SERIES 2021.04.06 │ 12:00

大今良時インタビュー①

数々のマンガ賞を受賞した『聲の形』で脚光を浴びた大今良時。不老不死の主人公・フシの生き様を描いた現在連載中の『不滅のあなたへ』が、2021年4月にTVアニメ化され、今もっとも勢いのあるマンガ家のひとりである。そんな大今の創作の源泉に迫るインタビューの第1回は、マンガ家として上京するまでの物語。

取材・文/岡本大介

青年誌の雰囲気に夢中だった幼少期

――最初に、幼少期のマンガ体験について教えてください。
大今 最初に読んだマンガは思い出せないんですけど、兄がいたので少年誌や青年誌が家のあちこちに落ちていて、それを拾い読みしていました。なかでも『ヤングジャンプ』や『ヤングマガジン』といった青年誌の絵柄や雰囲気が好きで、一方で少年誌は絵がギュッとしすぎて読みにくかった気がします。

――幼少期から青年マンガとは大人びた感性ですね。少女マンガは読まなかったんですか?
大今 家になかったのが大きいですが、まったく読んでいませんでした。一度だけ女児向けマンガに触れたことがあったんですけど、敵に氷漬けにされた友達を手のひらで温めて溶かして、敵が「これが友情の力か」って納得して帰っていくというヘンテコなバトルもので、そういった演出の作品に慣れていなかった私は、思わず「そんなわけないじゃん!」って突っ込んじゃって(笑)。

――初めてハマったマンガはおぼえていますか?
大今 小学4年生のときに雑誌で読んだ『3×3EYES』です。絵を見た瞬間、線が輝いて見えて、とにかくうまいなと感動して単行本を集めました。ストーリーを理解するのには時間がかかりましたけど、絵とキャラが好きでした。当時は完全に主人公の八雲に恋をしていましたね。

――では、ヒロインのパイに嫉妬したりも?
大今 でも、パイ(三只眼)もすごくカッコいいから「このふたりの間には何者も入れないな」と早々にあきらめましたね。あと、マンガでほかにハマったのは『幽遊白書』。アニメなら『無限のリヴァイアス』、ゲームなら『クロノ・トリガー』が好きでした。

――アニメやゲームも好きなんですね。ちなみにマンガは子供時代から描いていたんですか?
大今 マンガというか、絵は幼稚園くらいからずっと描いていました。『3×3EYES』にハマってからは「高田裕三ノート」というのを作って、そこに高田先生のキャラクターばかりを模写したり、別のノートには『クロノ・トリガー』のルッカを主人公としたストーリーを描いていたり。当時は純粋に「もっと絵が上手になりたい」っていう一心で描いていましたね。

友達という存在が大事で、深く考えるようになった

――では、かなりインドアな小学生だったんですね。
大今 それがそうでもないんです。絵はずっと描いていたんですけど、同時に民踊も習っていて。その踊りのほうもすごく楽しくて、練習帰りによく友達と遊びに行っていました。踊りは今も大好きで、家でも踊っていますし、地元の岐阜に帰った際はお祭りの櫓(やぐら)の上で踊らせてもらうこともあるんです。これは大人になって気がついたんですけど、私は集団で何かをやることが好きなんですよね。最近ではマーチバンドの動画にハマっていて、仕事中はそれを流していることが多いです。

――仲間で何かをすることや、その様子を見るのも好きなんですね。
大今 そうですね。そもそも友達のことが好きすぎて、「さよなら」が嫌いなんです。だから地元から上京してきたときは、友達がそばにいなくなって元気がなくなりました。

――そうだったんですね。『聲の形』や『不滅のあなたへ』で「友達とは?」と問いかける場面があるので、てっきり学生時代は人間関係に悩んだタイプなのかと思っていました。
大今 それはむしろ、友達という存在が大事だからこそ、そこを深く考えるようになったのかもしれません。私自身は、学生時代は友達に恵まれていたと思っていますし、とくに高校時代は女子校だったのでずっとギャーギャーわめいていて(笑)。不純物のない、私が好きなものだけで構成された世界で過ごしていたなと思います。でも、同時に友達以外との人間関係では薄ら寒いものをすごく感じていたのも事実で、たとえば、自分では友達だと思っていない人から急に送別会に誘われたりして、「へ?」ってなったり。自分が認識している友達の境界線と、その人にとっての境界線の違いって何だろうとかはよく考えていました。

――『聲の形』は聴覚障害者へのイジメを題材にしていますが、今のお話をうかがう限り、大今さん自身がそれに近い体験をしたわけではないんですね。
大今 そうですね。スクールカーストで言えば、すごく下のほうではあったと思うんですけど、私はそこまでいわゆる「いじめ」を受けたことはなかったですし、孤独を感じたこともないです。

――それなのに、あのリアルな雰囲気をよく描くことができましたね。
大今 私自身は経験がないだけで、身近ではあったんですよね。兄と姉から学校で体験したトラブルの話をよく聞いていましたし、母が手話通訳者なので、聴覚障害を持った人たちの話もよく耳にしていて。一部の教師がいかにいい加減で頼りない存在かも知っていたので、そういう先生に対しては何の期待もせず、冷ややかな目線で学校生活を送っていました。まあ、そんな態度のせいもあって、先生からいびられたこともあったんですけど(笑)。『聲の形』は、その当時に感じた空気感を頼りに、学生時代の私の実体験も加えて作っていった感じです。

――なるほど。高校時代になると持ち込みや投稿もしたようですが、プロのマンガ家を目指そうと思ったのはいつ頃ですか?
大今 中学生の頃からボンヤリとは考えていたんですけど、やる気に火がついたのは高校生になってからです。洋服屋さんでアルバイトをして、画材を買いそろえたのが大きかったですね。それまではコピー用紙に鉛筆で描いていたのですが、画材がそろったことで「やるぞ!」と腹をくくりました。

身近なテーマを描こうと思った『聲の形』

――最初は「投稿」ではなく「持ち込み」をしたんですよね。
大今 そうです。家族旅行で上京した際に自由になれるチャンスがあって、そこで『週刊少年マガジン』に持ち込みました。

――なぜ『週刊少年マガジン』だったんですか?
大今 友達に「どこに持ち込んだらいい?」って聞いたら「お前は『マガジン』だろ!」って言われたので、素直に「そうか」と(笑)。

――どんな作品を持ち込んだんですか?
大今 シリアスなギャグマンガだったんですけど、幸運なことに「もっと読みたい」と言われて「やったぜ!」ってその気になりました(笑)。戻ってからすぐ『不滅のあなたへ』の原型となった作品を描いて新人賞に投稿しました。入選には至らず奨励賞止まりでしたけど。

――『不滅のあなたへ』の原型が高校時代に生まれていたとは驚きです。それにしてもギャグからファンタジー、現代ドラマと、守備範囲がとても広いですね。
大今 昔からそうなんですけど、いろいろなジャンルの話が描きたいタイプなんです。いつかすべてのジャンルを制覇できたらと思っています。

――なるほど。そして『聲の形』のオリジナル版を投稿したのが、高校卒業後ですね。
大今 はい。高校を出たら上京したいと思っていたので、今のうちに身近なモチーフを描いてみようと思ったんです。それで雑貨屋さんでアルバイトをしつつ、『聲の形』を描き上げました。

――高校時代は洋服屋さん、卒業後は雑貨屋さんでアルバイト。接客業が好きなんですか?
大今 うーん、でも、洋服屋さんではヤクザに絡まれそうになったし、雑貨屋さんでは置き引きにあってリアルに腰を抜かしたこともあるので、さすがにもうこりごりですね(笑)。

――『聲の形』は新人漫画賞に入選しますが、内容がセンシティブであることから掲載が見送られてしまいました。それから約1年後に初連載作『マルドゥック・スクランブル』が始まりますが、この時期の心境はいかがでしたか?
大今 世に出ない作品は存在しないのと一緒ですから、辛い気持ちはありました。担当さんから「次回作を」と言われても、気持ちをなかなか切り替えられずにいたところにこのお話をいただいたので「とにかくこれをやるしかない!」という気持ちで挑みました。

――とくにアシスタント経験などはないままデビューしたんですね。
大今 上京後に3日間だけお試しで入ったことがあるんですけど、アシスタントさんのひとりが誰かの悪口を一日中言い続けていて、あまりに怖くて辞めました(笑)。

――なるほど。原作は冲方丁さんの小説ですが、近未来を舞台としたSFアクションで、これまで描いてきた作風とはまったく違いますよね。
大今 めっちゃ苦労しましたね。第1話のネームを描くのに半年くらいかかりましたし、もうボロボロになりながらやっていました。振り返ってみても我ながら下手だなって思いますし、もっとうまく描きたかったなという後悔もあります。

――そうなんですね。では、プロになってから現在までの道のりは第2回でおうかがいします。
大今 お願いします!

後編(②)は4月8日に掲載
書籍情報

『不滅のあなたへ』
最新15巻 2021年4月15日発売
著/大今良時
発行/講談社

  • ©大今良時/講談社