SERIES 2021.04.08 │ 12:00

大今良時インタビュー②

数々のマンガ賞を受賞した『聲の形』で脚光を浴びた大今良時。不老不死の主人公・フシの生き様を描いた現在連載中の『不滅のあなたへ』が、2021年4月にTVアニメ化され、今もっとも勢いのあるマンガ家のひとりである。そんな大今の創作の源泉に迫るインタビューの第2回は、デビューから現在までの物語。

取材・文/岡本大介

バロットの人間味を出したかった

――初連載となった『マルドゥック・スクランブル』ですが、これは原作ものということで、オリジナル作品とは制作のアプローチも変わってきますよね。
大今 コミカライズの場合、原作は聖書のようなものなので、死ぬほど読み込みました。そのうえでページ数に合わせて削ったり足したりして、最後にはヒキを作るということをやっていたので、かなり理詰めで考えるクセがつきました。それまで感覚的にやっていたことをあらためて理屈に分解することができて、そこはとても勉強になったと思います。

――原作と比べると読み味も少し違うように感じます。近未来のサイバーパンク感よりも、主人公のバロットのドラマに焦点が絞られていますよね。
大今 そこはあえて意識した部分ですね。バロットは元娼婦なので、読者的には感情移入しにくいキャラクターだと思うんです。だから積極的にご飯を食べさせたり、より人間らしい表情をさせるなどして、なんとか人間味を出そうとしました。これは最初から最後までずっとバロットの話なんだということを強調したかったんですね。そんな私のアプローチを、冲方さんも「どうぞ」と優しく見守ってくださって。ホント、優しい人なんですよ。

――いつかまた原作もののコミカライズをやってみたいという気持ちはありますか?
大今 良い原作とめぐり合えれば、またいつかやってみたいですね。ただ、コミカライズは真剣にやればやるほど、自分自身の想像力が失われていく気がするので、やるなら創作に疲れたときかもしれません。まあ、原作ものも責任とプレッシャーがすごいので、決してラクというわけではないんですけど。

『聲の形』は自戒の念を込めて描いた側面も

――さらに『マルドゥック・スクランブル』の連載中に『聲の形』が掲載され、リメイク版を経たのち『週刊少年マガジン』で連載版としてスタートすることになります。
大今 『聲の形』が世に出たことで心のモヤモヤが晴れましたし、連載版はとても前向きな気持ちで描き始めることができました。とはいえ、繊細なモチーフであることに違いはないので、いつでも畳めるようにと言うとおかしいですが、あまり長いストーリーにはしないでおこうと思っていました。当初から7巻くらいっていう話はしていましたね。

――まさにぴったりでしたね。連載版『聲の形』では、ヒロイン・硝子に関わったキャラクターたち全員が深掘りされていて、読者が誰かしらに感情移入できる仕掛けになっているのも特徴です。キャラクターにモデルはいるんですか?
大今 特定の誰かをモデルにしているというよりは、どのキャラクターも自分の分身という感覚です。「こういうタイプの人、いたな」だけで描くことはなくて、そのシーンでどういう精神状態なのかをとことん突き詰めて、憑依して描くようにしています。私自身の感情をいちばん強く乗せているのは石田で、学生時代に「こうできていればな」と感じたことを石田を通じて追体験している感じです。

――石田と同じ境遇というわけではないけれど、「やれなかった」という後悔の念があるんですね。
大今 ありますね。私は友達に恵まれましたが、「教師」や「教室」「学校」という世界観には最後までなじめませんでした。はたから見たらすごく嫌なヤツだったかもしれないし、ひょっとしたら誰かを傷つけていたかもしれない。そういう意味で『聲の形』は私自身の自戒の念を込めて描いた側面もあります。

――描くにあたり、もっとも気をつかったキャラクターというと誰になりますか?
大今 やっぱり硝子です。彼女はヒロインというメタな役割があるじゃないですか。それでいて、彼女の心情表現には言葉の壁がつねにあるので、どのシーンでもちゃんと彼女の気持ちの流れを説明できるように気をつけていました。

――序盤と終盤では硝子に対する印象も変わっていきますよね。
大今 そうですね。キャラクターとして描くか人間として描くか、そのバランスも苦心しました。やっぱり読者さんは硝子をキャラとしてとらえるので、何をどう描いてもキャラ萌えをしてくださるんです。それはうれしいことではあるんですけど、それだけに作者が逆に引っ張っていかないとどんどんキャラ化していっちゃう。硝子の人間性はちゃんと守りたいと思って、そこは頑張って描きました。

――『聲の形』はアニメ映画にもなり、社会的にも大きな広がりを見せた作品になりました。反響はどう受け止めましたか?
大今 連載中は掲示板で皆さんの反応をずっとチェックしていました。みんなが何に反応して、何を期待するのか、この作品の何を語り合うのかを確かめたかったんです。結果的に皆さんのリアクションや議論が作品を深くする要因にもなりましたから、そこは良かったなと思います。

フシは私の分身で、葛藤や願望を投影している

――現在連載中の『不滅のあなたへ』では、「生と死」を軸として「人とモノ」「愛と憎」「戦争と平和」などさまざまなテーマが取り入れられていて、何かとてつもないドラマが進行しているという感覚があります。
大今 なぜこんなに小難しいテーマにこだわっているのかと言えば、それはおそらく自戒に近い感情だと思うんです。私は自分のまわりに起こったさまざまな「不幸」や「死」をネタにご飯を食べているっていう気持ちがどこかにあって。だからフシが周囲の人から器を手に入れてそれを使ったり、そのことに罪悪感を持ったり、すべてを吸収することでより深く理解しようとすることなどは、私の気持ちでもあるんです。フシはまさに私の分身で、私の葛藤や願望をフシに投影しているんですよね。

――その強烈な情念が端々から感じられて、そこが魅力につながっているんですね。ただ、そんな心境で描き続けるのは精神的にかなり辛いのではないですか?
大今 おかげさまで、だいたいいつも鬱気味です(笑)。私の作品はけっこう辛いシーンや悲しいシーンが多いので、キャラクターを俯瞰で見ていると思われがちなんですけど、じつはそうではなく、がっつりと憑依して描いているんですよ。だから余計にしんどくなりますね。

――ちなみに近刊の『不滅のあなたへ』では時代が移って、現代を舞台にストーリーが進んでいます。この時代転換は最初から考えていたんですか?
大今 そうです。第1部はフシが人間らしく、利他的になるまでの物語。第2部はノッカーのいない平和な時代ならではの悩みを描くことで、あらためて「ノッカーとは敵だったのか?」という問いかけや、平和でも尽きない苦しみなどを描こうと思っています。それが終われば、また次のフェイズへと進みます。

――第3部が始まるんですか?
大今 その予定なんですけど、そもそも第2部が無事に終われるかどうかまったくわかりません(笑)。

――心が休まる瞬間がないですね。
大今 つい先日も「創作と鬱は仲良しだね」っていう話をしていたばかりです(笑)。このままだとうまくいかなかったときに心が壊れかねないので、最近は意識的にサボることを考えています。「自分はサボったから失敗したんだ」という感覚があればなんとかやっていけるので、今はヒマを見つけてはひたすらゲームをして遊ぶようにしています。endmark

大今良時
おおいまよしとき。1989年生まれ、岐阜県出身。高校時代から投稿を始め、『聲の形』が第80回週刊少年マガジン新人漫画賞に入選。連載作品は『マルドゥック・スクランブル』『聲の形』『不滅のあなたへ』。2021年4月より、TVアニメ『不滅のあなたへ』が放送開始。
作品名掲載年(掲載年)
マルドゥック・スクランブル別冊少年マガジン(2009)
聲の形週間少年マガジン(2013)
不滅のあなたへ週間少年マガジン(2016)
書籍情報

『不滅のあなたへ』
最新15巻 2021年4月15日発売
著/大今良時
発行/講談社

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