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新幹線が通り過ぎた道をローカル線で引き返して清水へと辿り着く。異方関連問題の連絡会はこれまで静岡駅の県警本部で行われていたのだが、件数の減少に伴って今回から清水分庁舎に移されることになった。問題が減ること自体は好ましい。このまま会議も減ってくれればなお良いが。
「いやいやはるばるご足労いただきまして」
分庁舎の会議室で、大和田公康(おおわだきみやす)清水警察署長が気のいい笑顔で迎えてくれた。署長だって忙しいはずだが、公安は一応警察の上部組織ということになっているので役付きの人間が対応をしなければということだろう。朝から出張らせてしまい申し訳なく思う。
大和田署長は六〇ほどで髪には白いものが混じっていた。太ってはいないがどっしりと安定した体躯が、警察という組織の中で積み上げてきた経験を感じさせる。この人のような現場の方達の、その地域の中でしか磨き得ない勘の冴えのようなものに、自分もこれまで幾度となく助けられてきた。
「そんなに長くはかからないと思いますが」署長が机上の報告資料を手に取る。厚みで大体の時間は読める。「この後のご予定は?」
「今日はこの出張のみです」
「ならお昼でも。この辺は魚がうまいですよ。港ですから」
「いいですね」
「あとは海老ですかね。桜海老」
他愛のない世間話を交わす間に各管轄の担当者が集まってきた。二十数名の参加者が揃い、静岡県警異方関連事案連絡会議は定刻通りに開始された。
会議はスムーズに進行し、一時間半で全ての報告が終了した。大きな事案は一つも確認されず、静岡県警管内からは異方の影がほぼ消えつつある。この調子ならば次回はさらに規模縮小できるだろう。
担当者が散り散りに部屋を出ていく。隣の席で大和田署長が腕時計を見遣った。
「昼には少し早いですな」
「そうですね。さてどうしたものか……」
「ああ、そういえば」
署長は自分のクリアファイルから一枚の紙を取り出して言った。
「こんなのも来てまして。会議で上げるほどのものではないんですが一応」
書類を受け取る。印字と手書きが混じったそれは捜査報告書だった。内容に目を走らせる。
「異方の石?」
怪訝の念が口から漏れ出た。
「菖蒲沢の海岸で地元の子供が見つけたそうで」署長が話を補足する。「ただどうも、現物は無くしたらしくてね」
「そうですか……」
もう一度書面を読み返す。地元の児童が菖蒲沢海岸で不思議な石を拾得した。異方の物体と思った児童が近隣駐在所に届け出る。だが児童はすでにその石を紛失しており、詳細は不明……。
「確かにこれは会議に上げる事案ではないですね」
署長が苦笑する。石の拾得という内容に相応しく、玉石混交の異方事案の中でも最も石寄りの事件に思えるが。
「何故これを?」
率直な疑問をぶつける。警察署長が国家公安委員会会務官に持ってくる事案にしてはあまりにも些末に思えた。
「いやあ、そんな大した理由もないんですが……」署長は報告書を覗き込んで文面を指差した。「妙に力が入ってるのが気になって」
言われて見返す。ワープロで一度書き上げられた報告書に、後からペンで色々と書き足されている。正式な書類としては打ち直すべきだろうが、確かにある種の熱は感じられた。書面から顔を上げて、大和田署長と目を合わせる。
「勘ですか?」
「勘です」
自分の中で得心して頷いた。地域の中でしか磨き得ない勘の冴えのようなものに、自分もこれまで幾度となく助けられてきた。署長が何かを感じたからこそ見せてきたのだろう。それに組織の中では自分が上役だとしても、この道の大先輩の言を無下にもしづらい。
「菖蒲沢海岸というのはこの近くですか」
どうせ午後は空いている。観光がてら寄ってみるのもいい。
「下田ですね」
「下田」
携帯で地図を確認する。赤いピンが伊豆半島のほぼ先端に立った。清水から電車で三時間半、車で直行しても二時間というルートが無慈悲に表示される。眉根を寄せながら大和田署長を見返す。署長は言った。
「向こうも魚がうまいですよ」
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