再びセバスチャンを演じられることはご褒美
――劇場版から7年ぶり、TVシリーズとしては10年ぶりとなる本作。今回、どのような心境でセバスチャン役に臨んだのでしょうか?
小野 2017年に劇場版「黒執事 Book of the Atlantic」、いわゆる豪華客船編に出演したときに、演者として「セバスチャン役をやり切った」という達成感がありました。物語はまだ途中とはいえ、スケールといいストーリーといい、集大成と言っていい内容でしたからね。なにより葬儀屋(アンダーテイカー)の正体が明らかになった。彼の邪悪さと対峙し、戦い切った感覚があったので、セバスチャンとして「悔いなし」だったんです。だから今回再び演じさせていただくことは、ひとつのご褒美だと思っています。15年間、これまでよく演じてきたねっていう。その間、ずっと物語を描き続けてくださった枢(とぼそ)やな先生からも、ご褒美をもらっている感覚になりました。
――素敵ですね。岡田堅二朗監督とのお話で、印象に残ったことはありますか?
小野 岡田さんは、年齢的にお若い監督。PV撮影のときに初めてお話しさせていただき、静かな中にこの作品にかける想いや熱量、矜持のようなものを感じました。『黒執事』という作品がこれまでに積み重ねてきたもの、それこそ『黒執事』の美学は絶対に外さずに描き切るぞっていうね。新しい座組でただ新しいことをするのではなく、作品にリスペクトを持って臨んでくださっているんだな、と安心しました。
――小野さんにとって、『黒執事』の美学とはどんなものでしょうか?
小野 執事というものは、主がいて初めてそこに存在できるものです。なので、決して前に出ない。一歩下がって、でも、ずっとそばに寄り添っているのが執事だと思います。『黒執事』という作品にも、じつはそういうところがある。作中にはちょっと不気味なホラー要素もありますし、戦いでの流血や、ドス黒い感情もたくさん描かれています。それって人間の汚い部分ですよね。でも、その先にはいつも、人間の美しさが寄り添うんです。闇はあるんだけれども、どこかに光もある。それが『黒執事』の美学であり、端的に表れるのが、セバスチャンが人間の命に関して語るシーンです。先の話になってしまうので、あまり詳しくは言えないんですけど。
――なるほど。これまでセバスチャンと言えば「悪魔」で、どこか人間と距離を置いているイメージがありましたが……。
小野 悪魔であるセバスチャンは、人間の命は「終わるからこそ美しい」と考えていたと思います。しかし、豪華客船編で、人間の命に対して価値観の違うアンダーテイカーとの対峙を経て、セバスチャンの中で考えがどこか変化したはずで。これまではずっと淡々と、熱量を感じさせない引き算の演技をしてきたのですが、今回は人間が持つブレみたいな、熱量の変化をちょっとだけ表現しました。
――ああ、だからご褒美なんですね。小野さんの優しさとは真逆にいたセバスチャンが、こちら側に歩み寄ってくれたようです。
小野 そうですね。僕は、芝居をするとき役に自分が入ってしまうタイプなのですが、セバスチャンに関してはおっしゃる通り、自分とはまったく別の存在として演じてきました。それこそ、入ろうと思ってもできなかったんですよ。「いらないです」と言われた熱量を引き算していって、真ん中に残ったむき出しの魂みたいなものだけで演じている感覚でした。だからこそ今回の変化は、うれしかったんですよね。
真綾ちゃんと録ると自然とセバスチャンになれる
――シエル・ファントムハイヴ役・坂本真綾さんとのタッグはどうでしたか?
小野 ありがたいことに、全編一緒にアフレコさせてもらいました。今のご時世だと分散収録が当たり前になっていて、必ずしも一緒にお芝居できるとは限らないのですが、今回はすべてのアフレコスケジュールを合わせていただけたんです。現場で自分が第一声を発したとき、真綾ちゃんが「小野さんがセバスチャンでいてくれるから、自分もシエルになれる」と言ってくれたんですが、その気持ちは僕も一緒でした。ひとりでセバスチャンを演じるときって、じつはしんどくて、役になるのに結構時間がかかるんです。でも、真綾ちゃんと一緒に録ると、自然とセバスチャンになれる感覚があります。
――特別な関係性ですね。脚本を読んだとき、セバスチャンのシエルの会話に添えられた「信頼しつつも切り結ぶかのように」というト書きに頷いてしまったのですが、おふたりの関係性との共通点はありますか?
小野 まず、ビジネスパートナーなんです。仕事においてこれだけ信頼することができる相手はなかなかいない。なれなれしくしているわけではないけれど、長い時間をともに過ごしてきたことによって、お互いの呼吸がわかって、居心地がいいこともわかっている。一緒にいると楽しいぞってなってくる。その点はもしかしたら、セバスチャンとシエルの関係性と似ているかもしれないです。真綾ちゃんとは不思議な縁があって、一緒の作品に出ると必ず深い関係性のある役柄になるんですよね。それはきっと『黒執事』が生んでくれた縁なのだと思っています。
- 小野大輔
- おのだいすけ 1978年5月4 日生まれ、高知県出身。主な出演作は『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズ(空条承太郎)、『宇宙戦艦ヤマト2205』(古代進)、『おそ松さん』(松野十四松)など。
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