TOPICS 2022.02.22 │ 12:00

プロデューサーが語る
『フルーツバスケット -prelude-』ができるまで①

ついに公開された『フルーツバスケット ―prelude―(以下、prelude)』。「今日子と勝也のエピソード」が映像化されるファン待望の作品だ。『prelude』はどのようにして生まれたのか? アフレコ現場で「本田家」はどう集まったのか? TVシリーズからプロデューサーを務めるトムス・エンタテインメントの伊藤元気さんに話を聞いた。

取材・文/青柳美帆子

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

高屋先生が描いた透と夾の「その後」で固まった『prelude』

――2月18日から『prelude』の劇場公開がスタートしました。TVシリーズ本編の主人公である本田透の母と父、今日子と勝也の物語が初めて映像化されます。
伊藤 TVシリーズ全63話の構成を初めに作ったとき、今日子と勝也の話を入れることができなかったのが心残りでした。TVシリーズは透と草摩家の呪いを本筋にしていたので、泣く泣く……。そうしたらシリーズの制作をしている最中に、白泉社さんから「今日子と勝也の話をOVAか何かで実施できないものか……」とご相談をいただいたんです。井端義秀監督に話してみたら「ぜひやりたい」ということで、今回の企画が実現しました。

――『prelude』は、透と夾(きょう)の関係を中心にしたTVシリーズの総集編、今日子と勝也の物語、そして完全新作の透と夾の「その後」という構成になっています。
伊藤 今回、今日子と勝也のエピソード(原作第90話〜第93話)を映像化するにあたり、何かお話をつけたほうがいいだろうとあれこれ考えました。最初はアニメの最終話をふくらませるような形で、透たちの卒業式から始める案もあったんです。ただ、なんとなくしっくりこなくて……。そこで高屋先生に相談したところ、作ってくださったのが、透と夾の「その後」のお話でした。これまでの『フルーツバスケット』の物語を夾の目線で振り返り、原作に近い流れで今日子と勝也の物語を描いたあと、「いつだって一度は道に迷わなければ、自分の答えにたどり着けない」という今日子と夾の心情がリンクする部分を足掛かりにして、本編とつなげていく。そして、高屋先生原案のオリジナルパートで締めるという。

――恋人同士になった透と夾の姿は本編ではあまり描かれておらず、ジャンプして「おじいちゃんおばあちゃんになったふたり」で結ばれていますよね。今回、甘々のふたりを見ることができてすごくうれしかったです……!
伊藤 原作で今日子と勝也のエピソードを読んだとき、衝撃を感じました。段階を踏んでではなく、突然ぱっといなくなってしまう喪失感というか、行き場のない悲しみというか……。そんな今日子を再び立ち上がれるようにしてくれたのが透。幸せな透を最後に見せることで、今日子の思いがふたりに受け継がれていくような作品になったと思います。

――この悲しさが透と夾の未来につながっていくことを感じました。サブタイトルの『prelude』はどのように決まったのでしょう?
伊藤 TVシリーズは「1st」「2nd」「The Final」とそれぞれ銘打っていたので、今回もサブタイトルをつけようと制作チームでいろいろアイデアを出し合いました。「ビギニング」みたいな案も出たのですが(笑)、最終的には僕が出した「prelude」となりました。今日子と勝也のお話が『フルーツバスケット』という物語の「前奏曲」になっているイメージです。

初めてそろった「本田家」

――キャストのお話も聞かせてください。今日子役の沢城みゆきさんのお芝居が素晴らしいですね。「赤い蝶」として荒れているときから始まって、勝也に出会った幸福、そして絶望、そこから立ち直っていく姿……と、今日子という人間のいろいろな面を見ることができました。
伊藤 沢城さんと細谷さんのお芝居、素晴らしかったです。沢城さんには他の現場でのお仕事を拝見して、声の感じからいっても今日子を演じていただきたかったんです。オーディションのテープを聞いた高屋先生からは「お芝居と存在感が素晴らしい」とコメントいただきました。

――勝也を演じる細谷佳正さんは、The Final第12話の「頑張ったね」のひと言が初出演でした。
伊藤 今回の『prelude』の企画が決まっていたこともあって、TVシリーズの出演をお願いできました。当時、新規のお仕事はNGの可能性もあったのですが、受けていただくことができました。

――アフレコに向けて、おふたりにはどんなディレクションをしたのですか?
伊藤 沢城さんの今日子はTVシリーズから引き続きなので、『prelude』に向けての新しい役作りはなかったと思います。細谷さんの勝也はとらえどころがないキャラクターなので、なかなか難しいかも……という不安はありましたが、先生から勝也像をいただいたので、それをお伝えしました。

――作中では、勝也自身が自分の過去を振り返って「自分以外はみんなバカだと思っていた」と言っていますね。
伊藤 そうしたキャラクターなので、シーンごとのニュアンスは非常に監督も気にしていました。やりすぎると嫌なヤツになってしまうし、かっこつけすぎるとスカしたヤツになってしまう。でも、そこを細谷さんが非常にうまく演じてくれたと思います。

――石見舞菜香さん演じる幼少期の透もかわいかったです!
伊藤 石見さんはよく「(石見さんご自身が)本当に透」と周囲のキャストさんから評されていたのですが、TVシリーズ最終話後に髪を切っていて、幼少期の透は髪が短いので、今回も透感が強かったです(笑)。ご自身の収録が終わっても、沢城さんと細谷さんの芝居を肌で感じたいのか、見学していらっしゃいましたね。本作のアフレコで初めて本田家の家族3人がそろいました。

――本田家の家族3人……!
伊藤 個人的にはずっとTVシリーズをやってきたせいで、監督もそうだと思うのですが、なんかもう自分が草摩家の一員みたいな感じになっちゃっていて……。何年間も透を見てきて「ああ、透が初めてお父さんに名前を呼んでもらえたんだなあ」とグッときました。親戚の子供の成長を見守っているというか。『prelude』の透は幼いので、時系列は逆なんですけど(笑)。endmark

伊藤元気
いとうげんき トムス・エンタテインメント所属。『フルーツバスケット』のTVシリーズにて初めてプロデューサーを担う。
作品情報

『フルーツバスケット ―prelude―』
絶賛公開中

  • ©高屋奈月・白泉社/フルーツバスケット製作委員会