TOPICS 2024.07.04 │ 18:00

久美子の物語を丁寧に描いた「最終楽章」
『響け!ユーフォニアム3』石原立也監督インタビュー①

吹奏楽青春アニメ『響け!ユーフォニアム(以下、ユーフォ)』シリーズのTVアニメ第3期『 響け!ユーフォニアム3』が最終回を迎えた。北宇治高校吹奏楽部部長として悲願の全国金賞を目指す黄前久美子の奮闘を中心に描いた今シーズン。さまざまなキャラクターたちのドラマをまじえながら、シリーズの最終楽章として久美子の高校生活3年間を締めくくった。Febriでは、放送を終えたこのタイミングで、シリーズの監督を務めた石原立也を迎え、最終楽章に込めた想いを前後編でたっぷりと語ってもらった。前編は、全13話の構成や演出、作画について。

取材・文/岡本大介

久美子は「試合に負けて勝負に勝った」

――インタビュー時点ではまだ最終回は放送されていませんが、現在の心境はどうですか?
石原 じつはまだ鋭意作業中でして「なかなか終わらないなあ」というのが本音ですね(笑)。ただ、制作してきたこの10年は、ずっと現実世界と『ユーフォ』の世界を行ったり来たりしていたので、ある意味では片方の世界が消滅してしまうような感覚があり、感慨深さと同時に寂しさもヒシヒシと感じています。

――あらためて3期の全13話を振り返ってお話を聞いていければと思います。全体の構成としては、前半は久美子の部長としての奮闘を描き、後半は久美子の内面に迫っていく展開です。
石原 後半を久美子の物語に集中させたのは、シリーズ構成の花田(十輝)さんのアイデアです。原作ではもう少しあとのほうで描かれていた(月永)求の家族問題のエピソードを前半に持ってくるなど、アニメでは全体の流れを少し調整しています。やはり「最終楽章」ですから、最後は久美子の話にしっかりとフォーカスしたいというのは僕も同じ気持ちでしたね。

©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

――今シーズンは黒江真由という新キャラクターの存在も話題となりました。真由についてはどのような人物として捉えましたか?
石原 久美子のライバルではあるんですけど、性格的に正反対というわけではないので、久美子にとっては鏡に映った自分自身みたいな存在ですよね。RPGにたとえると、久美子はこれまで地道にレベルアップしてきて、苦労して良い装備をたくさんゲットしてきたと思うんです。そして、さあいよいよラスボス戦となったら、自分とまったく同じ装備の、しかも自分よりもちょっぴり強い奴が出てきたみたいな(笑)。真由というキャラクターにはそんな印象を抱きました。

――真由は、久美子の将来や進路を決定づけた存在でもありますよね。
石原 そうですね。原作だと、久美子は最後まで真由を攻略しきれていないのですが、アニメでは敬意をもってお互いを認め合えるような関係に落とし込めるよう、最後の展開は原作から変更しているんです。

――第12話の、最終オーディションの結果ですね。
石原 はい。原作をお読みになっているファンの方はかなり驚いたかもしれません。ただ、久美子としては、オーディションという試合には負けたけど、代わりに真由という強力な武器を手に入れたことになり、僕としては彼女は「試合に負けて勝負に勝った」のかなと思っています。久美子自身、部長になってからはプレーヤーとして成長するというより、部を率いるという意識のほうが強くなってきたようにも思うので、よりすっきりとわかりやすい結末にしてあります。

――そんな久美子と真由の関係を描くにあたって、とくに意識したことはありますか?
石原 真由を演じた戸松遥さんには「優しくて母性あふれる雰囲気で」とお願いしました。久美子のライバルという側面はありますし、多少の闇もたしかに持っていますが、基本的には面倒見の良い、優しい女の子なんです。見ている人にも真由のことを好きになってほしいと思っていましたし、あまり嫌な女の子には映らないように意識しました。

©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

久美子と麗奈は卒業してもつながっていると信じたい

――一方で、シリーズを通じて描かれてきた久美子と麗奈の関係性について、石原監督はどのように感じていますか?
石原 これは見ていただいた方に自由に解釈してもらえればいいと思いますが、個人的にはお互いが補完し合う存在だったのかなと思っています。もともと家庭環境も才能も性格も趣味も、すべてが違うふたりなので、仮に音楽というつながりが切れたとしてもあまり関係ないような気もするんですよね。ましてや久美子は吹奏楽部の顧問になっていて、音楽に携わる仕事をしているということでは麗奈と共通していますから。現在でも関係は続いているんじゃないかなと勝手に想像していますし、そう信じたいですね。

――なるほど。この「将来の進路」というのは、今シーズンの重要なテーマでもありました。
石原 高校生くらいだと悩むものですよね。僕自身は早々にアニメ業界に進むことを決めていましたから、将来についてあまり悩んだおぼえがなくて。だから、この点については久美子の悩みにはあんまり共感はできなくて……すみません(笑)。

――とはいえ、久美子に共感する人はかなり多いと思います。
石原 たしかにそうですね。でも、久美子のように主体性があまりないタイプでも、こうして立派な大人になれましたから、きっと大丈夫ですよ。葉月もきっと素敵な保育士さんになれただろうし、何かしら見つかるものだと思います。

©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

――さて、第12話までで久美子の物語はひとつの結末を迎えました。ここまででとくに印象的なシーンはどこですか?
石原 やっぱり第12話のラストシーンは印象深いですね。久美子のドラマとしてはここがクライマックスですし、いつにも増して丁寧に表現しようと思っていました。あと個人的には、久美子と葉月が大学説明会に参加して、そのあと喫茶店でメロンソーダなどを飲みながら語り合っているシーン(第7話)が好きですね。今回は全編にわたってシリアスなシーンやエピソードが多いなか、ここだけはちょっと気が休まるというか。もちろん、久美子たちは卒業後の進路について悩んでいるので真剣ではあるんですけど、学校の外に出たり、先輩たちに会ったりしたことで「部長」という肩書きを降ろした、素の久美子の雰囲気が出ている気がするんです。葉月とふたりだけでお出かけをするのもレアなので、お気に入りですね。

――作画面についてですが、3年生になったということもあり、久美子たちはみんなお姉さんっぽく描かれています。そこは意識したのでしょうか?
石原 キャラクターデザイン的には『劇場版 響け!ユーフォニアム〜誓いのフィナーレ〜』のときに更新して以来、とくに変えていないんです。アニメーターに対して僕から「大人っぽく」とお願いしたこともないのですが、たしかに表情や仕草などを見ると少し大人びて感じますね。それはおそらく、彼女たちの言動や振る舞いそのものが大人っぽくなったからだと思います。とくに幹部の3人は責任のある立場ですし、葉月にしろ緑輝(さふぁいあ)にしろ、後輩に向けた表情やセリフなどが増えましたから。よく「環境が人を変える」といいますが、そんな気もしますね。

――ありがとうございます。後編では最終話について深く聞いていきます。
石原 よろしくお願いします。endmark

石原立也
いしはら たつや 京都府出身。京都アニメーション所属。アニメーション演出家、監督。主な監督作に『涼宮ハルヒの憂鬱 』『CLANNAD -クラナド- 』『日常』『中二病でも恋がしたい!』などがある。
作品概要

TVアニメ『響け!ユーフォニアム3』

Blu-ray&DVDが発売決定!
第1巻 2024年6月26日(水)発売中
第2巻 2024年7月31日(水)発売
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  • ©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024