TOPICS 2023.02.27 │ 12:00

メインスタッフが語る
『ぼっち・ざ・ろっく!』のライブシーン制作舞台裏(前編)

下北沢を舞台に、バンド活動にいそしむ少女たちの日々をユーモアたっぷりに描き出し、大きな反響を呼んだ『ぼっち・ざ・ろっく!』。中でもダイナミックで生っぽいライブシーンは本作の魅力のひとつ。アニメーションプロデューサーの梅原翔太と、ライブディレクターの川上雄介にその制作舞台裏を聞いた。

取材・文/宮 昌太朗

「ライブシーンは手描きで」というオーダーがあった

――今回、川上さんは「ライブディレクター」という肩書きで参加しています。これがどういう役職なのか、どんな目的でこの役職を立てたのかを、プロデューサーの梅原さんから説明していただけますか?
梅原 まずアニプレックスさんから「ライブシーンは手描きでいきたい」という意向をいただいていたんです。そうすると、モーションキャプチャーを収録したあと、手描きで作業するためのCGのガイドを出す必要があって――つまり、手描きとCG、両方の知識を持っている人が必要だったんです。そこで、早くからBlender(※3DCGアニメ制作ソフト)を作業に取り入れていた川上君に声をかけたという流れですね。

川上 自分はもともと第5話「飛べない魚」本編のコンテ・演出を担当していたんですが、ライブシーンに関しては当初、斎藤監督が全話ひとりで演出したいとおっしゃっていたんです。ただ、モーションキャプチャーをやるとなると、プリプロダクション(準備作業)をかなり早い段階から進めなければいけない。そういうタイトなスケジュールで、監督がひとりでやるのは現実的ではない、と。それで、僕と斎藤監督のふたりで手分けすることになったんです。

実際の楽器演奏からライブシーンを構想していく

――具体的に、モーションキャプチャーはどんな風に進めていったんでしょうか?
川上 最初に、脚本とデモ楽曲がある状態でモーションキャプチャーのリハーサルを行います。このリハーサルでは、脚本に書かれたモノローグやセリフをもとに曲の盛り上がりとの兼ね合いを考えつつ、監督と話し合いながらバンドメンバーの気持ちや感情の変化を組み立てていきます。たとえば、「このタイミングでぼっちちゃん(後藤ひとり)が覚醒するので、それに対して(伊地知)虹夏ちゃんと(山田)リョウはリアクションをしてほしい」とか、実際に曲を流しながら楽器を弾く演者さんたちに細かい芝居を少しずつ付けていきます。

――まずは疑似的に、演者さんたちにライブシーンを演じてもらうわけですね。
川上 そうですね。皆さん練習をしてきているので、プレーンな演奏はできる状態です。そこに自分と監督、あとは原作者のはまじあき先生や音楽監修のInstantさんたちが立ちあって、演奏シーンにおけるキャラクターの雰囲気だったり、どこでどういう芝居を足すか、みたいなところを詰めていきます。で、定点カメラでそのリハーサルを撮影した映像を持ち帰って……そこから絵コンテまで1週間くらいでしたっけ?
梅原 そうだね。1週間くらいで川上君や監督がコンテを描いて、ライブシーンの大枠を作ってくる、という。
川上 たとえば、細かいリフがあるところでは手元を抜いてみようとか、このドラムの動きはカッコいいなとか、そういうことを考えながらコンテを切ります。で、それをもとにビデオコンテ(※コンテをムービーの形にしたもの)を作って、そこからモーションキャプチャーの本番に入るんです。

――なるほど。
川上 本番ではビデオコンテを流しながら収録をしていくんですが、「この音のときに振り向いてほしい」とか、かなり細かく指示を出していますね。アニプレックスの音楽チームからは実際のライブ的な目線で「現実にはこういう動きにはならない」とか「演奏のテンポがずれている」といった具合に、細かいところまで確認しつつ撮影していきます。午前中にモーションキャプチャーの本番を収録したあと、午後にそのキャプチャーデータを使って、バーチャルカメラでレイアウト出しをやるんですけど……。
梅原 このあたりは言葉だとちょっと伝わりづらいですよね(笑)。収録したモーションキャプチャーのデータをもとに、まずはそれをキャラクターの疑似3Dモデルに変換した簡易的な動画を作ってもらいます。

監督のコンテの「生っぽさ」には憧れる

――モーションキャプチャーの収録が終わって、すぐにそういう動画が上がってくるんですね。
梅原 そうですね。で、午後はその動画に対して、バーチャルカメラ(3D空間上に疑似的に設置されたカメラ)を使って必要な構図を撮影していきます。たとえば、監督や川上君が「ここはもうちょっとカメラを低くしてください」とか、コンテをもとに指示を出しつつ、3Dレイアウトを作っていくわけです。

――モーションキャプチャーから3Dレイアウトの作成までを1日でやってしまうわけですね。第5話には、ギターのヘッド部分にカメラがついているようなアングルがありましたが、あれもコンテ段階で想定していたものなんでしょうか?
川上 そうですね。3DCGのギターのヘッド部分にバーチャルカメラをつけて、それで撮影しています。

――『ぼっち・ざ・ろっく!』のライブシーンが生っぽく感じられる秘密が、ひとつわかったような気がします。
梅原 実際には、第5話では川上君が得意とする、ケレン味たっぷりに見栄を切るレイアウトが多用されているんです。でも、バーチャルカメラでキャラクターが立っているところを切り取って芝居を作っていくことになるので、印象として生っぽく見えているのかなと思いますね。
川上 監督のコンテの、生っぽいカメラの置き方とかカットの積み上げ方にはすごく憧れるんですけど、自分でやってみるとなかなか難しいなと思いましたね。次の課題として、もっと取り入れたいところです。endmark

梅原翔太
うめはらしょうた 神奈川県出身。大学卒業後に動画工房に入社。その後、A-1 Picturesに移籍し、現在はCloverWorksに所属。制作進行として数々の作品を担当したのち、2016年に『三者三葉』でアニメーションプロデューサーを務める。プロデューサーとしての主な担当作品に『ワンダーエッグ・プライオリティ』『その着せ替え人形は恋をする』など。
川上雄介
かわかみゆうすけ 宮城県仙台市出身。アニメーター、演出家。主な参加作品に『ブラッククローバー』『SSSS.GRIDMAN』『Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-』『ワンダーエッグ・プライオリティ』など。
作品情報


『ぼっち・ざ・ろっく!』
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4巻 3月22日(水)発売!

  • ©はまじあき/芳文社・アニプレックス