TOPICS 2022.03.23 │ 12:00

『地球外少年少女』と『プラネテス』の接触点
磯 光雄×幸村 誠 スペシャル対談①

Netflixで好評配信中のオリジナルアニメ『地球外少年少女』の監督・磯 光雄と、約20年前に『プラネテス』を描いたマンガ家・幸村 誠の接触点(コンタクトポイント)を探る全3回の対談企画。第1回は、それぞれの作品の感想から「なぜ近宇宙を描くのか?」といった舞台設定について聞いてみた。

取材・文/岡本大介

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

宇宙ものの難しさは「宇宙へ行く動機」にある

――おふたりは今日が初対面なんですよね。
 そうです。『プラネテス』は以前から拝読していたので、お会いできてうれしいです。
幸村 こちらこそ光栄です! 僕の宇宙知識は20年前で止まっているので、『地球外少年少女』を見たときは稲妻が走って、「最新の情報を取り込んだらこんなことになるのか!」と感動をおぼえました。
 それは光栄です。でも、『地球外少年少女』の宇宙描写に関してはかなりチャランポランなので、『プラネテス』には遠く及ばないと思っています。
幸村 いやいや、そんなことないですよ。宇宙ステーションがあんな柔らかい素材でできているなんて衝撃でした。でも、よく考えたら、インフレータブル(※1)なほうがペイロード(※2)が浮きますよね。僕にはとても想像の及ばない世界観でした。

※1  空気などを注入することで膨らませて使用する膜構造物
※2 ロケットや航空機の運搬能力

 うれしいですね。今ある宇宙アニメの多くは『機動戦士ガンダム』の延長線上にある気がするので、もし少しでも違う風景を作れたならうれしいです。
幸村 僕はいまだに『機動戦士ガンダム』の世界で生きていた人間なので、新しい時代の幕開けを感じました。
 もったいないお言葉です。私からすれば幸村先生こそ貴重な宇宙の先輩のひとりなので、『プラネテス』のさまざまな先見性に敬意を抱いております。
幸村 そんな、恐れ多いです。ああ、息子たちに聞かせてやりたい(笑)。中学生と高校生になる息子がいるんですが、じつは『地球外少年少女』をチェックしていたんですよ。つい先日、「こんど磯監督と対談するんだぜ」って自慢したら「もう見たよ」って。僕はとくに何も言っていなかったんですけど、子供たちは自分たちの情報網で「今イケてるアニメ」としてとらえていたみたいです。
 うれしいですねー。とても優秀な息子さんですね(笑)。
幸村 それで「どうだった?」って聞いたら、「頑張んなきゃって思った」と。学校の先生に何かを言われるよりも、はるかにそう感じたって言うんですよ。
 それこそ、作品のいちばん大事な部分が伝わっていそうで、本当にうれしい。他のインタビューでも言っていますが、とにかく未来を扱う最近のフィクションは、若者のやる気を奪うような暗いディストピア的な世界観が主流なので、今回は「明るく楽しい宇宙」を描きたかったんです。劇中では「未来からは逃れられない」というセリフを使っていますが、どうせ逃れられないものなら、楽しく乗り越えられるような気持ちになってほしかったんです。
幸村 親の言うことも聞かない生意気盛りの息子たちを、そういう気持ちにさせる作品ってなかなかないですから素晴らしいですよ。
 恐縮です。では、息子さんたちには「君たちのパパは20年も前に宇宙を教えてくれる偉大な作品を作ってくれたんだから、もっと尊敬しなさい」と伝えてください(笑)。

――磯監督のおっしゃる通り、『プラネテス』は、かつて多くの若者に影響を与えた作品だと思います。幸村先生は自身の作品が人や社会に与えた影響について、どう受け止めていますか?
幸村 もし、僕の作品がひとさまの人生に何がしかの影響を与えることがあったのであれば……怖いです(笑)。もちろん、良い影響を与えたのであればそれはうれしいですし、マンガ家冥利に尽きると思いますが、基本的にはエンタメですので「気楽に読んでください」と思っています。
 マンガやアニメはドキュメンタリーではないので、どうしても描写の正確さよりも面白さを優先してしまいますね。フィクションであることをご理解いただいたうえで楽しんでいただけるとありがたいなと思います。

――『地球外少年少女』と『プラネテス』の大きな共通点は、宇宙ものではあるものの、極めて地球から近い場所を舞台としているところです。なぜ遠くの宇宙ではなく、近くの宇宙を描いたのでしょうか?
幸村 地球から遠すぎる宇宙って、皆さんあまり興味が湧かないんじゃないかと思ったのがひとつの理由です。僕は子供の頃からSFが大好きで、ずっとSFマンガを描きたいと思っていたんですけど、そこにたまたまデブリ問題という新しい情報が転がり込んできたことで『プラネテス』を描くことができました。ただ、仮にはるか未来で火星のデブリが問題になっているという設定だとすると「まあ、いいんじゃないの?」ってなっちゃう(笑)。地球上で暮らしている僕らがリアルに感じられる空間……と考えたら、地球近傍(きんぼう)しかなかったんです。

 『地球外少年少女』は、初めて宇宙に興味を持った素人がちょっと遊びに行く「宇宙の浅瀬」を作りたいと思っていたので、ちょうどいい距離感かな、と思い低軌道を舞台にしました。ただ、作り始めた当初から、火星を舞台にしようという話もあったんです。現代の宇宙開発の最先端は月ではなく火星で、誰が最初に火星にたどり着けるかという競争の真っ最中なんですよね。そうやってより遠くの宇宙を目指す話を聞くたびに「人は何のために宇宙を目指すのか」を考えてしまうんですが、考えれば考えるほど答えのない沼に入っていく気がして。これはおそらく『プラネテス』でも同じような壁にぶつかったのではないかと勝手に推測しているんですけど。
幸村 あります。端的に言えば「宇宙に出ていくモチベーション」ですよね。宇宙開発が不思議だなと思うのは、まず宇宙に出たいという衝動があって、あと付けで動機や理由を探しているような気がすることなんです。今のところ緊急に地球外の資源を確保する必要もないですし、宇宙を探索する必要もないじゃないですか。でも、「ただの衝動なんです」という漠然とした理由でことを進めるには宇宙はあまりにリソースを使いすぎるので、そこでなんとか理由を見つけているんじゃないかって思うんです。
 本当におっしゃる通りです。私もそのあたりをどう作品に落とし込むかをずっと考えていて。1年以上考えて悩んだ結果、とある結論に達したんです。endmark

磯 光雄
いそみつお 1966年生まれ。愛知県出身。アニメ監督、アニメーター、脚本家、演出家。『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』『新世紀エヴァンゲリオン』『紅の豚』『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』『キル・ビル』など幅広い作品に参加し、アニメーターとして高い評価を得る。2007年には自らが原作・脚本を務めた『電脳コイル』で監督デビューも果たしている。
幸村 誠
ゆきむらまこと 1976年生まれ。神奈川県出身。マンガ家。2000年に『プラネテス』(「モーニング」(講談社)連載)で商業誌デビュー。2005年より「週刊少年マガジン」にて『ヴィンランド・サガ』を連載開始、その後、掲載誌を『月刊アフタヌーン』に移し、現在も連載中。2009年「第13回文化庁メディア芸術祭」でマンガ部門大賞を、2012年に「第36回講談社漫画賞」で一般部門を受賞。

オリジナルアニメ『地球外少年少女』
劇場公開限定版Blu-ray&DVD 好評発売中
Netflixにて配信中

書籍情報

『地球外少年少女プロダクションノート』

原作・脚本・監督を務める磯光雄氏の書く初期シナリオ案や企画段階で制作されたアイデアスケッチの数々、本編では描かれなかった幻の設定などを収録。『地球外少年少女』の圧倒的な世界がどのように作られたのかを徹底検証した一冊です!!

A4変形判/192ページ/定価3,900円(本価3,545円+税10%)
2022年8月31日(水)発売

好評発売中

  • © MITSUO ISO/avex pictures・地球外少年少女製作委員会