Febri TALK 2022.04.01 │ 12:00

Tom-H@ck サウンドプロデューサー

③海外進出のきっかけ
『Re:ゼロから始める異世界生活』

TVアニメ『けいおん!』のOPテーマ曲「Cagayake!GIRLS」で作曲家としてデビュー。多くのアーティストへの楽曲提供はもちろんのこと、自らもアーティストとして活躍するTom-H@ckが選ぶアニメ3選。インタビュー連載の最終回はアーティストとして参加し、大きな手応えを感じた『Re:ゼロから始める異世界生活』について。

取材・文/岡本大介

アニメ挿入歌としては最悪!? それでも可能性に賭けてみた

――3本目は『Re:ゼロから始める異世界生活(以下、リゼロ)』です。こちらはTom-H@ckさんもMYTH & ROIDとして主題歌や挿入歌を提供していますね。
Tom-H@ck 『リゼロ』はとても面白くて大好きな作品ですし、僕が海外で活動するようになったきっかけでもあります。この作品に出会わなければ今の僕はいないというくらいターニングポイントとなった作品なので、選ばせていただきました。

――主題歌「STYX HELIX」をはじめとして、『リゼロ』関連の楽曲は海外人気がすごく高いですよね。曲調もいわゆるアニソンの枠には収まらない楽曲ばかりです。
Tom-H@ck ヒットする楽曲って、2パターンあると思っているんです。ひとつは作品そのものが大ヒットして、それに付随して楽曲も売れるというパターン。もうひとつは、作品と深くつながることで、作品の一部として受け入れられていくパターン。それでいうと『リゼロ』は幸運なことに後者なのかなと感じています。

――たしかに楽曲を聞いた瞬間に『リゼロ』の世界に引き込まれる感覚があります。
Tom-H@ck ありがとうございます。楽曲にそういうある種の魔力を持たせることって、クリエイターとしてはひとつの夢なんですけど、当時の僕の力や技術でそういうものが生み出せるとは正直思っていませんでした。でも、優秀で野心的なアニメスタッフさんたちのお力添えもあり、納得のいく楽曲を制作することができました。『リゼロ』という作品を完成させるための欠かせないピースになることができた気がして、僕にとっても大きな自信になりました。

――『リゼロ』では主題歌だけでなく、挿入歌も効果的に使われていますよね。第7話の「STRAIGHT BET」と第14話の「theater D」は、どちらもシーンとともに脳裏に焼きついています。
Tom-H@ck ココだけの話、「STRAIGHT BET」を納品した際は担当の音楽プロデューサーから難色を示されたんです。アニメの挿入歌としては最悪だって(笑)。この曲が流れてお客さんの心に刺さるのかと懐疑的で。それは僕も同じ気持ちではあったんですけどね(笑)。

――え!? では、なぜ「STRAIGHT BET」を作ったんですか?
Tom-H@ck 懐疑的な気持ちの他に、試してみたいという気持ちも半分あったんです。J-POPともアニソンともかけ離れた楽曲だけど、もしかしたら『リゼロ』という作品ならば受け入れられるかもしれないという予感があったんですよね。だから、この曲がファンから高い評価をもらったときは、分の悪い賭けに勝ったような気持ちでした。

――曲名通り、まさにBET(賭け)したんですね。
Tom-H@ck 僕の気持ちがタイトルになっているわけじゃないですよ(笑)。図らずも、あのときのスバルの状況と似てしまったということですね。

第1話が衝撃的で

大人でも楽しめる

これほど面白いアニメが

存在するんだと思った

――ひとりの視聴者として見たとき、『リゼロ』のどんなところが好きですか?
Tom-H@ck 異世界作品の面白いところを全部詰め込んでいますよね。そのうえで第1話が衝撃的で「大人でも楽しめる、これほど面白いアニメが存在するんだ」と思った記憶があります。「え? まさか主人公が殺されるの?」とか「エルザ怖え!」とか、事前に原作も読んで設定も展開も知っているはずなのに、映像になった際のクオリティが半端じゃなくて。同時に、これは絶対に大ヒットするぞと確信しました。

――実際に大ヒットしましたね。冒頭のお話にもありましたが『リゼロ』は海外人気も高く、MYTH & ROIDやTom-H@ckさんの名前が広く海外に知られるきっかけにもなりました。
Tom-H@ck 僕には百石元(ひゃっこくはじめ)さんという音楽の師匠がいて、ずっと「これからは海外に目を向けろ」と教えられてきたんです。音楽的にもビジネス的にも国内だけを見るなと。なので、もともと海外に向けた音楽活動というのは意識していたのですが、それが具体的な形となったのが『リゼロ』なんです。

――Tom-H@ckさんはクリエイターですが、実業家としてもセンスがあるのが特徴ですよね。良い曲を作ればそれで満足というタイプではない。
Tom-H@ck 師匠の影響も大きいですが、そうかもしれませんね。日本の音楽って、アニメを通じてもっと広く海外で活躍できると思っていますし、誰もやらないなら僕がその道筋をつけたいという気持ちがあります。

――なるほど。そういう意味では『リゼロ』はまさに名刺がわりの作品なわけですね。
Tom-H@ck そうです。『リゼロ』での経験を通じて、僕自身の音楽の幅や価値観、音楽ビジネスの展開など、いろいろなことが大きく変わったのは事実で、そこは感謝しかないですね。これからの活動を通じて、できる限りアニメに恩返しをしていきたいと思っています。endmark

KATARIBE Profile

Tom-H@ck

Tom-H@ck

サウンドプロデューサー

トムハック 1985年生まれ。宮城県出身。作編曲家の百石元に2年間師事したのち、2009年、TVアニメ『けいおん!』のOPテーマ曲「Cagayake!GIRLS」で作曲家デビュー。バンド、アイドル、アニメ、ゲームなど、幅広いジャンルへの楽曲提供を行うかたわら、自らもOxT、MYTH & ROIDとして活躍中。

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