TOPICS 2026.04.14 │ 12:00

「増補版 NO.6 toi8 デザイン&アートワークス」発売記念 監督・長崎健司が振り返るアニメ『NO.6』の魅力②

アニメ『NO.6』の放送15周年を記念した長崎健司監督インタビュー。前編ではキャラクター原案・コンセプトデザインのtoi8氏とのやり取りを中心に聞いたが、後編では制作現場の思い出をプレイバック。長崎監督が「自分の中で特別な話数」と語るエピソードとは?

取材・文/後藤悠里奈

震災の影響で「成長物語」により焦点を当てた

――インタビュー後編では、制作現場の思い出について振り返りたいと思います。『NO.6』の放送は2011年7月からでしたけど、制作中に東日本大震災の影響を受けた部分もあったのでしょうか?
長崎 そうですね、震災当日はみんなでニュースを見ていた記憶があります。放送時期はずれなかったんですけど、その後、スタジオが1回止まってしまって、その影響は大きかったです。あと、あの大変な状況を見たあとに作中の地獄絵図をどうやって描けばいいんだろう……と悩みました。いくら凄惨なディストピアを描いて「これが現実だ!」と言っても、もっととんでもない現実が実際にあるわけですから。そういう理由もあって、アニメではディストピアSFという点よりも男の子たちの成長物語という部分をよりフォーカスすることにしたんです。

――紫苑とネズミにクローズアップしていたのにはそういう理由があったんですね。では、『NO.6』の監督を務めた経験が、その後の仕事に活きていると感じることはありますか?
長崎 めちゃくちゃあります。とくに音響に関してですね。アニメは絵と音が合わさってできているので、半分は音と言っても過言ではないんです。もちろん、絵コンテを描くときも音楽やSEが付いた状態をイメージしてはいますけど、実際に付けてみると良くも悪くもなかなかイメージ通りにはいかなくて。そんなときに優秀な音響監督さんだとこっちがやりたいことを見つけて、膨らませてくれるんです。『NO.6』の音響監督である三間雅文さんはまさにそういう方で、最初のお客さんとして「自分はこう感じましたよ」と言ってくれるので、気づかされることが多かったです。映像に音楽がついてどんどん膨らんでいく感覚は、いちスタッフとして演出をしていたときはあまり経験したことがなかったので、すごく勉強になりました。

――三間さんとのやり取りで、とくに印象に残っていることは?
長崎 第1話のときに「音楽はいらないんじゃないの?」って言われたのをよく覚えていますね。嵐の緊張感や紫苑とネズミの出会いの運命感を表現するなら、音楽を付けずにSEだけにしたほうがより効果的なのでは、と。なるほど、その手があったか!と思いました。最近ではそういうことをやる作品もたまにありますけど、当時はけっこう珍しかったんじゃないかな。それで第1話は音楽をかなり少なくしているんですよ。第1話は音以外の部分でもいろいろな挑戦をしていて、たとえば、雨の影の描写や木がワサワサと揺れる感じも、言葉ではないかたちで心象風景的な表現をしたいと思って取り入れたものでした。言葉で全部を説明してしまうと結局「じゃあ、原作を読めばいいのでは?」ということになってしまうので、せっかく映像化するならば言葉ではないもので表現したほうがアニメにする価値があると思って。無茶なことを目指しましたけど、絵や色、撮影など、スタッフの皆さんが全力でそれに応えてくれて、本当にありがたかったですね。そういう意味で第1話と、あとは最終話も、自分の中で特別な話数です。

『NO.6』で一緒に仕事をした方々とは今も付き合いが続いている

――最終話にはどんな思い出があるんですか?
長崎 シナリオを作っていた時点では、原作のラストがどういうかたちになるのか決まっていなかったんです。でも、アニメで最後までやることは決まっていたので、最終話の結末はこちらで作る必要がありました。「エリウリアスが出てくる」ことと「シオンがNO.6に帰っていく」ということだけは決まっていたので、それらを踏まえてかたちを作りつつ、さっきも言ったような紫苑の成長物語として全体を調整していったんです。そういったライブ感がとても印象に残っていますね。シナリオ段階からけっこうハラハラしたけど、最終的にはアニメとしていい落としどころになったと思っています。
『NO.6』のときにご一緒したスタッフの方は、今でもお付き合いがある方がすごく多いんですよ。音響監督の三間さんもそうだし、キャラクターデザインの石野聡さんや色彩設計の菊地和子さん、そしてもちろんアニメーション制作のボンズさんも。そういう意味でも『NO.6』の経験がずっと今に活きているなと感じます。それはキャストさんについても同じですね。

紫苑のような危うさを感じる主人公が当時は新鮮だった

――この流れで、キャスティングについても教えてください。紫苑役に梶裕貴さんを選んだ決め手は何だったんですか?
長崎 キャスティングはみんなオーディションで、最初に紫苑、次にネズミを決めて、そのふたりを軸に他のキャラクターを決めていきました。紫苑は優しい雰囲気はもちろん、ちょっと強さもある感じがいいなと思っていて、そのイメージに梶さんのお芝居がピッタリだったんです。優しさと強さに加えて、さらにフワフワとしていてつかみどころがない感じがあって。普段の梶さんはすごく頭が良くてキビキビしていて、逆にネズミ役の細谷佳正さんのほうがホワホワしているので、役とご本人は正反対なんですけどね(笑)。ネズミって感情がすごくわかりやすいから共感しやすいキャラクターだと思うんですけど、紫苑はあまり共感できるキャラクターじゃないと思うんですよ。どちらかというとネズミ目線で「こいつ、大丈夫なのか?」みたいに心配になるような、危うい感じがするというか。他の作品をやっていてもあまりこういうキャラクターはいなかったので、当時はすごく新鮮でした。

――たしかに紫苑は“ザ・主人公”というキャラクターではないですよね。
長崎 そうなんですよ。そんな紫苑がだんだんと主人公になっていくのが、この『NO.6』という物語なのかな、と。甘ちゃんで、沙布というお母さんのような存在に支えられていたフワフワの紫苑が、全然違う価値観を持ったネズミというお兄ちゃんに出会い、少しずつ自我を持って成長していくお話――僕はこの作品をそういうふうに捉えています。

――ありがとうございました! それでは最後に、ファンの方へメッセージを。
長崎 このインタビューでアニメ『NO.6』に初めて興味を持ってくださった方がいたら、男の子たちの成長譚というかたちで楽しんでもらえればうれしいです。放送当時にご覧になった方は、今あらためて見直したときにどういう感情になるのか気になりますね。当時とは違う見方してもらってもうれしいし、当時のことを思い出してもらってもうれしいです。そして面白いと思ったら、ぜひまた15年後にももう一度見返してみてください。endmark

長崎健司
ながさきけんじ アニメーション監督。制作進行・絵コンテ・演出としてキャリアを積み、2011年に『NO.6』で監督デビュー。主な監督作品は『ガンダムビルドファイターズ』『僕のヒーローアカデミア』ほか。
商品情報

書籍「増補版 NO.6 toi8 デザイン&アートワークス」
2026年7月7日(火)発売予定
ご予約受付中

【収録内容】
アニメオンエア15周年を記念して、2012年に刊行された書籍「NO.6 toi8 デザイン&アートワークス」の増補版が登場! 32ページを増量して、ノイタミナショップのイラストや『NO.6 再会』の装画・挿し絵、文庫版フル帯のイラストなど、30点以上を追加掲載!

カバーは表1&表4描き下ろし!

  • © あさのあつこ・講談社/NO.6製作委員会
  • © あさのあつこ/講談社 illustration:toi8