TOPICS 2023.06.15 │ 12:00

メインスタッフが語る
『劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD』制作の舞台裏②

『劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD』について、錦織博監督と山本健介監督、そして総撮影監督とルック開発を務める若林優氏が語る鼎談の中編。今回はライブ本編の演出や撮影のこだわり、ファンの度肝を抜いた大型セットに関する制作秘話などについて語ってもらった。

取材・文/原常樹

観客もライブを構成する大きな要素と捉えた

――ここからは具体的なライブの演出について聞いていきます。まずは冒頭の演出について。ライブが始まる前の高揚感を盛り上げる演出が、とても迫力がありました。
錦織 ライブパートではそれぞれのグループの個性を出しても問題ないのですが、今回のライブは4グループによるものなので、彼ら全体にフォーカスするようなイメージにしたかったんです。その上で会場にいるお客さんを音と光で包み込んで、空間に没入させるようなものにできればいいなと思って、テーマに寄り添ったものをストレートに表現しました。会場の熱気や期待感みたいなものが劇場にも届いていたらうれしいです。
山本 観客の存在にもこだわろうという話はずっとしていましたよね。ライブ会場と劇場との間をシームレスにつなぐためには、ステージの上で起きていることだけでなく、観客席もしっかりと見せる必要があるって。
錦織 そうですね。お客さんひとりひとりの存在を見せることで、みんなで作っているライブだということを明示したかった。見せ方としてはハードルがいちばん高かったと思いますけど(笑)。

若林 お客さんをいかに画面に映すかについては、アイドルを映すよりも悩みました。とくに冒頭と幕間の映像が流れるところは大変でしたね。ライブを観ている方にステージをシームレスに感じてもらうためにはどうすればいいのか、さまざまなことを考えて出た結論が「嘘をつかないこと」。そのためにはライブに行ったときに観える光景をそのまま再現するしかないので、いろいろなライブ映像をとにかく見まくって参考にさせてもらいました。

山本 じつは背景のスクリーンに流れる映像も、普段からライブの映像を制作している方々にお願いして作ってもらっているので、一般的なライブの作り方とそんなに変わらないと思います。

――そういった工夫が、あの熱狂の演出につながっているわけですね。さて、ライブ本編のトップバッターを務めたのはIDOLiSH7でした。演出に小道具の傘やダンサーを取り入れた「MONSTER GENERATiON」に驚いたファンも多かったと思います。
錦織 今回のライブは、全体を通していろいろな世界観を切り取っていくかたちにしたかったんです。そこで「MONSTER GENERATiON」では街角での1コマをテーマに、雨上がりに楽しくなって踊っちゃうような、にぎやかなシチュエーションを作りました。ミュージカルの1シーンのようなイメージで振り付けをしていただいて、その過程でダンサーも自然と入ってきた感じです。
山本 じつは「MONSTER GENERATiON」に関しては、他の楽曲とは違う振付師さんにお願いしています。普段とは違ったミュージカル調のダンスを踊るIDOLiSH7のメンバーの姿は、きっと新鮮に観ていただけるのではないかと。

今回のライブでは、大きな世界観をいくつも用意した

――今回のライブでは、グループごとにまったく異なるステージが用意されています。
錦織 先ほどもお話ししましたが、今回は大きな世界観をいくつも用意したかったんです。それも歴史がにじんでいたり、荘厳さのあるものがいいなと思って、アイドルのステージよりはミュージカルやバレエといった伝統的な舞台を参考にしました。そうしたセットはどうしてもスケールが大きくなってしまうのですが、セットの転換も考慮に入れながら無理のないセットリストを組んでいます。

――大変な作業ですね。
錦織 嘘をつくことなく、衣装だったり照明器具のような舞台装置だったり、ステージ上のあらゆるものを魅力的に見せるのは大きな課題でした。ライブに入れたい要素を幕の内弁当的に盛り込んで作っていったので、全体をキレイに見せるのはかなり難しかったと思いますが、どこかひとつだけが目立ちすぎることのないように若林さんが丁寧にまとめてくれました。

若林 普段は足し算の作業をすることが多いのですが、こんなに引いたり薄めたりする作業が多い現場は初めてかもしれません。足すとしたらレンズフレア(※画角内に明るい光源があるとき、暗い部分にまで光が漏れること)ぐらいでした。アナモルフィックレンズ(※映画撮影用のレンズ)で撮ったような映像にしてほしいと言われたので、ボケ方もこだわっています。
錦織 今回はシネスコのフレームで制作しているのですが、オレンジさんにアナモルフィックレンズを使って撮影するための機材があったんです。それで実際に撮影してみるとハレーション(※光が強く当たったときにボケが生じる現象)の出方が特徴的だったりするので、じゃあ、それと同じ見え方になるようにこだわろうと。
若林 そこはこだわりました! ちなみにグループそれぞれの撮影監督にお願いして調整してもらっているので、レンズフレアが多く入っているカットと入っていないカットがグループによっても違っています。

ふたりが出会わない「Incomplete Ruler」

――七瀬陸と九条天による「Incomplete Ruler」も披露されました。こちらのステージに対するこだわりを教えてください。
山本 モーションキャプチャーで撮影した映像があって、これをVR撮影していく形式で制作したのですが、なるべくふたりのアイドルを出会わせないように意識しました。舞台上でもできる限り遠くに立ち位置を決めて、途中で一度近づくんですけど、そのまますれ違う構成になっています。そのため、序盤は偏ったレイアウトになっていて、なおかつふたりを正面から捉えて平面的にするのではなく、立体的に捉えるように心がけました。
錦織 この楽曲は発表された経緯が特殊だったのですが、そこをなぞりすぎず、陸と天それぞれの違いみたいなものを心象風景として描ければ、皆さんに満足してもらえるかなと思っていました。ここから「TOMORROW EViDENCE」につながる心の動きみたいなものを予感させられればいいなと。

若林 個別の楽曲で僕が直接的な作業をしたのは「Incomplete Ruler」と「Pieces of The World」の2曲。だからこそ、この「Incomplete Ruler」は絶対に失敗しちゃいけないなというプレッシャーがありました。しかも、他の楽曲に比べて静かな演出だったので、撮りづらさもあって。レンズフレアもほとんど入っていませんし、画の力で勝負するしかない。あとはそこにどう説得力を持たせて皆さんに感動していただけるかというところになるので、リムライト(※背後から物体を斜めに照らす表現。明るいエッジを作り、物体を際立たせることができる)を入れたり、姿をあえてぼかしたりといった工夫をすることで空間を演出しました。

錦織博
にしきおりひろし 1966年、京都府生まれ。日本アニメーションを経て、現在はフリーのアニメーション監督、演出家、脚本家として多くの作品に携わる。代表作はアニメ『あずまんが大王』、『天保異聞 妖奇士』、『とある魔術の禁書目録』、映画『マジック・ツリーハウス』など。
山本健介
やまもとけんすけ VFX、CGを得意とするクリエイター。1994年に高校時代の同級生らとともにアクワイアを設立、同社にてゲームCG制作に携わり、フリーランス期間を経てから有限会社オレンジに所属。代表作は『トライガンスタンピード』、『ゴジラS.P<シンギュラポイント> 』、『宝石の国』など。
若林優
わかばやしゆう  ENISHIYAに所属するクリエイター。『ブルーサーマル』、『ゴジラS.P<シンギュラポイント> 』、『Princess Principal Crown Handler』など数多くの作品で撮影、撮影監督などを手がける。
作品概要

『劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD』
<DAY 1>&<DAY 2>全国劇場にて開催中!

  • ©BNOI/劇場版アイナナ製作委員会