『SEED』は女性たちが道を切り拓いていく物語
――キラとアスランの立場の違いを埋める存在として、ラクスとカガリというふたりの女性の存在は大きかったと思います。キラとカガリは双子であり、ラクスはアスランの婚約者でもありました。
保志 いろいろな支えになりましたね。ラクスからフリーダムを託してもらうときもそうですけど、物語のターニングポイントをラクスが作っていて、欠かせない人物だと思います。
石田 アスランがグジグジと悩んでいるところを、女性たちが精力的に道を切り拓いていって、前に進む原動力になっているのが『SEED』ですよね。アスランは決して物語を進める人間ではない。
――振り回される存在ですよね。
石田 そういうポジションでしたし、ラクスに対しても「なぜそんな(中立の)立場でいられるのだろう」という理解不能な点は若干あったと思います。ラクスは純粋ですからね。『SEED』の世界を俯瞰で見たとき、ラクスもアスランも、父親がプラントの上層部にいるという同じ政治的な背景を持っているにもかかわらず、ラクスは第三勢力のリーダーになる。純粋培養された理想だけがあり、それを実現することに疑問がないから、キラを仲間に引き入れることができた。今振り返っても「何だろう、この人のパワーは」と思いますね。
保志 たしかにそうですよね。
石田 ラクスからアスランは「アスランが信じて戦うものは何ですか?」と問われてしまう。立場を超えて平和を追求する彼女の理想は理解できるけど、現実を踏まえたら(軍を離脱するのは)不可能なんだとアスランは言い返したい。でも、それを言えない弱さもあるのが彼なので……。このふたりがよく婚約していたなという(苦笑)。もし、何の事件も起こらずそのまま結婚していても、あまりうまくはいかなかったんじゃないかな。たぶん、アスランが胃に穴をあけながらうまくいっているフリをするんでしょうけども(笑)。
保志 (笑)。ラクスは純粋で頭が良くて、厳しいこともビシッと言いますからね。
石田 だから天然で純粋なキラと合うし、それとはちょっとずれたベクトルでカガリも純粋。お姫様だけど、市中に出てくる暴れん坊将軍みたいな(笑)。だからアスランだけが建前や本音に翻弄されて、みんなから置いてけぼりを食らっている。
――カガリはゲリラに参加していたくらいなので、目線は民間人に近いものがありますよね。それがキラとアスランの間を埋める大きなピースになっているように思います。
石田 そうですね。ラクスと違ってカガリはアスランのことを突き放さなかった。優しいですよね。
保志 あぁ~、そういう優しさがアスランには必要だったのかもしれませんね。
石田 「あなたの理想は?」みたいなことではなくてね。ただ、寄り添ってほしかったんだろうなと。
保志 キラ、カガリ、ラクスは、マイペースというか我が道を行くタイプなのに比べると、アスランはやっぱりまわりを見てしまう部分がありますね。
キラがアスランを殺めなくて本当に良かった
――キラとアスランと言えば、やはりフェンス越しの再会(PHASE-28「キラ」)から、キラはトール(・ケーニヒ)、アスランはニコル(・アマルフィ)が戦死してしまい、一騎打ちを行う(PHASE29「さだめの楔」)までの流れが印象深いです。
保志 あそこの流れはけっこうリアルですよね。シーンとしてもリアルだし、こうやって現代の日本に生きていても、そういうすれ違いってあるじゃないですか。それまですごく親しかったのに、何かひとつ亀裂ができてしまうと、もう普通に話せなくなることってありますから。そういう空気感がしっかりと描かれていましたね。
――演じる側としてはどのような心境でしたか?
保志 あのときは俯瞰して見る余裕もなかったので――1年かけて放送される作品だったから「そういうときもあるよね」と思っていた気がします。そのあとの展開も知らなかったですし、ただ、いつか仲直りしてほしいという願望を込めながらアフレコしていました。
石田 僕も先の展開を聞いていたわけではなかったのですが、最後は共闘するはずだと思い込んで演じていました。あのフェンス越しの再会も、アスランの立場だとザフトの仲間たちの目があって、ガッツリ話すことはできなかった。そうした悲しさや切なさをひしひしと感じながら向き合っていたと思います。
――そういうシーンのあとに、互いに刃を向ける一騎打ちがあります。
保志 そのときの突発的な感情でしたよね。キラだってアスランを殺めようとしたわけだし、逆にアスランのおかげでその罪を背負うことにはならなかったので、キラを演じる身としては助かった感覚はありました。キラがあのシーンでアスランを殺めなくて本当に良かった。
石田 キラが『DESTINY』のような達観した状態だったら、こちらが危なかった。
保志 その前で良かった(笑)。そういったギリギリの状況を乗り越えて最後に共闘していくので、すごくドラマチックでしたね。でも、それを象徴するシーンが、実際にふたりが手を取り合うのではなくて、フリーダムとジャスティスで描かれるっていうのがすごいなぁと。『ガンダム』シリーズならではの演出だと思いました。
石田 そうだね。あれは普通の作品だったら人間同士で描写されるところだろうから。今、思い出したんだけど、あのフリーダムとジャスティスが手をつなぐシーンは、たしか「ファンが選ぶ『SEED』の名シーン」に堂々選ばれて、イベントで上映されたんですよ。キャラクターのシーンじゃなくて、あの激しいMS(モビルスーツ)同士の戦闘シーンに、キャラクターを重ねて見てもらっているんだというのを実感して驚きました。
――MSにキャラクターが投影されていたと。
保志 そういうことができるくらい、それまでの積み重ねがあったということでしょうね。
――アスランはキラとオーブで共闘し(PHASE-39「アスラン」)、クサナギで宇宙に上がります。ようやく和解のときが来たわけですが、そのときの気持ちの高ぶりはありましたか?
保志 やっぱりアスラン、カガリと一緒に宇宙へ向かうというのは、ようやくここまで来たとも思いましたし、逆に考えれば、『SEED』が最終章に突入したんだと実感する場面でもありました。緊張感だけでなく、高揚感がすごくあったのをおぼえています。
石田 こうやってふたりが共闘するための物語なんだと、僕自身も納得していました。
- 保志総一朗
- ほしそういちろう 声優、歌手。アーツビジョン所属。『機動戦士ガンダムSEED』の Complete Blu-ray BOXに収録されている新規オーディオコメンタリーには3度出演。当時を振り返るトークを行っている。
- 石田 彰
- いしだあきら 声優。ピアレスガーベラ所属。『機動戦士ガンダムSEED』や続編『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』のみならず、『最遊記』シリーズでも保志総一朗と長年共演している。
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2022年3月29日(火)
<品番>
BCXA-1701
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44,000円(税込)
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