Febri TALK 2021.12.17 │ 12:00

上江洲誠 脚本家

③仮想敵が作った現代のヒーローもの
『スパイダーマン:スパイダーバース』

『結城友奈は勇者である-大満開の章-』『逆転世界ノ電池少女』など大活躍中のヒットメーカー・上江洲誠。その人生に影響を与えられたアニメについて聞くインタビュー連載の最終回は、画期的な映像で世界中に衝撃をもたらした3DCGアニメの傑作を語る!

取材・文/前田 久

この映画を作っているヤツらと戦いたい!

――では、最後の1本、『スパイダーマン:スパイダーバース(以下、スパイダーバース)』です。前の2作品とは時代も雰囲気もかなり違いますね。
上江洲 これは近作にもすばらしく出来がよいものもあるんです、と言っておきたくて選びました。本当に、グッズを集めまわるくらいハマった作品ですからね。見てくださいよ、この山(ペニー・パーカーのねんどろいどをはじめ、大量の関連アイテムが差し出される)。

――おお、すごい。しかし、こうして立体物で見てもやっぱりかわいいですね、ペニー。公開時にアニメファンの間で話題になったのも、あらためて納得です。
上江洲 ですよね。でも、もちろんかわいいとは思っているんだけど、ただ美少女キャラとして好きってだけじゃないんですよ。アニメという表現が到達した、ひとつの成果として好きなんです。

――どういうことですか?
上江洲 この子って、まずデザインそのものが日本のアニメ表現のパロディなわけじゃないですか。『スパイダーバース』って、ハリウッドのアニメが基本的に1秒間24フレームの絵を動かすやり方で作られているなかで、コミックのような風合いを出すためにわざとフレームを落として「2コマ打ち」と呼ばれる手法を選んで作られている。1秒間に12フレームですね。そのうえでペニー・パーカーはさらにコマ数が少なく、日本のリミテッドアニメ調の動きになっています。どんな動きかイメージの湧かない人は『銀河旋風ブライガー(81年)』のOPとかを思い出していただければよいです。そうすることで、他のキャラとのアニメのスタイルの違いが面白いっていうギャグになっています。つまり、海外のスタッフが日本のアニメのスタイルをよくわかっていないとできないパロディをメジャー作品で巧みにやるようになった。そのショックを与えてくれた意味でも、ペニー・パーカーってキャラがめっちゃ好きなんです。もちろん、作品全体としても、プロ目線でどうこうとかではなく、純粋にお客さんとして心底面白かった。

――何がそんなに上江洲さんの心に響いたんですか?
上江洲 まずそもそも『ガイバー』のところでも話したとおり、僕はヒーローものが大好きなんです。仕事ではやったことないけど。やりたい!! オファー待ってます!! ……で、そういう人間って、ずっと考えているわけです。「今ヒーローものを作るんだったら、どう書いたらリアルに見えるかな?」と。『スパイダーバース』は2018年(日本公開は2019年)の作品だけど、これはそういう、何十年も積み重ねられてきたヒーロー好きな人たちの「自分ならこうする」という与太話を作品として上手にまとめているんです。多元宇宙ものであり、ヒーローの誕生譚でもあり、現代的なテーマも持っている。ただのパロディじゃない。主人公のマイルス・モラレスくんっていうのは、ヒスパニック系とアフリカ系の両親の間の子供なんです。古い作品のような記号的に陽気な黒人とかでなく、ナイーブな少年として描かれていることは、やっぱり現代に通用する作品としてアップデートされていますよね。

この作品の製作・脚本に

関わっている

フィル・ロード&クリス・ミラーの

コンビはホントにすごい

――多元世界からやってくるスパイダーマンの仲間も、女性や冴えない中年などバリエーションが豊かで。
上江洲 ただ、そうした各要素で、同じようなアイデアを思いつくところまではみんないけると思うんですよ。それをものすごく高いレベルでまとめていることが、この作品の素晴らしさなんです。こういうのって、圧倒的なクオリティで出さない限りみんなを納得させられない。「違う番組のヒーローが集まる、ガチャガチャした映画でしょ?」で、普通のお客さんには済まされてしまう。

――「マニアの遊びでしょ?」では終わらない完成度なわけですよね。
上江洲 そう。僕が見たかった、ちゃんとした現代のヒーロー映画ってこれなんです。スパイダーマンはいろいろな形で描かれているけど、全部が最初に何かを失うところから始まる。家族とか、恋人とか、大切な人。そこで初めて善悪のことを考えるようになって、やがては「大いなる力には、大いなる責任が伴う」という考え方に結びつく。この映画はそういう、スパイダーマンというヒーローが背負う悲しみ、業の部分を、複数のスパイダーマン同士に「みんなそうだった」と語り合わせることで鮮やかに言語化し、相対化してみせる。この作品の製作・脚本に関わっているフィル・ロード&クリス・ミラーのコンビはホントにすごい。この前には『レゴバットマン ザ・ムービー』で、バットマンという存在で同じようなことをやっている。ヒーローものじゃないけど、最新作の『ミッチェル家とマシンの反乱』もいい。ギャグタッチなのに骨太なテーマがあって、納得させてくれる映画ばっかり作る。映画作りがうますぎるくらいうまい。僕にとっては完全に仮想敵ですよ(笑)。実際、おかげさまでいろいろな企画をやらせてもらっていますけど、まず「『スパイダーバース』を超えられますか?」と言わせてもらっていますね。もちろん、予算だとか、いろいろな差はあります。でも、少なくとも志はあるのか?と。ものすごく考えて作られている作品なわけじゃないですか。だから、いろいろな点で難しいものはあるにせよ、考えることだけはせめて負けられない。何かを作るというのは、そういうことなんですよ。そういう気持ちになりたいから、最初の話に戻るけど、僕は最近のすごいアニメをちゃんとチェックしようと意識しているわけです。

――基準を知らないと、仮想敵も作れませんからね。
上江洲 そりゃあ、僕だって昔のアニメは好きです。でも、今もスゲー作品はたくさん生まれているんです。見逃したくないですね。3DCG作品で、かつ外国の映画だとなると意外と見ていない。「この映画を作っているヤツらと戦いたいんです!」と僕が言ったときに「おお、それはがんばらないとね」と感じてくれる人が、もっと増えてほしいんです。endmark

KATARIBE Profile

上江洲誠

上江洲誠

脚本家

うえずまこと 大阪府出身。シリーズ構成・脚本を手がけたアニメは『蒼き鋼のアルペジオ アルス・ノヴァ』『結城友奈は勇者である』『暗殺教室』『乱歩奇譚』『この素晴らしい世界に祝福を!』『クズの本懐』『ケンガンアシュラ』『空挺ドラゴンズ』『Fate Grand Carnival』『逆転世界ノ電池少女』など多数。また、Webサイト「コミックNewtype」にて、原作を担当する『神サー!』(作画/黒山メッキ)連載中。

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