グリッドマンが人間くさくなった理由
――『SSSS.GRIDMAN』ではグリッドマンは基本的に淡々としていましたが、今回は感情が表に出ていて人間くさい印象ですね
雨宮 「裕太がグリッドマンを凌駕(りょうが)している」というのをやりたくて、そのためには「人間と融合したがゆえに、グリッドマンが人間の影響を受けてしまう」という流れにするしかなかったんです。僕自身は、グリッドマンは人間を超越した、感情移入できない存在であってほしいのですが……。
――インタビュー前編で話題に上った、好みではないシーンも入れたという部分ですか?
雨宮 そうですね。自分の好みを通していたら、話が作れませんでした。
――ユニバース化したグリッドマンを助けに行く裕太は、非常に迫力があったと思います。
雨宮 裕太を深掘りしようとしたとき、そもそも今の(中身がグリッドマンではない)裕太のことが何もわからないことに気づいたんです。そこから、どうすればグリッドマンを救えるくらいのキャラになるかと考えた結果、告白は2年もできていないのに、自分が死ぬかもしれないという選択には即断即決するヤバい奴になりました(笑)。滅茶苦茶いいキャラになったと思います。
アカネの描写はフルスイングの結果
――扱い方がとくに難しかったキャラクターはいますか?
雨宮 アカネですね。一度完結したキャラなので出したくなかったんですけど、お客さんの期待値的に出さないわけにはいかず、でもやっぱり普通に登場させたくはないから飛躍した出し方にしました。
坂本 個々のキャラとはあまり絡ませず、この世界の人々全体と向き合う、みたいなかたちにしています。
――ナイトとは例外的にしっかり絡みますね。
雨宮 アカネとナイトの再会は前からやりたかったので、アカネの登場が確定した時点でやると決めました。ナイトの片目を隠していたのは、このシーンのためです。
――アカネがインスタンス・ドミネーションをやるのは初めてですよね。
雨宮 アカネは「怪獣は操作するものではない」と考えているので、インスタンス・ドミネーションは本来、彼女の流儀に反するんです。なので、やりたくないことをやってまで、あの世界を助けているというのがキモですね。
坂本 アカネから、あの世界の人たちへの歩み寄りなんです。
雨宮 邪道だと思っているから、あの服装になったのかも(笑)。
――あれは怪獣優生思想の衣装ですよね?
雨宮 そのベースになった衣装、という設定です。怪獣優生思想は「アカネちゃん教」みたいなものなので、何らかのかたちでアカネの衣装を目にしたシズムたちが、彼女の真似をして衣装を作ったという順序になります。
――衣装のデザインは坂本さんですか?
坂本 はい。雨宮さんから「アイドル的な感じで」など指定がいくつかあって、それを元に考えていきました。
雨宮 みんなが見たいデザインを作ったつもりですが、需要と合っているのか不安です。
坂本 大滑りしたら、それはそれで面白いですけどね。違っていたら、弄(いじ)ってくださいとしか言えないです。
雨宮 当たるにせよ滑るにせよ、全力で受けを取りにいかなければと思っていて、変身シーンも有名アニメーターのすしおさんにお願いしています。フルスイングできていれば、空振りでもホームランでもうれしいんですよ。
――実写アカネも、意外とがっつり出てきましたね。
雨宮 当初、実写パートをしっかり入れたいという意向が一部にあって、その影響です。最初の1時間はアニメで、最後の30分は実写でグリッドマンが戦うというアイデアも出ていましたが、お客さんが見たいものか疑問だったのでやめました。
人が残したものを深掘りするのが大事
――ひめがしっかり描写されたのは予想外でした。
雨宮 「ガウマとひめの絡みを見たい」という話がスタッフから出て、それならお客さんも見たいのかなと。僕自身は、あまり見たいと思わないのですが。
坂本 僕は見たかったです。たぶん、雨宮さんは「ひめに再会できないまま思い出を引きずっていく」みたいな哀愁漂うガウマが好きだと思うんですけど、僕は彼に少し救いが欲しかったんです。
雨宮 でも、あのシチュエーションだとは思わなかったでしょ? ひめの登場シーンは「ちょっと良い場面だろう」という予想を覆したかったんです。
――あそこはボイスドラマの第√36回(『SSSS.DYNAZENON』Blu-rayおよびDVDの第2巻収録)がイメージされていますよね。
雨宮 気づいてもらえてうれしいです(笑)。ボイスドラマは公式なのか別時空なのかあやふやなコンテンツなので、少し遊んでもいいだろうと思って、ひと捻りしたファンサービスとして入れました。
――『SSSS.DYNAZENON』の第10回でシルエットだけは出ていましたが、当時からデザインはあったのですか?
坂本 いえ、あのシーンは第10回の作画スタッフが描いていて、僕も雨宮さんもノータッチでした。今回、あのシルエットを崩さないようにしつつ、衣装にダイナゼノンの意匠を入れるなど、色やディティールを工夫してデザインしています。顔に関しては、監督から「ギャルっぽく」というオーダーがありました。
――ラスボスはオリジナルですね。既存のキャラを使う案はなかったのですか?
雨宮 ゲストキャラが登場するシナリオ(インタビュー前編参照)では、特撮版『電光超人グリッドマン』の(時空魔人)亜武丸という敵が劇中で捨てた武器をラスボスにするつもりでしたが、今のシナリオでは変更しています。ひめのシルエットもそうなんですけど、誰かがポッと残したもの、本人はあとで使われるとは思わずに残していったものを、自分の側に寄せて深掘りするのって、けっこう大事だし楽しいと思っているんです。
他の人が作った「グリッドマン」も見たい
――では、最後にシリーズの今後について語れることがあれば、お願いします。
雨宮 自分としては、まだ全然やれるので、オファーがあればいくらでもと思っています。ただ、さらなる理想をいうと、せっかく「グリッドマン」が広がってきたので、僕以外の人が作った「グリッドマン」が見たいというのも正直あります。やりたい人がいたら、ぜひ円谷さんにお声がけしてください。
坂本 以前から『SSSS.GRIDMAN』と『SSSS.DYNAZENON』の合流はやりたかったんですけど、それが終わったので、今は何も考えていないです。でも、求められる声があれば、もちろんまだまだ描きたいですね。
- 雨宮哲
- あめみやあきら 1982年生まれ。東京都出身。演出家/アニメーター。GAINAXを経て、現在はTRIGGERに所属。『SSSS.GRIDMAN』『SSSS.DYNAZENON』に引き続き、今回の『グリッドマン ユニバース』でも監督を務める。他の監督作品は『ニンジャスレイヤー フロムアニメイシヨン』。
- 坂本勝
- さかもとまさる 1984年生まれ。宮崎県出身。アニメーター。GAINAXを経て、現在はTRIGGERに所属。『SSSS.GRIDMAN』『SSSS.DYNAZENON』『グリッドマン ユニバース』の3作品すべてで、キャラクターデザインと総作画監督を担当。主な参加作品は『キルラキル』『リトルウィッチアカデミア』など。
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- Ⓒ円谷プロ Ⓒ2023 TRIGGER・雨宮哲/「劇場版グリッドマンユニバース」製作委員会