TOPICS 2024.05.24 │ 12:00

劇場版『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』
脚本・大倉崇裕インタビュー①

大ヒット公開中の劇場版『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』の物語はいかにして生まれたのか――? 2017年の『名探偵コナン から紅の恋歌(ラブレター)(以下、から紅の恋歌)』以来、シリーズに欠かせないヒットメーカーのひとりとなった脚本家・大倉崇裕へのインタビュー。第1回は、函館の「空気」とチームの「情熱」から生まれたストーリーの魅力に迫る。

取材・文/高野麻衣

今回は時代劇みたいなことをやりたいと思っていた

――今回は、大倉さんの劇場版初参加作『から紅の恋歌』の服部平次、そして『名探偵コナン 紺青の拳(フィスト)(以下、紺青の拳)』に登場した怪盗キッドがメインキャラクターです。お題を聞いたときの第一印象を教えてください。
大倉 原作のほうで平次とキッドの因縁の物語が熱くなっていたので、その流れでこうくるかと合点しました。あとは、ふたりとも非常に華があるので、お話自体は作りやすいなと。ただ、おっしゃったように、どちらも一度書いたことがあるキャラクターなので、どうしても過去作と似てしまう可能性がある。そこをなんとかしなければ、と最初に考えましたね。

――函館という舞台や、全体のアイデアはどのように生まれたのでしょうか?
大倉 「平次vsキッド」のお話をいただいたとき、私はなんとなく時代劇のイメージが浮かんだんです。だから「今回は時代劇みたいなことをやりたい」ということを先に申し上げていたと思います。そのあと、青山先生にも入っていただいた打ち合わせがあったのですが、先生のアイデアでいちばん大事だと思ったのは、ラストで平次が和葉に対して告白するということ。『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』のときもそうでしたが、先生が考えたラストシーンから「じゃあ、そのシーンにふさわしい場所はどこなのか?」が始まるんですよね(笑)。平次が告白するのにふさわしい場所はどこなのか――。みんなで考えていたとき、どなたかが「函館に100万ドルの夜景っていうのがありますよ」って言ったんですよね。「あ、それだ!」と。函館には有名な五稜郭や素敵なものがいろいろ揃っていますし、なにしろ100万ドルですから。そういった経緯もあって、函館という舞台が一気に決まりました。

――劇中では函館が臨場感たっぷりに描かれ、コナンや平次が街を縦横無尽に駆けめぐっていましたが、今回もしっかりロケハンをしたんですよね?
大倉 はい。函館って決まった瞬間に「ロケハンどうする?」という話になって(笑)。函館に行くのは初めてだったのですが、とにかくいい街でした。海があって山があって、坂もあって。それに市電も走っていて、とても情緒があるんです。こじんまりした佇まいの中にいろいろなものがあって、なおかつ歴史がある。もちろん、冬の厳しさはあるのかもしれないですが、私が行った9月は天気もよくて過ごしやすく、食べ物も美味しいときで。映画を見た方が函館を旅してくださるとうれしいな、という思いは書き始めた頃からありました。

――なるほど。大倉さんのひと目惚れから、物語が広がっていったのですね。
大倉 そうですね。ロケハンの出発までにゆるいプロットは書けていたので、そこに出てくる場所を中心に見ていこうと思っていたのですが、やっぱり実際に行ってみるのって大事だなと痛感しました。現地の空気感に触れて「ここはもっとこうしたほうがいい」というひらめきを感じたんです。たぶん、私だけじゃなく、(永岡)監督もそうだったのではないでしょうか。暗号の謎解きももともと考えてはいたのですが、実際に見て、現地の方の説明を聞くともっといいアイデアが出てくるんですよね。結局ロケハンから帰ってきてすぐ、プロットに手を加えて、暗号の謎解きも、ほとんど別ものになりました。

平次の告白は100パーセント青山先生が考えたセリフ

――オリジナルキャラクターの福城聖や、彼にまつわるお話も印象的でしたが、それは当初から考えていたのでしょうか?
大倉 打ち合わせの中で「宝探し」という物語の本筋が固まったのですが、その過程で平次の恋敵を登場させてはどうかという話になって。私の中で平次は時代劇のイメージなので、剣術のライバル的な位置づけにしたくて聖が生まれました。ただ、こんな風にキャラの物語が発展していくとは当初予見していなくて。監督や制作チームの皆さんがうまい着地点を見つけてくださったと思っています。みんなに愛されるかどうかはわからないんですけど、脚本を書いた側からするとうれしい誤算ですね。

――そうだったのですね。今回も全方向から楽しませていただき、やっぱり大倉さんと永岡監督のコンビは素晴らしいと感嘆しましたが、『紺青の拳』以来となる監督とのタッグはどうでしたか?
大倉 一度ご一緒させていただいて、進め方がなんとなくわかっていたのでやりやすかったです。ミステリーの筋立てに関しては好きなようにやらせてくださるので、あんなややこしい話になっちゃったんですけど(笑)。あと、監督は本当に『名探偵コナン』が好きで、キャラクターへの思い入れ、愛を猛烈に大事にされる方なんです。だから、ある程度ストーリーの仕掛けを作って監督に投げておけば、きっとなんとかしてくれるという信頼感があります。「なぜ彼がこういう行動をとるのか」をとても深く考察される方なので「こういう行動をとる理由として、この人は過去にどういう経緯があったんですか?」みたいな、こっちが思ってもみなかった質問をいただくんですよ。あわてて考えて「それはこうなんです」ともっともらしく、最初から考えていたかのようにメールを返しましたが(笑)、その情熱はやっぱりすごいなと思いました。感情と行動の整合性という意味でたくさん勉強させていただけて、完成品を見たときに、自分で書いたものではあるんですけど、ものすごくぐっときました。

――おふたりが補い合うことで、キャラクターたちが立体的にかたちづくられていったのですね。次回のタッグがすでに楽しみです。
大倉 あはは、監督がどうおっしゃるかな(笑)。「日本刀出しすぎです」って10回ぐらい言われたんですよね(笑)。描き分けのご苦労を全然考えずに書いてしまって、すみませんという気持ちです。

――監督からも日本刀の苦労話は聞きました(笑)。今回、青山先生とのやり取りはどうでしたか?
大倉 さすがに4回目になると図々しくなって、核となるセリフはもう、最初から先生におまかせするようにしています。ぼかしておくとちゃんと考えてくださって、全部赤字を入れてきてくださるんですよ。お時間を使わせてしまって申し訳ないのですが、『名探偵コナン』としてはそれがベストだと私は思っていて。とくにラスト、平次のあのセリフを考えられる人はこの世に青山先生しかいないわけで、完全に空欄で出しましたね。平次のあの告白は、100パーセント青山先生が考えたセリフです。endmark

大倉崇裕
おおくらたかひろ 1968年生まれ。京都府出身。2001年『三人目の幽霊』で作家デビュー。『福家警部補』シリーズ、『警視庁いきもの係』シリーズなどの多彩な作風で人気を集め、ドラマ化多数。2019年『名探偵コナン 紺青の拳』に続いて、永岡智佳監督とのタッグとなる。
作品概要

『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』
2024年4月12日(金)より、大ヒット公開中

原作:青山剛昌 「名探偵コナン」(小学館「週刊少年サンデー」連載中)
監督:永岡智佳
脚本:大倉崇裕
声の出演:高山みなみ(江戸川コナン)、山崎和佳奈(毛利蘭)、小山力也(毛利小五郎)
山口勝平(怪盗キッド)、堀川りょう(服部平次)
スペシャルゲスト:大泉洋

主題歌:aiko「相思相愛」(ポニーキャニオン)

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