Febri TALK 2022.05.13 │ 12:00

土屋理敬 脚本家

③長年の夢がかなった
『劇場版MAJOR メジャー 友情の一球』

脚本家・土屋理敬に影響を受けたアニメ作品について聞くインタビュー連載。第3回で取り上げるのは、初めて劇場作品に挑んだ『劇場版MAJOR メジャー 友情の一球』。原作にはないオリジナルストーリーをどのように構築していったのか、その裏側を聞いた。

取材・文/宮 昌太朗

男の子の「行動してなんぼ」というところを描くのも、また楽しい

――3本目に挙げたのが『劇場版MAJOR メジャー 友情の一球』。これは劇場作品ですが、TVシリーズからシリーズ構成を担当していますね。
土屋 スポ根ドラマというよりは大河ドラマに近いテイストの作品で、原作のストックがほとんどない状態で始まった『わがまま☆フェアリー ミルモでポン!(以下、ミルモ)』とは対照的に、お話をいただいた時点で45巻あたりまで原作が出ていたと思います。2クール×3シリーズくらいでやるというのも、すでに決まっていましたね。しっかりとした原作があるという安心感もありましたし、この原作をどうやってアニメに落とし込むか。原作ファンの期待を裏切らずに、どうやって面白くするか、というところを考えていました。

――監督のカサヰケンイチさんとは、この前の『ミルモ』で初めて組んでいますよね。
土屋 そうですね。長期シリーズは『ミルモ』が初めてだとおっしゃっていた記憶があります。お互いにあまり知らない状態で顔を合わせたんですが、カサヰさんとは仕事をしていて「やりやすいな」と感じました。「やりやすい」というと言葉がちょっと軽いですが、一緒にシリーズ構成を考えたり、他の人の脚本を読んでいて「こうしたらいいんじゃないか」と思う、その方向性が似ていると感じるんです。感覚が合うというか、笑いどころが一緒だなと思うことが多かったですね。それがいいことなのか悪いことなのかはわかりませんが、組んでいて楽しく仕事ができる監督でした。

――この劇場版は、TVシリーズの第4期と第5期の間に入るエピソードになっていますね。もともとはどういうところから出てきた企画だったのでしょうか?
土屋 映画の企画自体は、第4期をやっている途中で出てきたと思います。原作に番外編的な10ページくらいの短いエピソードがあって、これを膨らませて劇場版にしよう、という企画でした。主人公の吾郎が、それまで右投げだったのを左投げに変える時期のエピソードなんですが、原作では描かれていないところを描こう、ということですね。やるべきことはすでに決まっている段階からのスタートでした。

不幸な出来事であっても

最終的に吾郎にとって

プラスになったんだと

伝わるように意識した

――作業をしていて、いちばん大変だったところはどこでしょうか?
土屋 試合中に吾郎が右肩を壊して、右腕では投げられなくなる。結末はすでに決まっていて――ある意味、すごく残酷な結末に向かってストーリーが進んでいく。しかも、観客はそのことを知っているんですね。なぜこんな悲しい話を描くのか、どのように見せれば、この悲しいストーリーを嫌な後味を残さずに観客に楽しんでもらえるのか、ということをいちばんに考えていました。周りの友人たちや家族との関わりのなかで、吾郎の「どうしても投げたい」という気持ちから悲劇が起きてしまう。でも、その苦境を支えたのもまた友人や家族だった……。不幸な出来事ではあったけれども、最終的に吾郎の中でプラスになる出来事だったんだ、ということが最後に観客に伝わるように、意識して脚本を書きました。

――TVシリーズはそれこそ大河ドラマのように、いろいろな人物が吾郎の周囲を出入りする流れですが、この劇場版はしっかりとしたドラマが一本、軸を作っているような印象ですね。
土屋 吾郎が福岡にいたときの出来事なので、周囲の友人やチームメイト、あとは敵側のチームもほとんど原作にはいないオリジナルキャラクターばかりだったんです。そういうなかでひとつの完結した物語を作るというのは、TVシリーズとはまた少し違った仕事だったように思います。

――やはり、TVシリーズとは違う意識で取り組んでいたわけですね。
土屋 「劇場映画をやりたい」という、長年夢見ていた思いがかなったというか、自分が目標としていたところにたどり着いた、そういう気持ちになった作品ですね。エンドロールで自分の名前が上がってきたときに、ひとつ区切りがついたな、と感じました。

――そういう意味でも、土屋さんにとって大切な仕事になっているわけですね。TVシリーズはそのあとも続いて、続編の『メジャーセカンド』が制作されました。
土屋 まさかここまで続くとは、と感じますね。「これぞ男の子」というか、クソガキっぽいところも含めて典型的な子供っぽさが見ていて微笑ましい気分になる。女の子ものをやっているときとは正反対というか、女の子の繊細さや存在感とはまた違う、男の子の「行動してなんぼ」というところを描くのも楽しくて。そういう意味では、典型的な男の子を描いた作品になっているのかな、と思います。

――と言いつつ、『メジャーセカンド』では女性キャラクターもたくさん活躍するようになっていますよね(笑)。
土屋 そうなんですよ。女子野球っぽいところが意外な展開と言いますか。今は原作と並行でアニメが進んでいるので、どっちの方向に行くのかは僕にもわからない。これからが楽しみです。

――『メジャー』が「典型的な男の子」を描いた作品だというお話には、タイガーマスクでごっこ遊びをしていた土屋さんの姿が、なんとなく重なっているような気もします。
土屋 少年マンガで活躍するような男の子になりたい自分がいたんだろうな、と思います。でも、僕自身は肉体派では全然なくて、どう考えてもインドア派だった(笑)。そういう憧れが、今は脚本を通して作品に落とし込めているのかな、と。いい仕事に恵まれたなと思いますね。endmark

KATARIBE Profile

土屋理敬

土屋理敬

脚本家

つちやみちひろ 1965年生まれ、東京都出身。脚本家。1996年に放送された『バケツでごはん』でアニメ脚本家としてデビュー。近年の参加作品に『メジャーセカンド』『Lostorage incited WIXOSS』『アイドルタイムプリパラ』など。