Febri TALK 2022.02.04 │ 12:00

横谷昌宏 脚本家

③「王道」に初めて挑んだ
『Free!』

『ケロロ軍曹』『Re:ゼロから始める異世界生活』『トロピカル~ジュ!プリキュア』など、ギャグからシリアスまで幅広い作品を手がける脚本家・横谷昌宏が選ぶアニメ3選。インタビュー連載の最終回は、初めて“王道路線”に挑戦し、脚本家として大きく成長したと語る『Free!』。

取材・文/岡本大介

男の子同士のドラマの面白さ

――3本目はシリーズ構成を務めた『Free!』です。横谷さんの代表作のひとつですね。
横谷 そうですね。当時は『ケロロ軍曹』のシリーズ構成を担当して7年くらいで、平行していろいろな原作ものの脚本を書かせてもらっていました。だから仕事的には安定していたんですけど、どこかでちょっとマンネリ化を感じていて、そろそろオリジナル作品にも挑戦したいという気持ちがあったんです。そんなときに京都アニメーションさんから声をかけていただいたのが『Free!』でした。

――『Free!』は原案にあたる小説(『ハイ☆スピード!』)はあれど、アニメ本編はオリジナルストーリーですよね。
横谷 そうなんです。キャラクターと世界観はある程度決まっていましたが、それ以外はイチから作り上げる必要があって、最初は僕にできるかなと躊躇(ちゅうちょ)したのですが、でもやってみようと。

――最初は迷ったんですね。
横谷 男の子のリアルな青春ドラマって、それまでほとんどやったことがなかったんですよ。加えて僕自身は完全なインドア派でスポーツも苦手ですし(笑)。そんな僕が果たしてキラキラした青春やスポーツの厳しい世界を書くことができるのだろうかと、やっぱりちょっと悩みましたね。でも、よくよく話をうかがうと、描きたいのはガチのスポーツ描写ではなく、あくまで青春ドラマだということだったので、それならできるかも、と思ったんです。

――『Free!』は多くの視聴者の心をつかみ、大ヒット作となりました。当時、横谷さんの中での手応えはいかがでしたか?
横谷 自分にもこういう話が書けるんだなと、少し意外でしたね。というのも、僕は王道の少年マンガ的な作品ってあまり好きではないんですよ。それよりもちょっとひねくれていたり、隙間を突くようなお話が好きで、それまで書いてきた脚本もそういったものばかりだったんです。ある意味では「王道」から逃げていたんですね。でも『Free!』では監督の内海紘子さんからも「ここは逃げちゃダメです、主人公たちがしっかり向き合うところをみんな見たいんです」と言われたりして、やっぱりそうか……と。

――覚悟を決めたわけですね。
横谷 はい。覚悟を決めて「王道」と初めて向き合いました。SFやファンタジー、ギャグの力を借りずに青春ドラマにのみガッツリ向き合うのは初めてだったので、とても勉強になりました。作品が成功したのは京都アニメーションさんの作画や演出の力があってのことですが、こんな僕でも多くの人に受け入れられるドラマを作れるんだという自信につながりました。

――結果的にはTVアニメ3期に劇場版5作という壮大なシリーズに成長しました。
横谷 続編作りはけっこう苦労しましたね。第1期って、受け入れられるかどうかもわからないのでかなり自由に、みんながやりたいことを詰め込めるんですけど、一度受け入れられたものの続きとなると、またいろいろと考えちゃうんですよね。さらに舞台が大学ともなれば、スポーツ描写もどんどんと本格的にならざるを得ないですし。「世界大会を目指す」と言っている以上、ただわちゃわちゃしているわけにはいかないですから(笑)。そういうこともあって、とくに第3期はかなり苦労した記憶がありますが、それも含めていい経験になったなと思っています。

こんな僕でも

多くの人に受け入れられる

ドラマを作れるんだと

自信になりました

――個人的に好きなキャラクターはいますか?
横谷 やっぱり七瀬遙がいちばん好きですね。あまりしゃべらないので脚本を書く側としては動かしにくいキャラクターではあるのですが……なぜか好きなんですよね。根っこの部分でいちばん自分に近いキャラクターだからなのかな。それで言うと、『Free!』を書いたことで男の子同士のお話の面白さに目覚めた感じはあります。男の子同士の関係性というか、いわゆるブロマンスが大好きになりました。

――それは思わぬ発見ですね(笑)。
横谷 脚本を作っているうちに、男の子のお話って、女の子のお話より書きやすいことに気づいたんです。男性が書く女の子の話って、どうしても男性から見た理想やファンタジーが入ってしまいますから、そこが照れくさかったり恥ずかしくてちょっと抵抗があったりもするのですが、男の子のお話を男の自分が書く場合は、わりきったうえで書けるので、気持ち的にすごく書きやすいんですよね。

――なるほど。いろいろな意味で横谷さんが大きく成長した作品なんですね。
横谷 そうですね。僕はどちらかと言うとプロットありきでお話を転がしていくタイプなのですが、キャラクター主導で物語を動かすのがいちばん面白いんだなとあらためて感じました。いまだに一人前のシナリオ論を語れるほどの力量はないですが、なんとなくそれが真髄なんだろうなと思う部分はありますね。

――今後、挑戦してみたい作品はありますか?
横谷 子供の頃から特撮が大好きなので、いつか『ウルトラマン』シリーズを書いてみたいですね。そして、これは本当に真面目に思っているのですが、いつかは浦沢義雄さんのポジションに立つのが夢です。よろしくお願いします!endmark

KATARIBE Profile

横谷昌宏

横谷昌宏

脚本家

よこたにまさひろ 大阪府出身。大学卒業後、エンジニアを経て1996年に『怪盗セイント・テール』で脚本家デビュー。シリーズ構成を担当した主な作品に『ケロロ軍曹』『Free!』『トロピカル~ジュ!プリキュア』などがある。

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