Febri TALK 2021.11.12 │ 00:00

吉浦康裕 アニメ監督

③コメディに開眼した
『イヴの時間 Are you enjoying the time of EVE ?』

吉浦康裕に人生を変えたアニメについて聞くインタビュー連載の最後は、吉浦自身の短編連作シリーズで、劇場版にもなった『イヴの時間』。制作に苦労しながらも、作品につぎ込んださまざまな知見や手法が、現在の吉浦作品を形作る大きな土台になったと語る。

取材・文/森 樹

感動よりも、笑わせたら勝ち、みたいな気持ちがどこかにある

――3本目は、自身初のシリーズ作品となった『イヴの時間』です。
吉浦 20代の後半はほぼこの作品に時間を費やしました。福岡から上京して、この作品を始めて……最初は短編連作のつもりが規模がどんどん大きくなって、そのまま全話の脚本、絵コンテ、演出、編集を担当することに。どうしてそうなったかというと、制作を手がけていた映像プロダクションのDIRECTIONSも含め、自分たちがアニメーション作りの規模感を知らなかったからなんです。やっていくうちに愕然としました。これが6話も続くのかと(笑)。

――いつ終わるのだろうかと。
吉浦 第1話のコンテ演出と並行して第2話の脚本と絵コンテを描いて、さらに第2話の原画が届いたらチェックして、それができたら先の話数の絵コンテを描いていく。全6話と劇場版までそれを繰り返した結果、数年が経っていました。

――それだけの分量をひとりでこなしていたわけですからね。
吉浦 途中でCGI(Computer Generated Image CG立体モデル制作のスタッフ)と撮影の助手は入れてもらいましたが、それでも大変でした。ただ、若いうちの苦労は買ってでもするべきだとは思いましたね。僕自身がそれを体験した作品です。

――事実、監督の名前が世に認知され、話題作となりましたね。
吉浦 当時、Webオンリーで配信するアニメの先駆けで、ニコニコ動画に第1話を配信したときはめちゃくちゃいいコメントが流れて「ああ、作って良かった!」と思いました。Web配信の黎明期にうまくタイミングがあったと思います。

――制作中のモチベーションはどこにありましたか?
吉浦 脚本を自分で書いているときに面白い会話の展開を思いつくことがあったんです。それまでは暗いSFだったり、尖った作品を作っていたのですが、会話劇が楽しくなると明るい話にできると思えたのは大きい部分でした。『イヴの時間』でコメディに開眼したところがありますね。

――シリアスになりがちなテーマを、会話劇の楽しさで見せることができると。
吉浦 自分が子供の頃に大好きだったアイザック・アシモフの小説や、東京サンシャインボーイズの三谷幸喜さんがよくやられていた、あるシチュエーションを基にした会話劇ですね。それこそ、ドラマ『王様のレストラン』(1995年)みたいな。

――演劇への思いも強く反映された作品とも言えるわけですね。
吉浦 そうですね。『イヴの時間』は、高校のときの演劇部の部室の話がベースになっています。キャラクターも当時の先輩、後輩、同級生がモデルですから。一方で、当時の時代性を絡めて話すと、新海誠監督の『ほしのこえ』(2002年)が公開されてから個人作家ブームみたいなものがありました。加えて、個人で作る作品には「せつなさ」を求められていたような空気を個人的に感じていたので、それとは違うテイストにしたかったのはあります。

アンドロイドと人間の

区別がつかない状況で

やれるアイデアを

6話の中で出しきった

――アンドロイドと人間社会の関係性が大きなテーマとして描かれています。
吉浦 AIが人間のようなリアルな造形で家庭に普及した場合――たとえば、それが顔立ちの整った女性型アンドロイドだとしたら――思春期の男の子からすれば複雑な思いを抱えざるを得ないという状況にフォーカスできれば面白いと思いました。もうひとつ、アンドロイドの頭上に識別用のリングがあるのですが、ある空間ではそれが消えて、彼らの本音が垣間見える。人間かアンドロイドかわからなくなる舞台装置(=喫茶店)を思いついたとき、「これはイケるぞ」となったんですよね。

――人間とAIの関係性が変化する状況を描けると。
吉浦 しかも、描き方としては硬くなく、少年の思春期モヤモヤ視点で(笑)。そんなアンドロイドと人間の区別がつかない状況でやれるアイデアを6話の中で出しきったのが『イヴの時間』です。

――演出としても、ズームアップなどCGの特性を生かしたカメラワークが印象的です。
吉浦 そうですね。今、見るとやりすぎるくらいやっていますね。くるくる回ったりするシーンなんかは、モロにSTUDIO4℃作品の影響です。

――キャラクターは2Dの手描きにこだわっています。
吉浦 自分が描きたいのは派手なアクションシーンよりも会話シーンなので、そうなるとCGメインのキャラクターだと難しいと思ったんです。テックスやカトランといったCGのロボットキャラも出てきますが、彼らが手描きのキャラと対面したり、テーブルを囲むシーンで両者の共存を違和感なく見せることを第一に考えていました。ロボットの汚れなども、あれはテクスチャを貼り込んだものではなくて毎カットごとに個別に描いていて、それをCGに重ねることでようやくCG臭さを消すことができました。それでも、作品のいちばんの見せ場であるマサキとテックスの抱擁シーンは、違和感をなくすのにかなり苦労したのをおぼえています。

――抱き合ったあと、感動のまま終わるのかと思うとちゃんとオチがあります。
吉浦 今見るとちょっと青すぎて恥ずかしいのですが(笑)、やっぱり笑いが好きなんです。感動させるとか泣かせるとかよりも、笑わせたら勝ち、みたいな気持ちがどこかにあって。笑ったらもう認めざるを得ないじゃないですか。面白い演劇には、笑えるシーンがどこかには必ずあるので。『イヴの時間』には、その気持ちが素直に出ています。endmark

KATARIBE Profile

吉浦康裕

吉浦康裕

アニメ監督

よしうらやすひろ 2008年にオリジナルアニメ『イヴの時間』で監督デビュー。以後も主にオリジナル作品の原作・監督を務める。代表作に絶賛公開中の『アイの歌声を聴かせて』(原作・脚本・監督)、『サカサマのパテマ』(原作・脚本・監督)、『アルモニ』(原作・脚本・監督)、『機動警察パトレイバーREBOOT』(監督・共同脚本)など。

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