TOPICS 2021.12.09 │ 12:00

蒼のカーテンコール 最終章
『ARIA The BENEDIZIONE』総監督・佐藤順一インタビュー②

「蒼のカーテンコール」の最終章に寄せてお届けする総監督・佐藤順一インタビュー。後編では、過去のシリーズをともにしてきたスタッフたちについて、そして最終章でも主題となった「継承の物語」という観点から『ARIA』を紐解いてもらった。

取材・文/田中尚道

“ミスター『ARIA』”に成長した名取監督

――作中で流れる時間よりも現実の時間のほう長くなってしまいましたが、制作をともにしてきたスタッフについて思うことはありますか?
佐藤 今は名取(孝浩)君が監督として現場を担っていますが、彼はTVアニメ1stシーズンの『ARIA The ANIMATION』では演出助手でした。だから現場からの見方で言えば『ARIA』は彼の成長の軌跡でもあります。もう、まかせておけば大丈夫な“ミスター『ARIA』”と呼んでもいいくらいの存在になってくれました。

――主題歌を再び牧野由依さんにお願いすることになったのはどのような流れだったのでしょうか?
佐藤 主題歌に関してはシリーズを通してフライングドッグの福田(正夫)プロデューサーから「今回はこの人で」と提案してもらっていて、いつもすぐに決まっていたのですが、今回は「総決算ということで、牧野さんにもう一度歌ってもらいたいのですが」と打診されたので、「ぜひお願いします」と即答しました。作曲も窪田ミナさんで、彼女も「この曲を総決算にしよう」という心づもりで取り組んでくださって、出来上がるのを楽しみに待っていました。聞いていると頬が緩(ゆる)んでいくような温かさがあって、さすがだなと思っています。

「母」と「レジェンド」、ふたりの新キャラクターたち

――藍華をとりまく重要人物として愛麗・S・グランチェスタ(CV 平松晶子)と明日香・R・バッジオ(CV 島本須美)が新たに登場しましたが、このふたりのキャストについてはいかがでしたか?
佐藤 ふたりともオーディションではなくて、僕のほうから出演をお願いしました。平松さんは『ケロロ軍曹』で斎藤千和さん演じる日向夏美のお母さんを演じていて、そのときの親子感と、柔らかいお芝居が印象に残っていました。天野(こずえ)先生の描かれたイメージでは、愛麗は毅然とした厳しい人に見えたのですが、そこに平松さんの柔らかいテイストが乗って、優しいお母さんとしての一面を引き出してもらいました。

――島本須美さんに関してはいかがですか?
佐藤 グランマ(天地秋乃)役の松尾(佳子)さんもそうでしたが、キャラクターが「レジェンド」という設定ですので、キャストもレジェンドにふさわしい方にお願いしたいと思っていました。明日香さんにも当初は「厳しい人」というニュアンスがあったのですが、島本さんの声が入るとグランマと同じくらい優しく若者たちを導いてくれる存在感が出て、納まるべきところに納まった感じですね。

三者三様の「継承」の物語

――「蒼のカーテンコール」はARIAカンパニー、オレンジぷらねっと、姫屋それぞれの「継承の物語」でもあったと思います。この3グループの性格をどのようにとらえていますか?
佐藤 育てるという観点で言えば、姫屋はいちばんきっちりとしている会社ですね。藍華がああいう子だったから晃に預ける、という明確な理由が見えます。オレンジぷらねっとには方針と呼べるものがなくて、アテナは教え方に、アリスは教わり方にとまどって、ふわふわしつつもいい感じに納まっている。ARIAカンパニーは一緒にいろいろなことを体験しながら「面白いね」「楽しいね」「素敵だね」と言い合って育っていった感じで、それぞれグループの雰囲気がそのまま人の育て方につながっているイメージです。

――藍華と晃の関係性は、同じ佐藤さんの監督作である『カレイドスター』の主人公・そらとレイラの関係性に重なって見えるところがあります。
佐藤 姫屋のぶつかりあう感じはたしかに『カレイドスター』に重なりますが、本質的にいちばん近いのはARIAカンパニーだと思っています。若者が憧れを抱いて上を目指していくんです。そして受け止めるほうは、ある瞬間で追い抜かれているんですよね。アリシアが引退式で「もっと灯里と過ごしたかった」と言うのは、レイラが言った「そらの天使が見たい」という執着に近いんです。灯里は巣立ちの準備ができているのに、アリシアにはまだそれができていない。自分を超えていくという理想的な卒業のあり方だとは思いますが。

「また何か次が」ということも……?

――この先、アイ、あずさ、アーニャの昇格や、灯里たちの卒業を描く構想はあるのでしょうか?
佐藤 あくまで天野先生から出てくるものをお待ちしている立場です。アーニャやあずさに関しては、デザインはいただいているのですが、具体的なエピソードやバックボーンを伝えられているわけではないんです。アニメで動いている彼女たちの姿を見て、キャラクター像が出来上がってきているのかな、と思ってはいるのですが。だから天野先生が「思いつきました!」とおっしゃれば、僕も周りのスタッフたちも「じゃあやりますか!」と動き出すと思います。

――『BENEDIZIONE』をこれから見るファンに伝えたいことは?
佐藤 描かれているのは藍華と晃の物語ではありますが、「ネオ・ヴェネツィアに遊びに行く」くらいの気分で、変わらない空気を楽しんでいただければと思います。原点回帰という意味も含めて「総決算」のつもりで作っていますが、声援が大きければ「また何か次が」ということもあるかもしれません。なにせ『ARIA』は各シリーズで「毎回これで最後」と言いつつ、見てくださる皆さんのおかげで続いてきた作品ですから。endmark

佐藤順一
さとうじゅんいち 1981年、東映動画に入社。1983年『ベムベムハンターこてんぐテン丸』で演出家デビュー。『メイプルタウン物語』『悪魔くん』『きんぎょ注意報!』『美少女戦士セーラームーン』『おジャ魔女どれみ』でシリーズディレクターを手がけ、フリーランスとなってからは『カレイドスター』(原案・監督)、『ケロロ軍曹』(総監督)、『たまゆら~hitotose~』(原作・監督)などの作品を世に送り出している。
作品情報

『ARIA The BENEDIZIONE』
絶賛公開中

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