TOPICS 2022.08.23 │ 12:00

いみぎむるが語る
『リコリス・リコイル』のキャラクターデザイン②

『リコリス・リコイル』に登場する魅力的なキャラクターたちを描き出した、いみぎむるへのインタビュー。後編では、千束、たきな以外のメインキャラクターたちのデザインについて尋ねるとともに、自身初となったキャラクターデザインの難しさについても語ってもらった。

取材・文/岡本大介

クルミのデコ出しだけはゆずれなかった

――後編は千束、たきな以外のキャラクターたちについて聞かせてください。まずはミズキのデザインから。
いみぎ ミズキは「残念なお姉さん」キャラなので、すごく美人ではあるものの、表情で遊んでもらおうと思って作りました。表情設定では、わんわんと大泣きをしている表情や、酔いすぎて嘔吐を我慢している表情など、かなり思いきった崩し方をしています。全キャラクター中、いちばん表情が崩れてもいいキャラという認識ですね。ちなみにその次は千束で、たきなやクルミはそこまで表情を崩さない想定です。

――クルミについては、足立さんからリテイクのご相談があったと聞きました。
いみぎ そうなんです。僕の作品に登場するとある金髪幼女のキャラクターに似ていると言われちゃって(笑)。

――『この美術部には問題がある!』のコレットですよね。
いみぎ はい。僕としては区別化できていたつもりだったんですけど、足立さんから「もうちょっと遠ざけませんか?」と(笑)。でも、デコ出しだけはゆずりたくなかったので、黒いリボンを付けたりダボダボなパーカーを着せたりして、ちょっとぐうたらな感じを足していきました。

――どうしてゆずれなかったのですか?
いみぎ 単純にデコ出しキャラが好きなんです。おでこのつるんとした感じがかわいらしいですし、活発な印象も出るうえに描きやすいという利点もあります。他のキャラクターと差別化しやすいなどいろいろな要素が詰まっていて、結果としてすごくデコ出しが好きなんですよね。

――なるほど。ミカについては、アフリカ系であることは最初から決まっていたんですよね。
いみぎ そうです。なので、和服を着せたらギャップが出るんじゃないかと思い、喫茶リコリコの制服は和装テイストで統一することにしました。これまでにアフリカ系の中年男性というのは描いたことがなかったので、最初は悩んだんですけど、最終的には海外のサッカー選手を参考にしました。

――サッカー選手ですか?
いみぎ 海外サッカーが好きでよく見るんですよ。海外チームの選手名鑑や雑誌もたくさん持っていたので、それを手当たり次第にチェックしたんです。参考にした方がすごくカッコいいので、自然とミカも男前になりました。

フキとサクラは「ベタな美少女にしないでほしい」

――他に印象深いキャラクターはいますか?
いみぎ フキとサクラですね。足立さんから「ベタな美少女にはしないでほしい」とオーダーを受けたキャラクターなんですが、僕自身も美少女の王道からズレたキャラクターを描くのは好きなんです。とはいえ、魅力がなくなってしまっては意味がないので、そこのラインを探すのは大変でしたが、そのぶん楽しんで作れました。

――振り切ったキャラクターと言えば、ロボ太も印象的ですね。
いみぎ 最初は「紙袋をかぶったハッカー」という設定だったと思います。それが途中から「ロボットの着ぐるみをかぶっている」に変わり、それでロボ太のラフ案を提出したんです。僕としては叩き台のつもりだったんですけど、気づけばキャラクターデザインにその案が採用されていて驚きました。思わず足立さんに「本当にこれで大丈夫ですか?」と確認した記憶があります(笑)。

――ロボ太は、敵ながら思わぬ活躍を見せていますよね。
いみぎ そうなんですよ。第2話で初登場した際は完全に小物感が漂っていて、すぐに退場するものとばかり思っていましたけど。なんだかんだで憎めないし、真島ともいいコンビになっていますよね。ひそかに「ロボ太はこの先も生き残ることができるのか?」と注目して見ています(笑)。

苦労がすべて吹き飛んだ今、唯一の困りごとは……?

――今回のキャラクターデザインの作業を振り返ってみて、あらためてどのような感想を持ちましたか?
いみぎ いやもう、純粋にすごく楽しかったです。マンガ制作とはまるで違うので、いろいろと大変だったこともありましたが、完成した映像を見たときの感動はめちゃくちゃ大きいですし、貴重な体験ができたと感謝しています。

――作業でいちばん大変だったことは何でしたか?
いみぎ 自分の描いたデザインがアニメではどのように動くのかがまったく想像できなかったことですね。たとえば、アニメーターさんが描きやすいように線の数を減らす必要があることはわかっていても、どの程度まで減らせば描きやすいのかがつかめないんです。減らしすぎると今度は密度が足りなくなるんじゃないかと思ったり。多少なりともアニメ制作を経験していればイメージができると思うんですが、完全に初めてでしたから、そこは大変でした。ただ、足立監督にかなり助けていただきましたし、なにより完成した映像のクオリティが僕の予想を大幅に上回っていて、すべての苦労は吹き飛びましたね。

――とくに千束とたきなのふたりは多くの視聴者から好評を得ていますね。
いみぎ かわいく描いてくださっているアニメーターさんたちには本当に感謝しかないです。SNSなどでも多くのファンアートがアップされていて、それもめっちゃうれしいですね。唯一の困りごとは、次に描く版権イラストで使おうと思っていた構図が、すでにファンアートとしてあがっていたりすることです。僕自身、ファンアートを積極的にリツイートしていたりするので、この構図はもう使えないなと(笑)。すごくうれしい悲鳴なんですけどね。endmark

いみぎむる
兵庫県出身。マンガ家、イラストレーター。2008年に『キミに幸アレ!!』でマンガ家デビュー。他のマンガ作品に『サイトーくんは超能力者らしい』『この美術部には問題がある!』。小説『負けヒロインが多すぎる!』やゲーム『Fate/Grand Order』などのイラストも手がけている。
作品情報


『リコリス・リコイル』
毎週土曜23:30~ TOKYO MXほか各局にて放送中!

  • ©Spider Lily/アニプレックス・ABCアニメーション・BS11