Febri TALK 2021.04.23 │ 12:00

うえのきみこ 脚本家

③『スペース☆ダンディ』で見つけた
自分の居場所

『リトルウィッチアカデミア』などでも、唯一無二の個性を放つ脚本家・うえのきみこ。インタビュー連載の第3回は、彼女自身も脚本家として参加したアニメ『スペース☆ダンディ』をピックアップ。その舞台裏について語る。

取材・文/宮 昌太朗

自分も「研ぎ澄まされた適当」でありたいと思っています

――日本映画学校を卒業したあと、派遣社員として働いていたという話がありましたが、具体的にはどんなお仕事だったんでしょうか?
うえの 某クレジットカード会社で働いていました。……といっても、私、何にもできないんですよ。しゃべるのも上手じゃないし、あと電話がすごい苦手で、電話の応対もできないし。いろいろな部署をたらい回しにされて、最終的には申込用紙を数えて、段ボールに詰める仕事を一日中やっていました。

――それはもう、仕事としてはアルバイトレベルですね(笑)。
うえの あと職場に入るときに指紋認証みたいなのが必要だったんですけど、私の指紋だけ全然読み込んでくれなくて。生きているのか死んでいるのかよくわからなくなってきて(笑)、その段階からつまずいていました。

――働く以前の問題っていう(笑)。じゃあ、脚本のお仕事を始めることができてよかった、という感じですか。
うえの そうですね。たまたま面白いと思ってくれる人がいて、よかったなと思います。ただ、書くのは楽しいんですけど、打ち合わせというか会議が……。たとえば、ネタ出しのときに、みんなが集まったところで「これの何が面白いんですか?」って聞かれるのが本当に苦手で。

――自分でギャグを解説しなくちゃいけないわけですね。
うえの まさしく。それがもう地獄でした。

――それはさておき(笑)、3本目は渡辺信一郎さんが総監督を務めた『スペース☆ダンディ(以下、ダンディ)』。これは脚本家としてお仕事を始めてからの作品になりますね。
うえの そうですね。これはまだ私が映画会社とかでプロットを書いていたときに、たまたま実写の企画か何かで渡辺さんにお会いする機会があったんです。その企画自体は結局、うまくいかなかったんですけど、そのときに私が書いたプロットのことを渡辺さんが覚えてくださっていて。で、ある日、渡辺さんからメールが来たんです。「こういう企画があるんだけど、やります?」って。

――監督から直々に声がかかったんですね。
うえの それで「やります!」って、ふたつ返事でお答えして。ただ、それまでは子供向けの作品ばかりをやっていたので、全然わけがわからなかったですね。

――あはは。
うえの しかも最初にボンズに伺ったときに案内された場所が、本社の奥にある物置きみたいな場所だったんです。人が誰もいなくて、薄暗くて、山のように積まれた段ボールに渡辺さんのCDがいっぱい詰まっていて。あとはパソコンが2~3台置いてあるだけ。ほかに佐藤大さんや監督の夏目(真悟)さんがいらっしゃったんですけど、「これ、本当に大丈夫なんだろうか?」って思いました(笑)。

話をブン投げるときは

拾えないくらい

遠くにブン投げろ、と

教えてもらいました(笑)

――最初は、やはりネタ出しですか?
うえの そうですね。ネタ出しをしながら、渡辺さんが「こういう話は面白いね」ってピックアップしたものを打ち合わせで揉んで、そこからプロットを書くっていう手順でした。第3話(「騙し騙される事もあるじゃんよ」)は、そうやって出したプロットのひとつですね。あとパッケージ版の映像特典に付いていたピクチャードラマがあるんですけど、ダンディたちが洗濯機のなかに入って、そこで働いている女の子たちを救うっていうエピソード(第5巻の特典「地獄のコインランドリーじゃんよ」)。それがたぶん、最初のネタ出しで提出したアイデアだったと思います。

――あれは面白かったですね!
うえの 三原三千夫さんが絵を描いてくださったんですけど、すごくかわいいんですよ。信本(敬子)さんが書かれたエピソード(第9巻「デビューの道はキビシーじゃんよ」)とか本当にすごくて。チャンスがあれば、ぜひ見ていただきたいです。

――それまでに関わった作品との違いは、何だったんでしょうか?
うえの 自由というか、「こんなことをしてもいいんだ!」みたいな感じがありました。きっと裏では、いろいろとご苦労があったと思いますが、思いついたらやっちゃおう、みたいな。会議自体、みんなでチャック・ノリスのアニメを見たりとかして。そこで誰かが適当に発言したアイデアが面白かったら、それがシナリオに反映されたり、かと思えばアイデアが出るまで何時間も会議をしたりして、まさにいい加減を磨き抜くというか。

――あまりほかにはない現場のような気もしますが(笑)、『ダンディ』の経験は後の作品に生きているでしょうか?
うえの そうですね……。渡辺さんに「話をブン投げるときは、拾えないくらい遠くにブン投げろ」と教えてもらって(笑)、「なるほど!」と。『ダンディ』の第7話で主人公が未来に行くんですけど、10年先の未来だったらほかの登場人物はどうなっているんだろうって気になりますけど、56億7000年後の未来に話をぶん投げれば、どうでもよくなるっていうか(笑)。そういう突き抜けたバカな感じは、ほかの作品でも心がけています。あと『ダンディ』を作っていたときに「研ぎ澄まされた適当」というキーワードがあって。自分もつねにそうありたいなって思っていますね。

――なるほど。振り返ってみて、うえのさんにとって『ダンディ』はどんな作品だったのでしょうか?
うえの 『ダンディ』のあとも『ダンディ』でご一緒した方とお仕事をすることが多くて、声をかけていただく機会もたくさんあって。なので、自分の居場所が見つかった作品というか(笑)。そんな感じですね。endmark

KATARIBE Profile

うえのきみこ

うえのきみこ

脚本家

1975年生まれ。神奈川県出身。日本映画学校を卒業。主な作品に『クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン~失われたひろし~』『王室教師ハイネ』『BNA ビー・エヌ・エー』など。脚本を手がけたオリジナルアニメ『エデン』が2021年5月27日からNetflixにて配信。『映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』が2021年7月30日に公開された。

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