるに連れて、深く読み解いていった感じですか?
Tom-H@ck そうですね。とはいえ、衝撃を受けたのはテーマやストーリーではなく、映像だったんです。映画の公開から少し経った頃に制作の裏側を紹介するドキュメンタリー番組が放送されて、それをたまたま見たんです。そこで劇中のデイダラボッチがCGで作られていることがわかって、心を奪われました。

――入り口はデジタル技術への興味だったんですね。
Tom-H@ck そうです。アニメに限らずですが、当時からデジタル技術への興味が強かったんですよね。それですぐに『もののけ姫』のビデオを買って、CGのシーンを中心に何十回も繰り返し見ました。自分の意思でアニメを深く掘り下げたのはそれが初めてでしたし、そうやってひとつのコンテンツを徹底的に研究したのも初めてで、その経験が今でも自分のベースになっているような気がします。その意味で『もののけ姫』との出会いは、現在の創作活動に直結するレベルで影響を受けているともいえますね。

――そうだったんですね。CG以外に印象深いシーンはありますか?
Tom-H@ck とくに印象深いのは、シシ神が(タタリ神に変貌した)乙事主(おっことぬし)にキスをして命を吸い取るシーンです。そのシーンの絵はすごく繊細で綺麗で美しいんだけど、同時にどこか怖くもあって、なんとも不思議な感覚になります。

――わかります。『もののけ姫』はわりと怖い描写がありますよね。幼少期に見てトラウマが残っている人も多い印象です。
Tom-H@ck 僕はそこまでは小さくなかったので大丈夫でしたけど、もっと幼ければそうなったかもしれません。僕の場合は、幼少期に見た『火垂るの墓』がそれに当たりますね。

稀代のメロディメーカー

久石譲さんの楽曲は

作品の「世界観」そのもの

――『もののけ姫』の音楽については、どうですか?
Tom-H@ck 初めて映画を見たときは意識していなかったんですけど、久石(譲)さんの音楽って、知らないうちに脳に深くインプットされますよね。大人になってから「それってどうしてだろう?」と思って研究したこともあります。『もののけ姫』に関しては、フルオーケストラで作譜しているわりには意外とレンジ(音域)が狭いというか、低いんですね。普通はもっと広げたくなるところを、あえて団子のように小さく音を固めていたりして。久石さんはもともとミニマル・ミュージックがご専門なので、狙って作っていらっしゃるんだろうなと思っています。

――楽曲のスケール感としては、決して大きくはないということですね。
Tom-H@ck 言葉で表現するのは難しいんですけど、僕の感覚でいえば、ギター一本でやるような楽曲をあえてオーケストレーションしている感じで、オーケストラの形をしたパンクというイメージです。それは久石さんが稀代のメロディーメーカーであることが大きいと思うのですが、だからこそすべての楽曲が作品の「世界観」そのものになり得ているような気もしていて。

――なかなか難しいお話ですね。
Tom-H@ck 歌ものがそのままインストになった楽曲を劇伴として流すのは、普通ならメロディが強すぎて作品世界と折り合わなかったりもするんですけど、そこは相手がジブリ作品であり、宮崎駿監督だからこそ共存できるのかもしれません。

――ちなみに『もののけ姫』の音楽については、久石さんご自身も「悔いなく仕上げられた」と達成感を感じたそうです。
Tom-H@ck 素晴らしいですね。音楽の仕事に限らない話ですが、どんな些細なことでもいいので、のめり込めるポイントを探すことが大切なんだなとあらためて感じますね。endmark

KATARIBE Profile

Tom-H@ck

Tom-H@ck

サウンドプロデューサー

トムハック 1985年生まれ。宮城県出身。作編曲家の百石元に2年間師事したのち、2009年、TVアニメ『けいおん!』のOPテーマ曲「Cagayake!GIRLS」で作曲家デビュー。バンド、アイドル、アニメ、ゲームなど、幅広いジャンルへの楽曲提供を行うかたわら、自らもOxT、MYTH & ROIDとして活躍中。

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