TOPICS 2023.02.28 │ 12:00

メインスタッフが語る
『ぼっち・ざ・ろっく!』のライブシーン制作舞台裏(中編)

『ぼっち・ざ・ろっく!』のライブシーン制作の舞台裏を、アニメーションプロデューサー・梅原翔太とライブディレクター・川上雄介に聞くインタビュー。モーションキャプチャーを使ったユニークな制作スタイルについて聞いた前回に続いて、今回はより具体的に、各エピソードの苦労、力の入ったポイントについて語ってもらった。

取材・文/宮 昌太朗

「感情が爆発するアクション」を追い求めた

――ここからは個々のライブシーンについて、話を聞いていきます。まずは川上さん自身がコンテ・演出を担当した第5話「飛べない魚」。ライブ出演に向けて、結束バンドがオーディションを受けるという場面ですね。
川上 このライブシーンの前半では、キャラクターの感情を丁寧に拾っていこうと考えていました。自分はそれまでハイスピードアクションや空間を使ったアクションを得意としていたのですが、次に自分がどこに挑もうかと考えたときに「感情が爆発するアクション」だなと。そこで初めて挑戦したのが『ワンダーエッグ・プライオリティ』だったんですが、初めてのことだったので、なかなかうまくできなかったところもあったんです。

――アクション作画を追求していくなかで、今回の第5話があったわけですね。
川上 そうですね。この第5話では、自分がやりたいと思っていたアクションシーンにやっとたどり着いた感じがありました。
梅原 アクションシーンと日常のシーンって、やっぱり分離しやすいんですよ。アクションシーンが始まった途端に画面映えするカットが次々と出てきて、画面の展開がガラッと変わる、みたいなことがよくある。もちろん、それでいいケースもあるんですが、物語に沿った形でアクションの面白さが力を発揮する場合もあって。『ワンダーエッグ・プライオリティ』や今回の『ぼっち・ざ・ろっく!』も後者のケースだったかなと思いますね。
川上 AメロからBメロへ進むなかで、ぼっちちゃんの感情の中にどんどん入り込んでいって、サビで爆発するという流れがうまくいったかなと。感情の起伏に沿ったアクションが作れた気がします。

ライブハウスらしい「音を全身に浴びる」ような表現を

――川上さん自身が目指していたところと、作品の方向性がうまく一致したわけですね。
川上 そうかもしれません。あと、この第5話は初めてのライブシーンになるので、ライブらしい生っぽさを出したいと思っていました。自分はあまりライブハウスに行くタイプの人間じゃないんですが、スタッフの中には音楽が好きな人もいて。「ライブハウスってどういう感じなんですか?」と聞くと、「音圧がすごい」と。「ライブハウスは音圧を感じる場所だよ」と聞いたので、それこそ音を全身に浴びるような表現ができたらな、と思っていたんです。

――なるほど。
川上 それで最初に考えたのが、スピーカーの2カットですね。あそこでスピーカーが揺れている様子を見せて、ぼっちちゃんたちの音が空間に広がっていく、その大きさや強さが見せられるといいなと。で、それが振動で揺れるペットボトルにつながっていって。最初はライブハウスという、視聴者にとって初めての場所から始まって、そこからだんだんひとりちゃんの感情の中に入っていく。で、虹夏や周囲への意思や思いが高まったタイミングで、足を踏みしめると同時に感情が爆発するという。なので、ライブシーンというよりは、アクションシーンとして捉えていました。

梅原 最初、あのカットには稲妻のエフェクトが入っていたよね(笑)。最終的には「やりすぎだから」って外してもらいましたけど。
川上 素敵な原画だったので申しわけなかったです。そこから続く、ひとりちゃんに回り込むカメラワークなんかは、これまで自分がチャレンジしてきたテクニックの中から、映像的にカタルシスのあるものにしようと考えた場面ですね。背景美術を立体的に回転させたり、技術的には大変なカットなんですが、視聴者の気持ちの盛り上がりに相応して、どんどん見栄えのいい派手なカットを見せていこうと。

イメージ背景が印象的な第6話と第10話

――まさにキャラクターの心情の変化に寄り添う形で、映像も変化していくわけですね。次に担当した第6話「八景」は、ひとりが(廣井)きくりと路上ライブをするシーンです。
川上 基本的な考え方は第5話と同じなんですが、曲がインストゥルメンタルだったので、そこがちょっと難しかったです。曲中にブレイクがあったので、そこをきっかけに変化していく展開になっていますね。この第6話に関して言えば、本編のコンテ・演出を担当された藤原佳幸さんが、日常シーンとライブシーンをうまくつないでくださって助かりました。先行してライブシーンがある状態で残りのシーンを作るのは難しかったと思います。

――曲が始まる前までは、藤原さんが担当しているんですね。
川上 そうです。あと、第5話と変化をつけようという話があったので、演奏中にイメージ背景を使っています。ひとりちゃんが観客を敵だと思い込んでしまうところですね。最初、イメージ背景を使うのはどうなんだろうと話していたんですが、ここでチャレンジしてみたという流れです。

――第10話「アフターダーク」でのSICK HACKのライブシーンは完全にそちらに振り切った構成になっていますね。
川上 第10話に関しては、もともと構想していたものがあったのですが、「これをやるのは大変すぎる!」という話になってしまって。
梅原 最初の構想をモーションキャプチャーでやろうとすると、予算がとんでもないことになりそうだったので(笑)。
川上 なので、僕のコンテが残っているのは前半までですね。後半の、ひとりちゃんの心象風景的な部分、きくりに手を引っ張られていくあたりは監督が担当しています。endmark

梅原翔太
うめはらしょうた 神奈川県出身。大学卒業後に動画工房に入社。その後、A-1 Picturesに移籍し、現在はCloverWorksに所属。制作進行として数々の作品を担当したのち、2016年に『三者三葉』でアニメーションプロデューサーを務める。プロデューサーとしての主な担当作品に『ワンダーエッグ・プライオリティ』『その着せ替え人形は恋をする』など。
川上雄介
かわかみゆうすけ 宮城県仙台市出身。アニメーター、演出家。主な参加作品に『ブラッククローバー』『SSSS.GRIDMAN』『Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-』『ワンダーエッグ・プライオリティ』など。
作品情報


『ぼっち・ざ・ろっく!』
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  • ©はまじあき/芳文社・アニプレックス