TOPICS 2022.09.13 │ 12:00

ストーリー原案・アサウラが明かす
『リコリス・リコイル』の始まりと変遷②

監督、キャラクターデザインと並ぶTVアニメ『リコリス・リコイル』のキーパーソン、アサウラへのインタビュー。後編ではキャラクターに焦点をあて、ストーリー原案として彼女たちに託した役回りについて尋ねた。

取材・文/岡本大介

千束の名前の由来から暗示されるのは……

――本作もそうですが、アサウラさんはヒロイン名に花の名前を付けることが多いですよね。
アサウラ そうですね。都合よく人の名前に使えるような花名はそんなに多くはないので、あえてこだわる必要もないんですが、なんとなくデビュー作から続けていますね。「ヒロインは作品の花」ですから。

――なるほど。先にキャラクターを決めて、それにふさわしい花を探す感じですか?
アサウラ それもありますし、いい花言葉を持つ花を見つけたら、その花からイメージを膨らませてゼロからキャラクターを作る場合もあります。『リコリス・リコイル』ではどちらのパターンも使っていますが、総じて悩まずにスッと決まった印象があります。

――それで言うと、千束(ちさと)の苗字は「錦木(にしきぎ)」で、花言葉は「あなたの魅力を心に刻む」「危険な遊び」。じつに千束らしいですね。
アサウラ 千束はまさにこの花言葉からキャラクターを探っていった感じです。名前の「千束」については、秋田に伝わる『錦木塚伝説』に登場する「千束の錦木」から引用しています。

――なるほど。ちなみに千束のキャラクター性については、もともとはフキに近かったのが、足立監督の参加によって明るく変化したというお話でした。
アサウラ そうですね。僕のプロットでは、千束とたきなは最初はもっと反発しあっていたんです。千束は「なんで私が新人の面倒を見なきゃいけないの?」という感じで、たきなも「なんでこんな人と組まなきゃならないの?」と思っている。それがだんだんとお互いをわかり合って本当のパートナーになっていくという構成でしたね。今思うと、第1話の時点でそんなにもギスギスしていたら、この先も見たいとは思えないので(笑)、今の形になってよかったなと思います。

クルミは「作中最強キャラ」

――一方で、たきなについては当初からほとんど変わっていないですか?
アサウラ 大きくは変わっていないですが、当初はクールさがより際立っていた気もします。たきなは「ギボウシ」の西日本での呼び名で、花言葉は「静かな人」なので、それをそのまま体現したかのような性格でした。第1話冒頭のたきなの雰囲気はかなりそれに近いですね。

――結果として、このふたりの関係性は視聴者からも大きな反響を呼んでいます。
アサウラ 僕のプロットでも、第3話までにパートナーとしての信頼関係が築かれるという流れは同じだったんですが、足立さんが脚本に落とし込んだことで何倍もエモくなっていて驚きました。とくに第3話の噴水前でのシーンはアクセルベタ踏みで、僕には絶対に書けないなと思いましたし、足立さんだからこそ生まれた名シーンだと思います。とにかく足立さんはエモいシーンを描くのがめちゃめちゃお上手で、第3話以外も毎回唸らされています。

――喫茶リコリコの他のメンバーについても、どのような発想でキャラクターを作っていったかを教えてください。
アサウラ 主人公たちが未成年なので、よく動ける大人がほしいと思って生まれたキャラクターがミズキです。結婚に憧れを抱いていますが、今の時代、ともすれば結婚願望の強い女性ってちょっと古く見られがちですよね。でも、結婚しない自由があるなら、逆に結婚を夢見る自由があってもいいはずですよね。

――ある意味で、そういう風潮へのカウンターですね。
アサウラ そうですね。僕の天邪鬼(あまのじゃく)な性格が出たかなと思います。クルミはジョーカーに近い存在で、少なくとも僕の中では「作中最強キャラ」です。裏話をするならば、1話20分そこそこの限られた尺で段取りに時間を使うわけにはいかないという事情もあります。その点、情報収集や解析、サポートなど、千束たちがガンアクションに到るまでのこまごまとした段取りを一気に片づけてくれるスーパーハッカーというのはとても便利な存在なんですよね。

――容姿が女児になったのはなぜですか?
アサウラ もともと幼女という設定でしたが……最後までその姿で残ったのはもう単純に、足立さんの監督作品だから幼い容姿の女の子がひとりもいないのは許されないんじゃないかな、と(笑)。

――なるほど。ミカはいかがですか?
アサウラ 実戦経験が豊富な、セクシーかつダンディな外国人というのは最初から決まっていました。今はすっかり落ち着いていますが、もともとはイケイケの戦争屋さんという設定ですね。吉松との因縁については最初から大人側のドラマとして用意してあって、そのあとに千束の設定が固まるにつれて、今のような関係性に落ち着きました。

フキには幸せになってほしい

――他にお気に入りのキャラクターはいますか?
アサウラ フキですね。千束が生まれる前の最初期のプロットはバディものではなくチームもので、その時点ではフキが主人公だったんです。なので、思い入れもありますし、それを抜きにしてもなかなかいいキャラクターですよね。自分のもとから離れていった千束とは今でも憎まれ口を叩き合うほど仲がいいし、自分が見放した形のたきなに対してもなんだかんだで甘いし。報われない苦労人タイプなだけに、幸せになってほしいなと願ってやみません。

――いよいよ物語も佳境ですが、最終回に向けての見どころを聞かせてください。
アサウラ 絵もストーリーも、余すところなくすべてを見てほしいと思います。クライマックスは足立さんがガンガンに見どころを作ってくださっていて、すごいことになっていますから。

――9月9日にはノベライズとして『リコリス・リコイル Ordinary days』も発売されました。
アサウラ こちらでは喫茶リコリコでの「ありきたりな非日常」を綴っています。本編では尺の都合で描けなかった普段のお店の様子を存分に描いているので、ぜひこちらも合わせてチェックしていただけるとうれしいです。よろしくお願いします!endmark

アサウラ
北海道出身。小説家。『黄色い花の紅』で第5回スーパーダッシュ小説新人賞・大賞を受賞し、2006年に作家デビュー。主な著作に『ベン・トー』『小説シドニアの騎士 きっとありふれた恋』など。近年は『Phantom in the Twilight』や『revisions リヴィジョンズ』などのアニメ脚本も手がける。
作品情報


『リコリス・リコイル』
毎週土曜23:30~ TOKYO MXほか各局にて放送中!

  • ©Spider Lily/アニプレックス・ABCアニメーション・BS11