Febri TALK 2021.12.15 │ 12:00

上江洲誠 脚本家

②『トップをねらえ!』
「下品で粗野」なOVAのマスターピース

『カーニバル・ファンタズム』『Fate/Grand Carnival』など、OVA作品でも上江洲誠はキレキレの仕事を見せている。影響を受けたアニメを語るインタビュー連載の第2回は、名作OVAを軸に上江洲の80年代・90年代OVA文化への愛がほとばしる!!

取材・文/前田 久

クリエイターとして、こういう作品を作りたいとあこがれる

――2本目は『トップをねらえ!』です。これは上江洲さんにとって、どういう意味合いの作品なんですか?
上江洲 僕ね、ロボットやヒーローが好きだったから、子供のときにあんまり美少女ものには傾倒しなかったんです。『トップをねらえ!』もロボットSFもののつもりでレンタルビデオ屋で借りてきた。美樹本晴彦さんのえっちなキャラは、なんだったらちょっと恥ずかしいなくらいに思っていたんですね(笑)。でも、当時はOVAだったら何でも見るつもりでいたから、「一応、見ておくか……」みたいな感じで借りたら、腰が抜けるぐらい面白かった。さっきまであれだけ『ガイバー』のことを褒めておいてなんだけど、トータルで判断して、あの熱狂的なOVA文化のマスターピースを選ぶとしたら『トップをねらえ!』だと思います。これがあの時代の、あの文化の、ひとつのゴール。

――詳しく聞かせてください。
上江洲 OVAというのはすごく下品で粗野なものです。スタッフたちのやりたい放題。テレビでやっちゃいけない「悪いこと」を発露する場所だった。それが面白くてみんな見ていたわけですけど、そういう「露悪的な場としてのOVA」の完成品が『トップをねらえ!』だと思います。よく知られているように、のちに『ふしぎの海のナディア』とか『新世紀エヴァンゲリオン』を作る人たちが集まって、やりたい放題なものを作った結果できた、とても面白いもの。『ガイバー』が僕のチャイルディッシュな「男児」としての部分で大好きな作品だとしたら、『トップをねらえ!』はもう少し成長した「オタク」としての目線でマスターピースだと感じた作品。当時はまだ中学生ぐらいでしたけどね(笑)。

――女の子がとてもかわいく描かれていて、お色気もあって、アクションもあって、ロボも活躍して、怪獣も出てきて、SF的な感動もあって……みたいな、全部盛りのアニメですよね。
上江洲 そうそう。だから、当時のOVA好きな人たちは、これを見てアニメを卒業してもよかった。「もっと違うタイプのアニメが見たいな」と思ってもいい。そういう意味でゴール……「出口」なんですよね。オタクの好きなものが全部盛りで、過剰でありつつ、一本の作品として破綻していないのもすごい。だから何度も見られる。どこかで破綻している作品も一度見るだけなら面白いけど、「何度も」は無理なんです。

当時のSF好きな人たちの

悪ノリが下品でふざけたものに

見えないのは

庵野さんが上品な演出家だから

――総論っぽいお話を先にうかがいましたけど、各論的な部分もうかがっていいですか? 具体的に、どんなところに上江洲さんが面白さを感じたのか。
上江洲 まずはパロディが面白い。当時のガイナックスのみなさんが、それまでの人生で好きだったものをぶっこんで作っているじゃないですか。とくに第一話はその色が強い。『エースをねらえ!』と『トップガン』と他にもあれこれ、ごった煮のパロディになっている。あとから振り返るに、そのときの僕は、当時流行っていた『仮面ノリダー』みたいなモノマネっぽい「パロディ」とは違う、自分の好きなものを集めてきて、違う作品にアレンジしてしまう「パロディ」を面白いと感じたんだと思う。これはもう、圧倒的に僕の作風に影響しています。視聴者が元ネタを指摘する喜び、画面の中に隠されている作り手からのサインを見つける面白さに、この作品で気づかされた。で、あの頃のオタクって、好きなものを扱うときに半笑いになりがちですよね。

――ちょっとシニカルですよね。
上江洲 でも、そこから庵野秀明さんが頭角を現す。今見ると、序盤は全然真面目な話になりそうにない。はっきりとそう指摘できるのは、タカヤ・ノリコがスペシャルであると証明されていないからです。コーチのオオタがただそう言っているだけで、才能の根拠がない。つまり、最初の頃は「そんなの気にしなくていいや」って、ふざけたアニメとして作られていたはず。ところが庵野さんが監督になることが決まり、そこで化学反応が起きたんでしょうね。ふざけているだけのアニメだったものに、庵野さんの考える感動のツボとかSF観みたいなものが入った結果、第5話と最終話の壮大な展開が生まれた。もともと第4話で終わる予定が延長されたわけだから、第5話と最終話にそれまでより庵野さんのカラーが強く出ているはず。で、当時のSF好きの人たちがよくやる悪ノリで「最後はハインラインみたいなすごいSFにしちゃおうぜ!」ってことになったと思うんだけど、その描き方が下品でふざけたものに見えないのは、庵野さんが上品な演出家だからだと僕は思います。庵野さんは自分が作っているストーリーを信じてもいる。だから、ただのパロディから、ああいう感動的な結末になったんですよ。その化学反応がたった全6話の中で起きていることも面白いですね。『ガイバー』の話でもそうだったけど、僕はやっぱり話数にすごく意識が働くみたい。

――ちなみに、自作でいちばん影響が強く現れているものは何ですか?
上江洲 『結城友奈は勇者である』です。話数が変わるごとに何かすごい展開が起きるし、女の子たちが個人レベルで宇宙規模の桁違いな何かと戦うというのは、完全に『トップをねらえ!』の影響下にあります。というか、『トップをねらえ!』は岸誠二監督との共通言語のひとつでもあって、会議中にモノのたとえとしてよく出てくるんですよ。役職を問わず、クリエイターとして一度はこういう作品を作りたいとあこがれる存在ですよね、これは。endmark

KATARIBE Profile

上江洲誠

上江洲誠

脚本家

うえずまこと 大阪府出身。シリーズ構成・脚本を手がけたアニメは『蒼き鋼のアルペジオ アルス・ノヴァ』『結城友奈は勇者である』『暗殺教室』『乱歩奇譚』『この素晴らしい世界に祝福を!』『クズの本懐』『ケンガンアシュラ』『空挺ドラゴンズ』『Fate Grand Carnival』『逆転世界ノ電池少女』など多数。また、Webサイト「コミックNewtype」にて、原作を担当する『神サー!』(作画/黒山メッキ)連載中。

あわせて読みたい