誰もが共感を覚える青春物語
――とよ田先生は『これ描いて死ね』の執筆当初、どんな作品を目指していたのでしょうか?
とよ田 『これ描いて死ね』のひとつ前に『金剛寺さんは面倒臭い』という作品を連載していたのですが、そちらは僕の「こういうのが描きたい!」という作家のエゴを丸出しにしたようなラブコメでした。そんな僕のワガママを許し、自由にのびのびとやらせてくださった編集長に恩返しをするためにも、今度は多くの方に楽しんでもらえるマンガを描こうと思ったんです。読者の間口を広げるため、誰にでもわかりやすい「高校生の部活もの」という切り口でいくことにしたのですが、なにかしら「作品としての厚み」を持たせないと読者の心に残りません。そこで、僕自身が心から好きなマンガを作品の「核」にした優しい物語を描こうと思ったんです。
――赤城監督は原作を読んでどんな感想を抱きましたか?
赤城 僕にとってマンガ家という職業は憧れそのものだったので、マンガ創作の楽しさと苦悩、夢と現実が詰まった『これ描いて死ね』には仕事を忘れてのめり込んでしまいました。僕はアニメ演出を生業にしていますが、「創作者」という点では登場人物たちに深い共感を覚えます。そのうえで、キャラクターひとりひとりの個性が非常に立っていて全員を応援したくなる、とてもいいマンガだなと思いました。泣かせるようなシーンじゃないのに、毎回さまざまな場面でグッときてしまいます。
イキイキとしたキャラクターを生んだ伊豆大島
――主人公の安海 相(ヤスミ アイ)をはじめとする登場人物たちを見たときの印象は?
赤城 登場人物たちの個性は千差万別なのに、いろいろなシーンに共感できる部分が必ずあるところがすごいなと思いました。安海の「好きなものにまっすぐ突き進む」ところや、藤森の「言いたいことを言えずに内にこもってしまう」ところ、赤福の「編集者のような視点でマンガを読むところ」など、どのキャラクターの内面も「わかるわかる」と思えるんです。
――とよ田先生はどのようにして本作のキャラクターを生み出したのでしょうか?
とよ田 自分の中のそそっかしい部分を拡大したのが安海だったり、シャイで内にこもってしまう部分を拡大したのが藤森だったり。そんな風に僕の内にある「他人に見せられる一部」を肉付けして、キャラクターを作っていきました。そしてキャラクターを配置するときは、明るい子の隣にはちょっとおとなしめの子を置いて、関係性にコントラストを持たせるようにしています。
赤城 安海たちは本当に面白いバランスで配置されていて、それこそが彼女たちの魅力を引き出しているのだなと思います。
――伊豆大島がモデルの「伊豆王島」を舞台にした狙いを教えてください。
とよ田 僕は3歳まで伊豆大島に住んでいまして。その後、父の転勤で引っ越してからも島に家を残していたんです。それで小~中学生時代の長期休暇は、家族みんなで島に戻って過ごしていました。だから伊豆大島は僕にとって、少年時代のキラキラした思い出が詰まった場所なんです。「その経験や思い出をマンガに活かしてみては」という編集長の提案もあって、緑の匂いや潮の香りを感じる作品にしたいと思って、伊豆大島を舞台にしたというわけです。
赤城 アニメの制作でロケハンに行ったのですが、すごくいいところでしたよ。小ぢんまりとした波浮港(はぶみなと)一帯を一望できる赤福の家の前など、どこもかしこも昔の風情が残っていて。あのあたりを散策しているだけですごく落ち着くし、心が洗われる感じがしました。作中で安海たちは赤福の家の前でお土産品を食べていましたが、真似したくなるくらいきれいな場所なんです。
世代を超えて届くアニメにしたい
――アニメの制作にあたって赤城監督が念頭に置いたのはどのようなことでしょうか?
赤城 まず原作が本当に素晴らしい作品で、マンガを描きたいと思っている若い方やそれを見守る親世代など、幅広い年代の方に届いてほしいという思いがつねに頭にありました。『これ描いて死ね』の根底にある「創作」に対するテーマは、時代を超えて多くの方に触れてほしいものなので、今後、何世代にもわたって見ていただけるフィルムにしなければという思いで作っていました。
――映像では、作品の舞台である伊豆王島の風景がとても美しく描かれていました。風景描写で何か工夫したことはありますか?
赤城 とよ田先生との打ち合わせで最初に言われたのが「島の美しさを一番に考えてほしい」ということでした。僕もロケハンで肌に感じた感動を視聴者の皆さんにお伝えしたいと思って、風景描写には特に気合いを入れました。その際、美術監督をお願いした春日(礼児)さんから「写実的に描写するのではなく、とよ田先生の色使いを少し入れてみたい」と提案されまして。たとえば、影の色はシンプルなブラックにせず、少しブルーやピンクを入れるなど、とよ田先生独特の色使いのエッセンスを取り入れました。
――とよ田先生が本編を見た感想は?
とよ田 「島を美しく描いてください」とは言いましたが、想像以上のものが描かれていてびっくりしました。安海が駆けていった坂道や港の風景など、彼女たちが過ごしている島の景色が身近に感じられました。実際の大島の風景をそのまま描いていただいているので、「聖地巡礼」をすれば再現度の高さに驚かれると思います。
――安海をはじめとする登場キャラクターを見た印象は?
とよ田 本当にキャラクターたちが「命を吹き込まれた」という感じがしました。第1話の終盤で、安海が憧れの「☆野0」と邂逅して泣くシーンがあるのですが、僕も一緒に泣いてしまって(笑)。自分で描いているときはそんなことはないのに、アニメの動きや声優さんのお芝居などの相乗効果でグッときちゃいました。特に僕は早見沙織さんのファンなのですが、手島先生を演じるときは普段と全然違う声を出していて「こんなお芝居もできるんだ!」と驚きました。赤福を演じている藤村(花音)さんにもお会いしましたが、素で雰囲気が赤福っぽくてちょっと面白かったです。安海も藤森も声のイメージがバッチリで、まるで当て書きしたかのようにハマっていて。キャラクターたちがしゃべるたびに「うわぁ、生きてる!」と感動しながら見ていました。![]()
- とよ田みのる
- とよだみのる 1971年生まれ。東京都大島町出身。マンガ家。代表作は『ラブロマ』『タケヲちゃん物怪録』『金剛寺さんは面倒臭い』など。
- 赤城博昭
- あかぎひろあき 1970年生まれ。福島県出身。アニメ演出家・監督。監督としての代表作は『からかい上手の高木さん』『ましろのおと』『僕の心のヤバイやつ』など。


























