TOPICS 2026.07.18 │ 12:00

『これ描いて死ね』の原点に迫る!
原作・とよ田みのる×監督・赤城博昭 対談②

7月に放送がスタートした『これ描いて死ね』は、安海相(ヤスミ アイ)をはじめとする女子高生たちがマンガ創作に情熱を燃やす青春物語。その一方で、彼女たちを導く教師・手島零(テシマ レイ)の過去を描いた「ロストワールド」も、マンガ創作の厳しい現実を伝える重要な要素となっている。原作者×監督対談の第2回では、この「ロストワールド」について聞いた。

取材・文/福西輝明

マンガ家のシビアな現実を描く「ロストワールド」

――『これ描いて死ね』で主軸となる安海たちの物語とは別軸で、手島先生の過去を描く「ロストワールド」を盛り込んだのには、どんな狙いがあったのでしょうか?
とよ田 作中で手島先生が安海たちに「プロを目指さないこと」と釘を刺すシーンがあるのですが、僕もまったくの同意見なんです。マンガを描くことは誰にでもできますが、それを職業にして収入を得て暮らしていくのは本当に難しい。「当たればデカい」という夢もあるにはありますが、厳しい現実に打ちのめされることのほうがずっと多い。だからマンガを描くことの楽しさだけでなく、本当に不安定で厳しい職業であることもお伝えしないとフェアじゃないなと思いまして。そのうえで、覚悟を決めてこちらの世界に来るなら応援するよ、という思いも込めて描いたのが「ロストワールド」なんです。

――あれは手島先生から安海たちへの愛情を込めたアドバイスであると同時に、とよ田先生から若者に向けたメッセージでもあったんですね。赤城監督は「ロストワールド」を見てどう思いましたか?
赤城 「ロストワールド」は読んでいて本当に身につまされました。手島先生は両親が自分のことを「なんであんなになっちゃったんだろうね」と話しているのを聞いてしまうのですが、じつは僕も同じような経験がありまして……。だからあのシーンは読んでいて心がギュッとなりました。
とよ田 あれは実際に僕が親に言われたことが元ネタになっているんですよ。みんな似た経験をしているんですね(笑)。
赤城 いやホントに。でも、親にそんな風に言われて、僕は逆に奮起しましたよ。失敗して親に迷惑なんて絶対にかけない、この世界で自分の力で生き抜いてやるんだと。

――手島先生は『これ描いて死ね』の「もうひとりの主人公」といえる存在なのではないかと思います。とよ田先生は手島先生をどのような人物として作ったのでしょうか?
とよ田 いうなれば「こうなっていたかもしれない自分」ですね。そして「ロストワールド」は全体的に、僕がこれまでマンガ創作をしていて苦労した思い出を凝縮したパートなんです。僕は2002年にデビューしてから今までずっとマンガを描き続けてきましたが、あるとき心が折れてしまったことがありました。あのままマンガ家を辞めてしまっても不思議ではないくらいに打ちのめされたのですが、なんとか立ち上がれたからこそ今の僕があるんです。でも、あそこで立ち上がっていなかったらどうなっていたのか。挫折感を抱えたまま、違う人生を歩んでいたのではないだろうか――。いうなれば「ifの自分の姿」を投影したのが手島先生なんです。手島先生は教職に就きましたが、僕はどうしていただろう……。そんなことを想像したときに、ちょうどコストコの求人チラシを目にしたことがあって、コストコが好きだし、時給もいいし、コストコで働いていたかも……なんて考えたりはしましたね。

「ロストワールド」を本編に組み込む「ミルフィーユ作戦」

――アニメで「ロストワールド」を描く際は、どんなことを念頭に置いたのでしょうか?
赤城 原作での「ロストワールド」は、本編とは独立した「外伝」のようなかたちで扱われていました。ですが『これ描いて死ね』は「ロストワールド」あってこその作品だと思うので、アニメでは本編の中にうまく組み込みたいと思っていたんです。そこでシリーズ構成・脚本の福田(裕子)さんが考案したのが「『ロストワールド』ミルフィーユ作戦」です。これはパイ生地とクリームを折り重ねたミルフィーユのように、本編と「ロストワールド」を交互に重ねて融合させる方式でして。安海たちが創作の世界を駆け上がっていく物語と、手島先生=☆野0が創作の世界で苦悩し、挫折する物語はきれいな対比構造になっています。アニメではそれをわかりやすく対比的に見せられたかなと。特に第3話では、☆野先生と編集の金剛寺さんの握手、そして安海と藤森の握手がオーバーラップするところがあるんですが、あそこは「ミルフィーユ作戦」がうまくいったシーンだと思います。

心の道しるべともいえる「この一冊」

――安海にとっての『ロボ太とポコ太』のように、おふたりにとっての「心のバイブル」といえるマンガを教えてください。
とよ田 僕は藤子不二雄先生の作品が今も昔も大好きなんですが、特に藤子・F・不二雄先生の『未来の想い出』という作品は僕にとって「教本」といえる作品です。たとえるなら「F先生版『まんが道』」といえるもので、F先生がご自身を投影した主人公がマンガ家になるまでが描かれていて、自身の失敗から得られた教訓などが詰め込まれているんです。迷いが浮かんだら、今でも繰り返し読んでいます。あと、藤子不二雄先生のアシスタントをしていたヨシダ忠先生が、おふたりをモデルに描いた『藤子不二雄物語 ハムサラダくん』も好きですね。こちらは『まんが道』を子供向けにわかりやすくしたような作品で、僕のマンガ家としての土台のひとつになっています。

赤城 僕は手塚治虫先生の『サンダーマスク』という作品を子供の頃に読んだんですが、とあるキャラクターの末路が今でも心に引っかかっているくらいのトラウマになっていまして。自分がモノを作る立場になったら、受け手にあんな思いをさせる作品は作らない。そんな反面教師的な意味での「心のバイブル」になりましたし、僕の「最後はハッピーに終わって、受け手を幸せな気持ちにしたい」という制作人としてのテーマにもつながりました。
 もうひとつ挙げるなら、高野文子先生の『ラッキー嬢ちゃんのあたらしい仕事』も外せません。なにかうまくいかなくてモヤモヤするときに読むと、まるでいい映画を1本見たような充足感が得られるし、「こういう作品を作らなければ!」と奮起させられます。気分をリセットするのに最適な一作と言えます。

――最後に第4話以降の見どころを教えてください。
とよ田 第4話からは、新たに石龍光(セキリュウ ヒカル)が登場します。マンガに関してド素人で凡才の安海に対して、抜きんでた才能を持つ人物です。ただ、マンガに関しては天才だけど、情緒面や人間性の面で欠けていて、それを補うために創作に打ち込んでいる。一見すると冷たい子のようですが、単に不器用で人との関係性をうまく築けないだけなんです。ある意味「普通の人に憧れている」という一面があるのかもしれません。
赤城 光ちゃんは天才だけど、いろいろととても危ういところがある子ですよね。人間味が薄く見えるけれど、意外とそうではない。そんな彼女が安海たちとどんな関係性を築いていくのか、ご注目ください。endmark

とよ田みのる
とよだみのる 1971年生まれ。東京都大島町出身。マンガ家。代表作は『ラブロマ』『タケヲちゃん物怪録』『金剛寺さんは面倒臭い』など。
赤城博昭
あかぎひろあき 1970年生まれ。福島県出身。アニメ演出家・監督。監督としての代表作は『からかい上手の高木さん』『ましろのおと』『僕の心のヤバイやつ』など。
作品情報

TVアニメ『これ描いて死ね』

毎週金曜、日本テレビ系フラアニにて23時30分から全国30局ネットで放送中!

  • ©とよ田みのる/小学館/王島南高校漫研