TOPICS 2022.02.24 │ 12:00

プロデューサーが語る
『フルーツバスケット -prelude-』ができるまで②

『フルーツバスケット -prelude-(以下、prelude)』伊藤元気プロデューサーのインタビュー後編。『フルーツバスケット』シリーズにおける「ふたつの挑戦」とは何だったのか。原作が持つ「ロングスパンの伏線」にどう向き合ったのか。TVシリーズ全63話から本作『prelude』を走り切った今の気持ちを聞いた。

取材・文/青柳美帆子

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

TVシリーズの「ふたつの挑戦」

――今回『prelude』が制作されたことで、『フルーツバスケット』の一連の物語をアニメで見ることができるようになりました。あらためてTVシリーズの制作で目指していたものを教えていただけますか?
伊藤 最初に目標にしていたのは「今の時代の新しい『フルーツバスケット』を作る」です。原作の雰囲気は変えずに、映像として新しいものを作ろうということで、キャラクターのデザインは新しく感じてもらえるものを目指しました。美術も、少女マンガ原作のアニメ化ではちょっとふんわりしたものにすることが一般的なのですが、少し写実的な背景を乗せて、きれいな撮影効果を入れて……という風に作っています。「挑戦できてよかったこと」は大きくふたつあって、ひとつは「最初から原作を全部アニメ化する」と決めていたこと。もうひとつが「キャストの選び方」です。

――TVシリーズは3クール全63話、かなりていねいに作られていましたね。
伊藤 TVシリーズを63話作るのは、かなりの挑戦でしたね……!(笑)

――トムスさんといえば『名探偵コナン』や『それゆけ!アンパンマン』などの長期シリーズを制作しているので、そういったものが得意なのかと思っていました。
伊藤 そんなことは……全然ないですね(笑)。長期シリーズを担当しているラインはあるのですが、僕のいるスタジオは新しいものを作っていくことを目指しています。トムスは少女マンガ原作のアニメも制作しているのですが、これだけ長いスパンのものは初めてでした。この作品をやるために集まっていただいたスタッフも多いです。ちなみに僕もメインプロデューサーをやるのはこの作品が初めてで。

――それでいきなり63話は大変ですね!
伊藤 どのエピソードも大切ですし、ファンの多い作品なので、63話全体のクオリティコントロールをしながらの制作はかなり大変でした……。ただ、原作が完結しているため、逆算して内容をコントロールできたのは非常によかったです。たとえば、原作ではうおちゃんやはなちゃんのお話は後半のほうにありますが、キャラクター性を出すために前半に持ってくるということができる。あとは高屋先生が原作に仕込んでいる、ロングスパンの伏線も意識して演出ができました。

――たしかに。原作では、キャラクターのモノローグや表情の意味が、ずっとあとになってわかるということがあります。
伊藤 そうなんです。原作のひと桁台の巻に入っている絵が、じつは第20巻くらいで語られるものと関連していたりする。とくに「高屋先生、すごい……」と衝撃を受けたのが、透と由希の「握手」です。

――握手というと、最終話のふたりが印象的です。
伊藤 原作の最終話で由希が透に「ありがとう」と伝えて握手をするのですが、第86話までさかのぼると、由希が透の手を握り「たくさんの ありがとう」をいつか伝えたいとモノローグで語っているんです。この第86話から最後の「ありがとう」につながっているのか……!と唸(うな)りました。アニメでは2ndの第22話でまずこのエピソードを入れて、The Finalの最終話でそのシーンをインサートしました。原作全部をアニメ化するから、後半のシーンを想定して大事なシーンとして入れておける。そういう作りができたのは非常に良かったです。

――もうひとつの挑戦についても教えてください。
伊藤 一般的にアニメのキャスティングは、メインの4〜5人をオーディションで先に決めて、あとは出てくるタイミングで都度選んでいきます。たとえば、本作でいうと紅野(くれの)が登場するくらいのタイミングで出てくるキャラクターのキャストさんは、その登場が近づいてきてから決めるのが一般的なのですが、『フルーツバスケット』ではほとんどすべてのメインキャラクターを最初に決めることができました。そのせいで、ずっと前から出演が決まっているのに、声優さんが「出るよ」と告知できなかったりすることはあったのですが(笑)。

時代を超える『フルーツバスケット』

――そういった挑戦のおかげで、原作らしい雰囲気になったんですね。
伊藤 こういった全部の構成をあらかじめ考えてやれるアニメ企画って、今はそんなにないと思うんですよね。「原作に忠実に」は目指していたことではありますが、『prelude』まで作り終えた今でさえ、原作に忠実にできたかどうかはわかっていません。僕らとしては、原作をそのまま映像にできたとは思うんですけど、そこがうまくできたかは見てくださった方が感じることですから。ただ、いろいろなコメントを見ると、結果としてできていたのかなと思っています。

――私は1990年生まれなので、原作がドンズバで刺さっていた世代です。でも、アニメの感想を見て、自分より若い世代がアニメをきっかけに本作に出会っていることを知りました。「こんな素敵な作品、みんな早く見たほうがいい!」という中学生の子の感想を見て、「わかるぞ!」と拳を握りました。
伊藤 新しい世代に見てもらえたのは、非常にうれしいです。新しいファンを獲得することも目指していたことのひとつですから。「親子で見ている」「お母さんが子供にも見せている」というのは各所から聞いていて、井端監督もそういう反響を喜んでいます。

――『フルーツバスケット』は海外ファンも多い作品ですが、配信などで海外ファンにも届いている感触はありますか?
伊藤 直接コメントをいただいたわけではないのですが、MyAnimeListなどで反響は見ていました。慊人(あきと)が女性であることがわかったときに頭を抱える海外ファンもいたみたいで、すごく面白かったですね(笑)。『フルーツバスケット』という作品は、時代背景があまり出てこないので、いつの時代でも受け入れられやすい。そしてどの時代の人も抱えているコンプレックスや葛藤が描かれているので、時代を超えて愛される作品です。アニメも時代を超えて、多くの人に見てほしいと思います。endmark

伊藤元気
いとうげんき トムス・エンタテインメント所属。『フルーツバスケット』のTVシリーズにて初めてプロデューサーを担う。
作品情報

『フルーツバスケット -prelude-』
絶賛公開中!

  • ©高屋奈月・白泉社/フルーツバスケット製作委員会