Febri TALK 2021.07.26 │ 12:00

吉田健一 アニメーター

①将来の仕事を意識した
『機動戦士ガンダム』

数々の名作で、肉体を感じさせる魅力的なキャラクターデザインを手がけてきたスーパーアニメーター・吉田健一。そんな吉田が影響を受けたアニメを、全3回(+α)で語り尽くす。初回は、今や国民的ロボットアニメとすら称されるあの作品。その「新しさ」は、幼い吉田に何をもたらしたのか。

取材・文/前田 久

『ヤマト』よりも、一歩進んだ「リアル」を見た

――1本目に選んだのは『機動戦士ガンダム』です。これはどのような理由で?
吉田 3作品を選ぶのは、なかなか難しいんですよね。本来であればまず、今回は選べなかった『宇宙戦艦ヤマト』からの影響があって、その流れで『ガンダム』に影響を受けるんですが……。

――じつは取材前のメールで「『宇宙戦艦ヤマト』『未来少年コナン』『機動戦士ガンダム』『伝説巨神イデオン』『あしたのジョー2』『母をたずねて三千里』の6作品で、僕の基本は構成されています」とおっしゃっていたのを、連載のレギュレーションに合わせて泣く泣く3本に絞り込んでいただいたんですよね。すみません。ともあれ、『ガンダム』の影響は、どのようなものだったのでしょう?
吉田 『ガンダム』はまず、初めて見たときの印象がとにかく鮮烈でした。第7話の「コアファイター脱出せよ」だったんですが、ガンダムが活躍する話だと思っていたら、弾道軌道に撃ち出されたコア・ファイターでアムロがGに耐えて……みたいな展開がずっと続いて、ガンダムがなかなか出てこない。「このアニメ、何をやってるんだ?」と思いました。

――それまでのほかのロボットアニメとは違うな、と。
吉田 そう。で、気になっていたら、当時『アニメック』というアニメ誌がありましてね。僕は本屋さんでマンガを立ち読みするのが日課だったんですけど、そこで『ガンダム』特集をやっている『アニメック』の存在に気がつくわけです。それでバッと開いたら、マシンガンを構えるザク、逃げまどう群衆、斜めにせり上がったコロニーの大地……そんな本編の絵を集めて構成されたページがあったんです。それを見て直感的に……当時はこんな言葉は使えませんでしたけど、今の自分の言葉でいえば「新しい!」と感じたんです。「こんなの見たことない!」と。

『ガンダム』と

『未来少年コナン』で

「こういう絵を描きたい」

と感じました

――リアルタイムの衝撃が伝わってきます。
吉田 僕の育った熊本では、東京よりも少し放送が遅れていたし、第1話からちゃんと順番に見たのは再放送だったので、完全なリアルタイム世代とはいえないんですけどね。それでもやはり、その「新しさ」には強く影響されました。『ヤマト』も新しかったんですけど、『ガンダム』はさらに、見るからに新しかった。『ヤマト』はもっと子供のときでしたし、「なんだかリアルなものを感じた」くらいの感覚だったんです。ヤマト発進までの段取りだけでワクワクするとか。僕らの世代はスーパーカーブームが直撃していて、車好きが多いんですけど、『ヤマト』でメカを扱うときの手順は、親父の車の運転席に乗って、ちょっとギアを動かしてみたときの感覚に似ていた。メーターの感じも、当時の車のアナログメーターっぽかったんです。そうした現実の要素が作品に直結しているから、リアルに見えた。宇宙空間を最初に意識したのも、『ヤマト』の影響でしたね。そこから『ガンダム』は、さらに一歩進んだ「リアル」を見せてくれた。たとえば、第1話冒頭のザクの侵入シークエンスは、今見てもすごくよくできていて、何度も見返しては映像を分解して、「何がこんなに面白いんだろう?」と考え続けています。まずアバンタイトルで永井一郎さんのナレーションで世界観が語られて……。

※ここから『機動戦士ガンダム』第1話Aパートの詳細かつとても面白いコメンタリーが30分ほど続きましたが、それは「番外編」として別途掲載します。

吉田 ……というわけで、富野(由悠季、当時は「喜幸」名義)監督もあれ以降、第1話であそこまで世界観をすべて描ききった作品はないと思います。

――『ガンダム』の第1話は、見れば見るほど完璧ですよね。
吉田 異常なんですよ。作り手になってから、僕も何度もTVシリーズにチャレンジしていますけど、とにかく、ひとつのエピソードにあんな情報量は入らない。何か新しい世界を作ったとしても、第1話だけでは説明しきれないんです。それができたのは、『ガンダム』の世界の半分が「現実」だからでしょうね。「現実」と「未来」を半分ずつ織り交ぜているから、説明しなくていい要素がある。もうひとつ大きいのは、『ガンダム』以前に作られてきた、ロボットアニメというジャンルの文脈も使っていることです。視聴者がその文脈で知っていることも、やはり説明しない。そうしたことが可能な、いいタイミングで出てきた作品でもあった。言葉にはできないにしても、そんなことを当時も子供心に感じていて、だから夢中になったんだと思います。

――なるほど。
吉田 さらに、絵がすごくいい。子供の頃から絵が好きだったんですけど、「こういう絵を描きたい」と感じました。『ガンダム』と、あと『未来少年コナン』で。

――ほぼ同時期に、安彦良和さんと宮崎駿さんの絵に惹かれた。
吉田 そうそう。『ガンダム』と『コナン』、それから『ヤマト』の絵は模写しまくりました。そのなかでも『ガンダム』の存在が大きいのは、映画になるときに安彦さんの絵が、ムック本で大量に出回ったせいもあります。そこには線画が掲載されているものもあって、それでアニメには「レイアウト」という作業があって、フレームのなかにどう絵を収めて、動きを作って、アニメの画面を生み出しているのかを知った。つまり、アニメーターという職業がこの世界にあることを知ったんです。で、知った瞬間に「将来はアニメーターになろう」と思いました。だから、影響を受けたアニメを語るなら、『ガンダム』は絶対に外せないです。そこに至るまでに、ほかのいろいろな作品からの影響が混じり合っているとしても。endmark

KATARIBE Profile

吉田健一

吉田健一

アニメーター

よしだけんいち 1969年生まれ。熊本県出身。スタジオジブリを経てフリーに。主な作品に『OVERMANキングゲイナー』『交響詩篇エウレカセブン』『ガンダム Gのレコンギスタ』。新作『地球外少年少女』準備中。〈Twitter〉

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