TOPICS 2022.05.05 │ 12:00

劇場版『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』
脚本・大倉崇裕インタビュー②

ハロウィンで賑わう渋谷を舞台に、ふたつの時間軸にまたがる事件の謎を解き明かす本作。『から紅の恋歌(ラブレター)』『紺青の拳(フィスト)』でおなじみの大倉崇裕は、どのように極上のミステリーエンターテインメントを組み上げていったのか。刑事たちへの愛にあふれた、物語誕生秘話に迫るインタビューの後編をお届けする。

取材・文/髙野麻衣

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

警察学校組の共闘では一体感を出したかった

――松田の「最後の一週間」の知られざるピースが、大きな事件の謎に見事ハマっていく感じには、極上のミステリーを読んだときのような快感がありました。
大倉 今回は松田の名刺という起点があって、そこから逆算して展開を考えたんです。たとえば「名刺を持っていた復讐組織は、なぜ松田の殉職を知らなかったのか」とか、疑問が湧きますよね。それをひとつひとつ解決していくわけです。ハロウィンが舞台なのも「渋谷だからですか?」とよく聞かれるんですがまったく別で、松田が殉職したのが11月7日だから。そこからの逆算なんです。一週間さかのぼったら、だいたい10月31日で「ああ、そういえばハロウィンじゃん」って誰かが言い出して「それだ!」と(※1)。『紺青の拳』がクライマックスの破壊ありきで突き進んだストーリーとしたら、今回は起点からひとつひとつ組み上げていくストーリーでしたね。

※1 発言者は満仲勧監督と判明。

――重要な手がかりとなる回想シーンでの、警察学校組の共闘もカッコよかったです。意識した点はありますか?
大倉 彼らに関しては、グループの一体感を出したかったんですよね。今回は時間軸をどうしてもズラさないといけないので、ひとつの回想シーンに彼らの魅力をぎゅっと凝縮したかった。萩原だけはその前に亡くなっているので、彼のお墓参りという理由をつけて、4人が集まったところで事件が起きることにしました。4人で敵と戦って、その結果が現在にクローズアップされてくる。ミステリーでうまくつなぐことで、過去と現在の一体感が出せればと心がけました。実際のアクションシーンに関しては、青山先生と満仲(勧)監督がものすごくがんばってくださって、脚本の数百倍カッコよくなっています!

降谷零をどうやって封じるか

――安室、ではなく今回は「降谷」と呼びたいのですが、彼にも「主人公に成長をもたらし、自らも救われる師匠」のような深い魅力が加味されたように感じます。首輪爆弾のアイデアはどこから?
大倉 『紺青の拳』のとき、京極真という強いキャラクターを野放しにすると映画がすぐ終わってしまうのでミサンガで封じたのですが、同じように今回の鍵は「降谷零をどうやって封じるか」でした。彼を野放しにしたら何でも解決してしまうので(笑)。それでいろいろ考えた末の、首輪爆弾。いつ爆発するかわからない爆弾がついていたら、当然外に出られない。コナンとの関係性についてもおっしゃる通りで、会えないわけではないけれど、馴れ合ったりはしない。そういう関係性をうまく出せればと思いました。

――劇場版『名探偵コナン』といえば、終盤のアクションシーンですが、あの圧倒的スケールを出すために工夫していることはありますか?
大倉 その土地に合ったアクションを考えるってことですかね、やっぱり。今回の渋谷で言うと、高低差がポイント。それを生かしたアクションにしたつもりです。街を俯瞰(ふかん)で捉えることがスケール感につながると思うので、多少大雑把でもいいから引いて見る。『コナン』の映画はそれをやらせてもらえるので、クライマックスを描くのがすごく楽しいんです。

深みのあるドラマになったのは青山先生はじめ制作チームのおかげ

――終盤では、降谷が先輩にあたる人物に助けられるシーンもあって、両者ともたしかに警察という組織の一員なんだと胸が熱くなりました。大倉さんは以前も「『コナン』の刑事たちが好き」とおっしゃっていて、TVシリーズでも数多く脚本を手がけていますよね。
大倉 そうですね。名探偵が出てくるときの警察の扱いってわりと不憫(ふびん)で、探偵を引き立てるための刑事っていうのも定番ですよね。でも、『コナン』の世界はそういう刑事が少ない。愛すべき刑事――能力的にはもちろんコナンには及ばないけど、職務に忠実で熱心で、信念を持ってやっている刑事たちが多いんです。今回は千葉刑事にいいところがなくて非常に申し訳なかったんですけど(笑)、みんなすごく優秀ないい刑事、警察官たちなんだよっていうことは伝えたかった。そこはかなり気を使った部分ではあります。一方で、対立する復讐組織などに関してはわりとドライに捉えていて、ミステリーを成立させるために登場し退場する、みたいなシンプルな流れでした。そこを青山先生や監督が、しっかり肉付けしてくださった。そのため村中(努)やエレニカ(・ラブレンチエワ)といったキャラクターに熱いドラマが生まれたんじゃないかと。やっぱり『コナン』は、チームで作っているんですよね。本当に深みのあるドラマにしてくださったなと感動しています。

――すばらしいチームで作り上げる劇場版、今後も楽しみです。次なる構想はいかがですか?
大倉 やりたいことはいっぱいあるのですが、今回、大好きな「刑事もの」でやりきった感もありますね。黒ずくめの組織にからむ物語はやっぱり青山先生のパートだし、本来は安室も櫻井(武晴)さんのパートなので(笑)。私は高木と佐藤みたいに愛すべきキャラクターたちをメインに引きずり出すような「殺人ラブコメ」を、今後も描いていきたいと願っています。endmark

大倉崇裕
おおくらたかひろ 1968年生まれ。京都府出身。2001年『三人目の幽霊』で作家デビュー。『福家警部補』シリーズ、『警視庁いきもの係』シリーズなどの多彩な作風で人気を集め、ドラマ化多数。2016年『名探偵コナン』第829話より脚本に参加している。
作品情報

劇場版『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』
大ヒット公開中

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