那沙の目的とは? 男爵は本当に異星人?
――セカンドセブンについて、現時点でお話しできることはありますか?
磯 ちょっとずるい言い方をすると、そもそもセブンが考えている内容は、人間の言葉や脳では理解できない11次元的な思考なので、説明できないという設定なんですよ。
幸村 たとえセブンに聞いたとしても、そもそも人間の言葉で答えてくれるかどうか(笑)。
磯 そうなんですよ。言葉にした時点で人間の知能に合わせた情報として著しく劣化してしまう。じつは本編にもそういうシーンがあったんです。登矢は最後、ルナティックをしたことで11次元の情報にアクセスできるようになったんですけど、救助船に乗って地球へ帰還する際、必死にそれを書きとめようとするんですが、まるで夢で見た記憶みたいに急激に消えてしまう。それは人間の理解を超えた公式や定理、もしかするとこの世界の究極真理のようなものだったかもしれませんが、記憶がどんどんおぼろげになっていき、書きとめられたのはわずかな情報だけだった。しかし、その情報だけでも、ベンチャー企業を大成功に導くほどには価値のあるものだった。……というのが最後のオチになっています。このシーンは、Blu-ray特典の最終話コンテに残っているのでご確認ください。
幸村 なるほど。でも、人類をはるかに超越した知性が導き出した結論というのが、人間にとって優しいものであったり、あるいは愛情に満ちたものであったというのは、僕にとってはすごく希望で、明るい気持ちになれました。
磯 それが……じつはセブンは最初から最後まで一貫して私利私欲で動いているんですよ。セブンの結論に関しては、そんな甘い話ではなく、けっこう残酷なんです。
幸村 ええっ?
磯 これは『電脳コイル』のテーマとも通ずる重要な部分だったのですが、そのあたりの説明もほとんどカットしていまして。入れようとすると、あと1時間くらい尺が必要なんですが、マンガと違い、アニメは尺が増えると予算がかかるので……。
幸村 予算切れですか(笑)。たしかにマンガならページの増減ができますけど、アニメはそうもいかないですからね。『ヴィンランド・サガ』なんか毎月ページ数が違いますし(笑)。
磯 うらやましいです。
幸村 あともうひとつすごいなと思ったのが、那沙というキャラクターです。死をも恐れない彼女の信念や行動っていうのがどこから生まれてくるのか、すごくドキドキしながら見ていました。
磯 これもちゃんとした設定と理由があってのシーンで、完全版があるなら描きたいところですが……。Blu-ray特典の絵コンテにちょっとだけヒントが残っているのですが、那沙にはいろいろな裏設定があるんです。ひとつだけネタバレにならない範囲で言うと、彼女は最初から最後まで「いっさいの嘘をついていない」んです。
幸村 うわぁ、気になりすぎる(笑)。
磯 あの、じつは私も『プラネテス』で長年気になっているキャラクターがいて、今聞いてもいいですか?
幸村 もちろんです。
磯 男爵(第17話「友達100人できるかな」に登場)なんですけど、彼は本当にレティクル座人なのか、それともただの人間なのか、今日はそれだけは絶対に聞いて帰りたいと思っていて(笑)。
幸村 どっちなんでしょう(笑)。じつは厳密には決めていなかったんですよ。ただ、男爵に続きの展開があるとすれば、それは地球での刑期を終えた男爵が、迎えに来たUFOに吸い込まれていくストーリーですね。それを見たまわりのみんなが一斉に「ホンマだったんかい!」って突っ込むオチかなと(笑)。連載当時は、なんとなくそんな展開も想像していました。
磯 おお~、面白そう! もし、幸村先生が『プラネテス』の続編を描きたいと思ったら、ぜひ男爵のその後の顛末を読めたらうれしいです!
幸村 わかりました(笑)。
――幸村先生は、今連載中の『ヴィンランド・サガ』が佳境を迎えていますよね。
幸村 そうですね。終わりが近いのはたしかです。
――次回作については何か考えていますか?
幸村 そうですね。やはり今この世界で生きているたくさんの人と地続きの、決して無関係ではないお話を描けたらいいなと思っています。
――『プラネテス』は近未来、『ヴィンランド・サガ』は中世の北欧が舞台です。幸村先生は現代劇にはあまり興味がないんですか?
幸村 なんででしょう(笑)。興味がないというよりも、描けないんですよね。現代の高校生たちの青春ドラマを描けと言われたら、それは一千年前のヴァイキングを描くよりもはるかに難しいんですよ。現代劇に挑戦したい気持ちはあるんですけど、ハードルはかなり高い気がします。
――磯監督も、次回作への意欲を聞かせてください。
磯 私はみんながこぞってやっているようなジャンルは追いかけたくないんです。砂浜に打ち捨てられた、みんながゴミだと思いこんでいる残骸を拾っては、それをピカピカに磨き上げてよみがえらせるような仕事がしたいなと(笑)。今回は宇宙をやったので、次はまた『電脳コイル』のような路地裏の話に戻るかもしれませんし、あるいはまったく関係のないものをやってみたいなという気持ちもあります。
――ジャンルはSFに限りませんか?
磯 そうですね。本作もSFとは名乗っていないのですが、今はどちらかと言えば、そういうものよりもファンタジーをやってみたい気分だったりします。
幸村 『地球外少年少女』の完全版も次回作も、どちらも楽しみにしております。
磯 ありがとうございます。こちらこそ『ヴィンランド・サガ』の結末と次回作を楽しみにしております。
- 磯 光雄
- いそみつお 1966年生まれ。愛知県出身。アニメ監督、アニメーター、脚本家、演出家。『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』『新世紀エヴァンゲリオン』『紅の豚』『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』『キル・ビル』など幅広い作品に参加し、アニメーターとして高い評価を得る。2007年には自らが原作・脚本を務めた『電脳コイル』で監督デビューも果たしている。
- 幸村 誠
- ゆきむらまこと 1976年生まれ。神奈川県出身。マンガ家。2000年に『プラネテス』(「モーニング」(講談社)連載)で商業誌デビュー。2005年より「週刊少年マガジン」にて『ヴィンランド・サガ』を連載開始、その後、掲載誌を『月刊アフタヌーン』に移し、現在も連載中。2009年「第13回文化庁メディア芸術祭」でマンガ部門大賞を、2012年に「第36回講談社漫画賞」で一般部門を受賞。
オリジナルアニメ『地球外少年少女』
劇場公開限定版Blu-ray&DVD 好評発売中
Netflixにて配信中
『地球外少年少女プロダクションノート』
原作・脚本・監督を務める磯光雄氏の書く初期シナリオ案や企画段階で制作されたアイデアスケッチの数々、本編では描かれなかった幻の設定などを収録予定。『地球外少年少女』の圧倒的な世界がどのように作られたのかを徹底検証した一冊です!!
A4変形判/192ページ/定価3,900円(本価3,545円+税10%)
2022年8月31日(水)発売
- © MITSUO ISO/avex pictures・地球外少年少女製作委員会