Febri TALK 2022.05.11 │ 12:00

土屋理敬 脚本家

②女の子を描く面白さに気づかされた
『わがまま☆フェアリー ミルモでポン!』

脚本家・土屋理敬のルーツに迫るインタビュー連載の第2回で取り上げるのは、自身がシリーズ構成・脚本を担当し、その後の仕事にも大きな影響を与えたというアニメ『わがまま☆フェアリー ミルモでポン!』。ドタバタギャグとファンタジックな世界観が魅力の原作に、どう取り組んだのか。

取材・文/宮 昌太朗

思春期の女の子の「成長したい」という思いの強さには特別なものがある

――脚本家を目指そうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
土屋 前回お話ししたように、高校のときは部活に入らずにボクシングジムに通うほど身体を動かすのが好きだったんですが、それと同時期に映画を見るのにハマるんです。当時は2本立てや3本立ての映画館がまだたくさんあったので、毎週のように通っては、手当たり次第に見ていましたね。見ていたのは洋画がほとんどで、やっぱり娯楽作品、スティーブン・スピルバーグ監督の作品も大好きでした。そんなわけで、身体を動かすことからだんだんと実写の映像を作るほうに興味が移っていくんです。

――なるほど。実写映画への興味がまずあったわけですね。
土屋 大学に進学するかしないかくらいの頃になると、映画作りに関わることがしたいと思って、原稿用紙に脚本っぽいものを書き始めるんです。アメリカ映画が好きだったこともあって、当時はスピルバーグのような王道の感じを目指していたと思いますね。わかりやすく起承転結があって、最後にはカタルシスがあって、みんなで笑えるようなものがいいなぁ、と。そうこうしているうちに、映画を作りたいと思っている仲間が集まって、劇団を立ち上げることになるんです。そこに僕も加わるようになって、舞台の世界に出入りするようになりました。演劇を本格的にやり始めたのは大学に入ってからなんですが、卒業したあとも新劇の養成所に入って、演技の勉強を続けていました。で、養成所を卒業して劇団を作ったはいいものの、舞台にかける演目がないという話になって「じゃあ、僕が書いてみようか」と。

――そこで本格的に脚本を書くことになったわけですね。
土屋 小さい劇団だったので、とにかく手当たり次第にダイレクトメールで招待券を送ったんです。それこそ、テレビ局や映像制作会社にも送りつけたんですが、そのときたまたま上演を見に来てくださったのが出﨑 哲(さとし)監督で「今度、ウチでやるアニメの脚本を書いてみないか?」と誘われたのが『バケツでごはん』でした。高校のときから「いつか映像の仕事をやりたい」とずっと思っていたので、すごくうれしかったですね。

わりとなんでもアリで

誰も止めないならやっちゃうよ

というノリが許される作品だった

――なるほど。『わがまま☆フェアリー ミルモでポン!(以下、ミルモ)』の放送開始が2002年なので、『バケツでごはん』からは少し間が空いていますね。
土屋 7年くらいですかね。『ミルモ』は僕にとって初めての、少女マンガ原作の作品だったんです。それこそ原作は、主人公が思春期の女の子で、好きな男の子がいて……という直球の少女マンガで、声をかけていただいたときは「これを自分がやって大丈夫かな?」という不安もあったんです。ただ、その一方でギャグが多めだったり、魔法や妖精が出てきたり、バトルがあったりと、いろいろな要素が詰め込まれた作品だったんですね。「これならやれるかな……」と思いながら書き始めたんですが、そのうちに「意外と女の子って書きやすいな」と。書いているうちに、どんどん面白くなってきたんです。

――書いていて、女の子のどんなところが面白いと感じたのでしょうか?
土屋 思春期の女の子って、成長するスピードというか「成長したい」という思いの強さに特別なものがあるな、と感じたんです。同じ年代の男の子と比べたときに、精神年齢の差がいちばん出る時期なのかな、と。僕が男だからそう思うのかもしれないですが、感情のひだの数が全然違う。男の子は単純というか、色でたとえると「赤」「青」「黄色」みたいな単色なんです。ちょっと複雑なヤツがいたとしても、緑とかオレンジくらいな感じで。一方、女の子は「パステル調の××色寄りの〇〇色」みたいなことが許されるんですね。それこそ64色の色鉛筆くらいグラデーションがあって、そこが面白いなと思いました。

――『ミルモ』の中で、思い入れのあるエピソードというと?
土屋 最初のシリーズの第12話「リルムとモグちゃんと…」です。魔法が不得意な女の子の妖精・リルムが、ぬいぐるみのモグちゃんをペットにしようとして、魔法でモグちゃんを歩けるようにしてしまうんです。そうしたら、どんどん成長してしまったモグちゃんが街を壊してしまうという話で。しかも、そのまま投げっぱなしで終わる(笑)。これは昔、自分が『うる星やつら』なんかで見ていて、「いつかやりたいな」と思っていたあのパターンだよな、と感じた記憶があります。『ミルモ』はわりとなんでもアリの作品で、それこそ固い岩を割るだけで一本の話を作ってしまったり(笑)。「誰も止めないならやっちゃうよ」みたいなノリが許された作品だったなと思います。

――『ミルモ』は最終的には3年半にわたって続く長期シリーズになりました。土屋さんにとっても初めての経験だったと思うのですが、振り返ってみていかがでしたか?
土屋 この前に、同じ枠で放送されていた『東京ミュウミュウ』がわりと注目されていたので、「その流れで『ミルモ』も見てもらえるといいね」とスタッフの間で話をしていたんです。おかげさまで評判もよくて、途中で放送時間帯がゴールデンに移ったりして、こちらが思っていた以上に面白く見てもらえたのかな、と思います。『ミルモ』のあとも『きらりん☆レボリューション』や『プリパラ』『かみさまみならい ヒミツのここたま』といった、少女向けの長期シリーズのお話をいただけるようになって、自分にとってのホームグラウンドになりました。最近は「こういうテイストの作品が自分に向いているのかな」と感じることが多いのですが、その最初の作品が『ミルモ』だったなと思います。endmark

KATARIBE Profile

土屋理敬

土屋理敬

脚本家

つちやみちひろ 1965年生まれ、東京都出身。脚本家。1996年に放送された『バケツでごはん』でアニメ脚本家としてデビュー。近年の参加作品に『メジャーセカンド』『Lostorage incited WIXOSS』『アイドルタイムプリパラ』など。